第26話 コンクール本選ー演奏終了

今日のコンクールの演奏がすべて終わった。

望美ちゃんは、演奏が終わって安心したのか、お母さんに引きずられて歩いている。


「望美ちゃん!頑張ったじゃない!」

「先生~何とか弾けました~~」

「よく頑張った!ドレス着替えておいで!」

「ほら、望美、これに全部入ってるからね」


望美ちゃんのお母さんがバッグを渡す。


「先生!それはそうと、美央ちゃんやりましたね!おめでとうございます!!」

「あら、ご覧になりました?」

「ええ。昨日の本選結果、朝、望美と一緒に見て、大喜びしていたんですよ」

「多分、メンバーも良かったんですよ、美央ちゃんのママがこっちの本選はレベルが高いことが多いからと、ちょっと遠征したのが功を奏したのかも」

「それにしたってすごいですよ、さすがタオくんの妹ですよね」


そうか、貼り出されている入賞者に美央ちゃんの名前がないな、と思っていたら、遠征して受けてたのか。


「先生、美央ちゃん、全国決まったんですか?」

「そう、タオくんの学校の近くの会場で受けてね。ついでにタオくんの寮生活もチェックしてたみたいよ」


なるほど。妹のコンクールのためだけの遠征ではなく、お兄ちゃんのタオくんにも会いにいったということか。


「1ヶ所目で決まってホッとしました。本選2ヶ所で受けられるように、予選から準備していたんですけどね」

「美央ママ、本気ですよね。全国を狙うとなると、やっぱり親もそれくらいしないと…」

「でも、このコンクールだけで燃え尽きちゃわないか、ちょっと心配してるんですよ」

「それもありますよね…」


子供のピアノコンクールをサポートするママならではの意見なのだろう。

うちは「先生のいう通り」でやってきたから、あまりこういうことは無かったと思うけど。


「先生、発表と講評の後、よろしければ軽く食事でもいかがですか?」

「いいですね、タケルくんも行こう?」

「え…」

「そうよ、タケルくん。なかなかこういう機会もないし」


先生と食事なんて、教室でのBBQ大会くらいしか記憶がない。


「お母さんにLINEして聞いてみるね」


はるか先生がスマホを取り出しながら言った。


「あ、お母さま、もちろん割り勘でいきましょう。おごりとかなら、行きませんからね」

「もう、先生ったら、本当にすべて先回りされるんですから…」

「その方が気兼ねなく、純粋に楽しめますしね、あ、タケルくん、お母さんOKだって!どこに行きましょうか。高校生2人いますし、ファミレスが気楽ですよね」

「そう思います。じゃあ、駅前のファミレスにしましょうか」


トントン拍子で話が進んでいく。

着替えた望美ちゃんが帰ってきて、先生と食事だと聞いて大喜びしている。


僕のスマホがピコンとなった。


『コンクールお疲れ様!先生に失礼がないように、楽しんでらっしゃい』

お母さんらしいLINEだった。

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