第29話 これからのこと

本選が終わり、始めてのレッスンの日。

楽譜をピアノに置いたところで、先生が尋ねてきた。


「圭吾からの話、どう思った?」


やはり圭吾さんが僕にああいった話をしたのは、はるか先生の差し金だったのだ。


「僕は、音大に行けるほどの実力があるとは思っていません」

「うん」


………


そのあとの会話が続かなくて、しばらく二人で黙り込んだ。


「まぁ、それは別にいいのよ、そんなんじゃなくてさ、短期研修とかそういうの」

「ああ、それなら母に話してみたら応援してくれて」

「タケルくん自身は?」

「前、受けて楽しかったから、受けてみてもいいかなって」

「そう」


先生は、自分のピアノの上に置いてあったパンフレットを僕に渡してきた。


「手始めにこれ。クラシックのアナリーゼをするコース。圭吾が企画したらしくて指導者もいいし、面白いと思う。ほら、この指導者は私も大学の時にアナリーゼの講義でお世話になったけど、結構すごいわよ」


「はい…」


東京であるのか。


「ちょっとお母さまにも相談してみて。内容がよく分からないようだったら、私に連絡もらえたら説明するから。もしそれに挑戦するなら、田園を全楽章練習しておいたらいいかな、って思ってるのよ。次に取り組む曲も変わるから、まずはそれをどうするか、かな」


なるほど。アナリーゼを勉強するなら、全楽章取り組んだ方がいいってことか。

「分かりました。僕は受けてみたいけど、東京まで行かないといけないし、両親に相談します」


「そうだね、で、それまではエチュードとバッハ、しっかりね!」

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