第28話 コンクール本選ー祝勝会

「ハンバーグにしようかな~!今日はダイエットは中断!!」

「あんたは、いつも中断ばっかり」


望美ちゃん親子の会話はまるでコントみたいだ。明るい性格はお母さん譲りなのかもしれないな。


「どうしようかな、私もハンバーグにしようかな。チーズ乗ってるのもいいけど、大根おろしでさっぱりの方がいいかしら」

「先生、私もそれにしようかと思ってるんですよ。先生チーズでもいいかも。太る気配ないし」

「あはは、太らない体質みたいで。タケルくんは?」

「僕はステーキ」


「!」

一斉に女性3人に見られた。


「タケルくん、細いけどやっぱり男の子なのね」

最初に口火を切ったのは望美ちゃんのお母さん。


「ダイエットを考えると、ハンバーグよりステーキの方がいいのかな」

やっぱりダイエットを考えてる望美ちゃん。


「ステーキなの?」

先生が聞いてきた。

「コンクールの後は、いつもステーキって決まってるんです。昔から」


「ほ~」

3人が納得したように声を合わせる。


「よし、ハンバーグに決めた!ピンポン押します!」

「はーい」


望美ちゃん親子がどんどんオーダーしていく。


その隙に先生が僕にこそっと尋ねてくる。

「ねえ、絹さん大丈夫だった?」

「はい、来週2ヶ所目の本選らしくて。気持ち入れ替えて頑張るんじゃないかな」

「そう、彼女らしくない演奏だったもんね。うまくいくといいね」


「先生、それよりあのイケメンはどなた~?」

オーダーし終わった望美ちゃんのお母さんが、先生に聞いてきた。


「そうですよ、先生、私たち見ちゃいました!!もう気になって気になって」


先生が目を丸くしている。


「ああ、圭吾のこと?」

「けーご!名前呼び捨て!これはっ!!彼氏ですか?そろそろご結婚?!」


望美ちゃんのお母さんは、一定の距離感を保っていると思っていたけど、先生より年上なこともあって恋バナには遠慮がないようだ。


「あはは、違いますよ、彼は大学時代の友人です」

「それにしたって、すっごい親し気でしたよ~私たち、もう間違いないって思ってて」

「大学の時にピアノデュオを組んでいたんですよ、だからピアノのことに関しては、意見が合うことが多いかな。でもそれだけですよ」


ピアノデュオを組むくらいの仲だったのか…。

はるか先生が信頼しているように感じていたけど、それ以上なのかもしれない。


「イケメンですよね。背も高くて。でも先生、結婚してもどこか遠くに行きませんよね?ピアノ教室は続けられますよね?ここにいてくださいますよね?」

「だから、そんな仲じゃないですってば。彼、結婚して子供もいますし」


「え~~~~!!!」


親子は「な~んだ」という顔で、「あんたが先に、絶対に彼氏だって言ったんでしょ」「お母さんも絶対そうだ、って言ったじゃん」などとコントを繰り広げる。


「コンサートの企画とか、そういう仕事に携わってるんですよ。今回もこっちに出張に来るっていうから、ついでに顔出してもらったんです」

「まぁ!音楽関係のお仕事なんですね。よく来られるんですか?」

「ええ、次は18日かな。叔母もいる日だから、3人で飲み会でもしようかって言ってるんですよ。それが終わると全国大会で東京だし」


「先生、花火大会の日ですよ!」

18日に反応した望美ちゃんが言った。


「あ、今年18日なの?」

「そうですよ~私も友達と見に行く約束してて」


僕がほたるを誘っている、あの花火大会の日か。


「ホントね、全国大会と縁がないから、あんたは気楽よ。さ、コンクール本選お疲れ様でした~!」

「二人とも入賞おめでとう!!」


乾杯して喉を潤す。朝からゼリー飲料三昧だったから、体に染みわたる。


「あ、そういえばタオくんはどうなってるのかしら?」

「お母さまから聞いた話だと、3日後の本選に出るはずなんですよ。通過できれば、兄弟そろって全国大会なんですけどね」

「ま~~~!夢のまた夢のような話ですね」


女子3人組は、全国大会の話で盛り上がっている。


分かったのは、圭吾さんははるか先生のただの知り合いじゃないってことだ。

結婚して子供はいるけど、大学時代はピアノデュオを組むくらいの相手。

そして


ーーー『はるかとは、今はピアノだけの縁』

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る