第25話 コンクール本選ー来年の級
圭吾さんと別れ、僕は客席のはるか先生を探す。
やっぱりいつものところに座ってる。
演奏者が変わる瞬間に、慌てて先生の横の椅子に座った。
「間に合った!次、望美ちゃんよ」
僕は静かにうなづいた。
望美ちゃんは、来年から僕が受ける級を受験している。
高校3年も同じ級が受けられるけど、受験勉強にも集中しないといけないから、このコンクールを受けるのは高校2年の今年がラスト、と言っていた。
中学1年ではるか先生の教室に移ってきた時は、有名な年配の厳しい先生からわざわざ教室を変わってきたという噂が流れ、地元のピアノの先生の間でも周知のことになっていた。
はるか先生が教室を始めて、地元の先生たちが出場させないようなハイレベルなコンクールに生徒を出し、結果も残し始めていることを知って移ってきたのだ。
前の先生は、教室を辞めることを納得せず、随分と揉めたらしい。
はるか先生も、体験レッスンに来た時から、今の先生の元にいた方がいいと何度も勧めたらしいけど、望美ちゃんも望美ちゃんのお母さんも、どうしても移りたいとのことで受け入れたと聞いていた。
将来、音楽大学か教育学部の音楽に進んで音楽の先生になりたい、という目標があってのことだったのだろう。
僕みたいに、このままピアノが弾ければ…なんて考えではない。
ただ、ピアノの練習が不足しがちな望美ちゃんに、音楽大学のピアノ科ではなく教育学部の音楽を強く勧めたと、はるか先生から聞いていた。
そんな望美ちゃんのコンクール演奏曲は、ベートーヴェンのピアノソナタ「悲愴」の第1楽章とショパンのエチュードOp.10-12だった。
どちらも新曲は避け、弾いたことのある曲で余裕をもって入賞を狙いにいっている。
悲愴は中学から弾いてたんじゃないだろうか。テンポも随分上げてきてるし、完成度が高い。いつもの暗譜の危うさもなく、安心して聴いていられる。
エチュードは「革命」と呼ばれる曲だ。左手が弱いから、と高校に入った途端に渡されていたはず。
「タケルくん、スタッカートとかリズム練習とか、本当にやってる?」
望美ちゃんが声を掛けてきたことがあったっけ。
「やってるよ。何を今さら?」
「やっぱりやるんだ…私、これまでやってきてなくて」
「え?前の教室で?」
「言われたことなかったし、やったことなかったの。こんな面倒くさいの本当にみんな家で練習してるのかな」
「…やってると思うけど…」
さすがに、あれからちゃんと練習したんだろう。随分滑らかなフレーズで左手が展開していく。
望美ちゃんの持ち味は、丁寧な指運び。いいぞ!そのまま…!!
革命らしい最後の終わり方!
これは、結構いい演奏なんじゃないかな。
横の先生を見ると、ヨシ!という顔をしている。
来年は僕がこの級に挑戦する。
今年、1つ年上の望美ちゃんや、その他の演奏者の演奏が聴けて良かった。
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