第22話 コンクール本選ーフリーダム

演奏を終え、先生が座っている座席の横に戻ってきた。

はるか先生は僕をみて、ニッコリと笑い


「フリーダムな演奏だった」


と耳元で囁いた。


フリーダム?

ダメだったかな。あまり大きなミスなく終えたんだけど。


とはいえ、演奏を終えた安心感でホッとしていた。

先生の念じたゼリー飲料のおかげか、心地よい緊張感で演奏できて、久々に楽しい舞台だった。


後半の部の演奏が終わり、審査員が楽屋に戻っていく。


「タケルくん、結果までいるよね?」

「はい」

「ホワイエでちょっと話そうか、望美ちゃんも来てると思うし」


フリーダムな演奏って、どういう意味だろう。

完璧とは言わないけど、楽しく演奏できたんだけどな。


トボトボと先生の後を着いていく。


「望美ちゃん!お母さまも!」

「先生~」

望美ちゃんの演奏はこの後。


「このコンクールに出られるのは今年までなんだから、爪痕残しなさいよ!」

「先生、プレッシャー」

「何言ってるの望美、大学の推薦に響くってずっと言ってるでしょ」


先生だけでなく、お母さんにも集中砲火を浴びている。

僕は蚊帳の外だな、と受付場所の人だかりを眺めていたら、望美ちゃんのお母さんが僕に訪ねてくる。


「タケルくん、演奏時間に間に合わなくて聴けなかったの、どうだった?」

「まぁ…」

「タケルくんは、フリーダムに演奏しました」


先生が一言。


望美ちゃんも、望美ちゃんのお母さんも「え?どういう意味??」と聞いている。

それは僕も知りたいよ…。


「悪くはないけど、田園ではなかったってことかな。タケルくんは一体どこに行っていたんだろう??ま、それは後聞くとして、望美ちゃん、しっかりね!」

「…はい。頑張ります…」


望美ちゃんは、ちょっとプレッシャーがあった方が頑張れるタイプ。きっとそれを見越して、先生もお母さんもハッパをかけているんだろう。

舞台袖に向かう望美ちゃんの背中を見送った。


「タケルくん、ちょっとあそこの椅子で話そう」

先生が指さした椅子には、演奏前に偶然目が合った男性が座っている。


「…え?」

「ほら、行くよ」


先生はズンズンと歩いていってしまった。

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