第30話 花火大会
「じゃ、当日の17時にコンビニで集合ね!」
ほたるを花火大会に誘ったものの、陸郎が来ないというので黙り込んだ様子だったのが気になっていた。
でも、花火大会どうする?とLINEを送ると普通に返事がきて、あれよあれよと言う間に、当日の待ち合わせ時間が決まり…
陸郎がいなくても良かったのかな?
僕は女子の考えることは分からないなぁ、と思っていた。
5分前にコンビニに着くと、ほたるはジュース売り場の前にいた。
「あ、1本はここで買っておいた方がいいよね」
ほたるはジュースを指さしながら話しかけてきた。
「そうだね、暑いから炭酸飲みたいな」
「分かる~!ジンジャエールにしようかな」
ふと周りを見たら、浴衣姿の人がちらほら。
僕たちは、いつも通りの格好。
その様子に気付いたのか、ほたるは
「スニーカーだから、どこまででもガンガン歩けるよ」
笑顔で言った。
「コンクール良かったじゃん、入賞できたんでしょ?」
「まぁ、去年は入賞すらできなかったから」
「タケルはさ、もうちょっと素直に色々喜んだ方がいいよ?で、絹さん2ヶ所目はどうだったの?」
「2ヶ所目で全国大会決めたよ」
そう、絹さんは翌週の本選で全国大会進出を決めていたのだ。
「すごい人だね、絹さんって」
「そうだね、なんであんなに調子崩したのか、分からないくらい」
「でも、そこで負けない絹さんって強いなぁ~あ、いちご飴買いたい!」
「うん」
花火大会らしく、出店がたくさん出ていた。いちご飴を買うために出店に並んでいると、ほたるが声をかけられる。
「ほたるちゃん」
「あ、先輩!」
バレーボール部の先輩かな?僕が横で静かにしていると
「ね、噂のタケルくんだよね?ピアノ弾いてる」
「え…」
先輩らしい女子が、ほたるを追いやってグイッと僕に近づいてくる。
ほたるが慌てて、会話を止めに入った。
「先輩、やめてください」
「だって、うちのクラスでも騒いでる女子多いのよ。体育館まではピアノの音が聴こえないから」
「だからって…!」
「ね、タケルくん、また音楽室でピアノ弾く予定ある?」
「いえ、コンクール前だけって約束だったので」
「え~そうなんだ。残念。練習が無い日だったら聴きにいけるのに。
…本当にアンニュイな感じなのね。噂に聞いてた通り!」
あ、アンニュイって何?!
ほたるが、大きく腕を振り
「先輩、もうダメです。今日はここまでで勘弁してください!!」
「え~、まあいいけど。幼馴染みだからって、独り占めにしてずるいじゃない」
「本当にすみません!!」
ブツブツいいながら、先輩は先にぶどう飴を買って、友達と合流していった。
「は~、もう遠慮がないんだから!いちご飴買って、人があんまりいないところに避難しよう!」
「う…うん」
途中、大きな豚串やイカ焼きも買いながら土手の端の方まで歩くと、だいぶ人がまばらになった。
僕たちは土手に座り
「まずは、豚串で腹ごしらえだ!」
一本ずつ、食べながら花火が上がるのを待つ。
「タケル、この花火大会前も来た事ある?」
「小学校の時かな、家族で」
「そうなんだ、私は毎年来てる。去年はバレーボール部の仲間と一緒に。
今年…誘ってくれてありがとう」
誘ってよかったんだ。
陸郎に急かされるように誘って、微妙な態度だったから誘わない方が良かったのかと思ってたけど。
ドーン
花火が上がり出した。
「始まったね」
「綺麗~!た~まや~」
最初、大きな花火が上がって、そのあとは小さな色とりどりの花火が上がる。
「小さいのも綺麗だけど、次大きな花火が上がったら写真撮りたいね!」
「夜景モードにしたら撮れるかな」
「花火モードはない?」
「うん」
「機種によるもんね。上手に撮れるかな~?
あ、ほら、おっきいの上がりそう」
二人でスマホを持って待ち構える。
「きた~~~!!」
「う~ん」
「どう?綺麗に撮れた?」
「フラッシュ入った。次は外して…」
「あ、ほらタケル、もう次のが上がるよ!私連写する!!」
急かされて、慌てて設定してなんとか撮る。
「どう、撮れた?」
「何とか、あ、これならいいかな」
ほたるが僕のスマホを覗き込む。
「いいじゃん、上出来!
…タケル、手、繋ごうか」
僕のスマホを持つ手が少し揺れた。
そう、僕たちは付き合っているのだ。
さっき会った先輩には『幼馴染み』と言われていたけど…部活の人には話していないのかもしれない。
僕は、スマホをズボンのポケットに突っ込み、横にあるほたるの手を上からそっと握ってみた。
「覚えてる?小学校の頃、この花火大会でタケルに偶然会ったの。つよぽんが出店で大騒ぎしてお母さん連れまわしてさ、私たち、このあたりの土手であやとりしたんだよね」
「うん…」
言われてみれば…うっすらと記憶が蘇る。
『タケルは、ピアノ弾いてるから器用だね』
幼いほたるが、僕に笑いかけている。
「花火、綺麗だね」
ほたるは、僕を見ずに花火を見ている。
僕もなんだか恥ずかしくなって、横にいるほたるを見ずに、上がり続ける花火を眺めていた。
「この花火は、遠くからでも見えてるのかな…」
ほたるの一言に、どきっとした。
次々と大きな花火が上がる。クライマックスなのだろう。
ドーン、ドーン、音が先にきて、夜空にキラキラとした光が広がる。
僕は、今、その人のことを考えてはいけない、と必死に打ち消した。
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