第27話 コンクール本選ー結果
僕の級と望美ちゃんの級は、一緒に発表されることになっていた。
いよいよ貼り出しの時間だが、担当の人がなかなか出てこない。審査が難航しているのかもしれない。
「わ…絹さん、大丈夫かな?あれ桃山先生だよね」
望美ちゃんが言う方向を見ると、確かに絹さんが桃山先生と話している。ちょっと深刻そうな感じだ。
演奏が振るわなかったからか、下を向いてうなづくばかりの絹さんが見える。
「桃山先生、怖いって噂だから…」
「望美ちゃん、そもそも私くらい優しい先生って本当珍しいのよ」
「分かってます。前の先生も超怖かったから」
「そう、小学校の時の全国大会でも、演奏後すっごい怒られてね~親子そろってダメ出しの嵐だったよね、望美」
「思い出す~~」
そういえば、演奏後に先生に怒られたことなんて一度もないな、と思った。
今回も、普通の先生なら怒っているのかもしれない。自由に弾きすぎだって。
絹さんをあまり見てはいけないと思った。彼女にもプライドがあるだろう。声を掛けるのが憚られた。特に結果が出る前の今はセンシティブな状態だろうし。
「あ!出た?!」
ホワイエがざわめいた。
スーツを来た男性が結果が書かれた紙を持ってくる様が見えたからだ。
「さぁ、見てきて!」
はるか先生は、僕たちを送り出した。
名前…あるか…なければ今年も入賞漏れ…
僕の級を上からずっと見ていった。僕の名前も、絹さんの名前もない。全国大会は1名、やっぱりアキラくんか、優秀賞…無い…奨励賞…
…あった!
僕の名前があってホッとしてから、その後もずっと見たけど、絹さんの名前は何回見ても無かった。
あの絹さんが、奨励賞にも入れないなんて…。
グイっと腕を掴まれて、ちょっとよろめいた。
「タケルくん!あった!!優秀賞!!良かった!!!」
望美ちゃんだった。望美ちゃんの級をみると、確かに優秀賞のところに望美ちゃんの名前がある。
「やった…!」
「タケルくんも、奨励賞!フリーダムだけど奨励賞!!」
「フリーダムはもういいよ」
「良かった、美味しいごはんが食べれる!」
「はいはい」
僕たちは、先生の元に戻り結果を報告した。
先生は予想通りの結果でホッとした顔をした。
「タケルくん、絹さんは?」
「それが…名前がなくて…」
「今、声をかけるのは良くないかしら。でも音楽室のピアノを使えるようにもしてくれたんでしょ?声がかけられるようであれば、今行ってきたら?夏休みだからしばらく会えないし」
その通りだ。登校日に絹さんが来るかどうか分からないし、2回目の本選は来週のはず。
結果を見た絹さんの様子をみたら、なにか覚悟が決まったような雰囲気に見えた。
「行ってきます」
「うん、あの先で待ってるから。慌てなくていいからね」
先生は、望美ちゃんと望美ちゃんのお母さんとホールを出て行った。
「絹さん」
「タケルくん、入賞おめでとう」
「ありがとう。本選2ヶ所目は来週?」
「そう。先生にもこっぴどく叱られちゃったわ。あんな演奏して情けない」
「気持ち入れ替えて、立て直して。応援してる」
「そうね、もう崖っぷちだもの。怖いものなんてないわ」
絹さんがまっすぐ強い目で僕を見たから、きっと次は大丈夫、と思った。
「…やっぱり絹さんだね」
「そう?ありがとう、声掛けてくれて。ほら、小宮山先生たちが向こうで待ってるみたい」
「うん、また」
「ありがとう、タケルくん」
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