第3話 バイト面接

カラン


ケーキ屋のドアには鈴がついていて、お客さんがくるのが分かる仕組みになっていた。

「失礼します」


お母さんのツテでケーキ屋に面接にきた僕は、思った以上にオシャレな店内にドキマギした。

ケーキ屋に来るなんて、何年ぶりだろう…。


奥のキッチンに2人ほど人影が見えるが、レジには誰もいない。


「あ、タケルくん?ごめん、ちょっと待ってね」


キッチンから大きな声で話しかけてくる女性。

あの人がお母さんの知り合いだろうか。


「お待たせ~。タケルくん、はじめまして。弓子さんから話は聞いてるよ」

「はじめまして」


「えっと、ちょっとこっちの部屋でお話できる?」

そのケーキ屋は自宅と繋がっていて、横の扉を開けると休憩所のような部屋があった。


「はい、失礼します」

「ピアノ弾いてるんだって?」

「はい」

「そこの高校に通ってるんでしょ?」

「はい」

「どうぞ、座って~あれ?トシくん、トシくんも来てよ~!」


キッチンにいる男性を大声で呼ぶ。

「は~い」

トシくんと呼ばれた男性はパタパタと部屋にやってきた。


「はい、お待たせ。さ、堅苦しいケーキ屋ではないから、気楽に話してね」

「ありがとうございます」


面接はどうやら、このトシくん…トシさん、という男性がしてくれるようだ。


「お名前と基本的なことを教えてください」

「中路 尊、K高校の1年生です」

「K高校だと、バイト許可証が必要だよね?許可はもらえる?」

「理由がはっきりしていればもらえるみたいです。あの…僕はピアノの講習で東京に行くことが増えそうなので、その旅費の足しにすることで許可をもらえると思っています」

「なるほど。理由が明確だね。仕事内容だけど…まぁ接客です。あのショーケースにあるケーキを箱詰めしたり、レジ打ちや注文を受けたり」

「はい」


僕と面接をしていたトシさんは、背後にいる女性を振り返る。

「カナコ先輩、どう?」

「ふふ…いいんじゃないかしら」


うなづいたトシさんは、勤務時間について話しはじめた。

「営業時間は11時から19時、休日は入れる時間だけ、平日は学校が終わってからだから、16時半以降かな。勉強やピアノに無理のない範囲で週に何回か入ってもらえたら。時給は880円で考えてるんだけど、どうかな?」


あれ…?これは僕がバイトできる方向で話が進んでる?


「あの…僕で大丈夫でしょうか…」

「うん、誰にでも初めてはあるからね。大丈夫だと思うよ。あ、高校にはまだ?」

「母が電話をして事情は話して、バイト許可書に書き込めばいいみたいで」


それを聞いた背後の女性が、話し始める。


「じゃあ、高校まで歩いて5分くらいだし、今から書きに行ってくれば?今日からお試しで入ってみて、ダメならダメで考えればいいよ」


…なんと軽い…こんな感じで仕事をしていいのだろうか…


「お店の住所とか分かる?」

「ホームページにあったので大丈夫です」


奥にいて僕を見ていたカナコ先輩が、僕の背中をバンと叩いた。

「よし!高校に行っておいで!で、戻ってきたら今日から仕事!!高校でなんか言われたら、ここに電話して。説明してあげるから」


カナコ先輩、と呼ばれる女性は勢いのある人のようだ。

圧倒されるように、僕は高校に向かった。


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