第21話 コンクール本選ー作り出す人

1曲目の演奏が終わり、2曲目のショパンのエチュードOp.25-1に入る。


この曲は中学でもコンクールで演奏していたけど、一つ一つ鍵盤を鳴らしてしまい、先生に散々「風のハープっぽくない!」とドヤされた曲だ。


響きを作る音色づくりというのは難しい。そして、その中に煌めくメロディーラインがあって、和音の色がどんどん変わっていく。


『タケルくん、ボヤボヤしてると、ショパンに置いていかれるわよ』


ショパンどころか、隣のグランドピアノで演奏しているはるか先生にも置いていかれる。

音が合っていても、響きの変化についていけないのだ。


『多彩な響きの変化についていくのではなく、作り出していけるように。あなたは、作り出していく人なのよ』


作り出すーーー


鍵盤に指を置いてから、目線を一度上げた。

ピアノの弦と開かれている屋根の間のその空間、そこに響きを作り出す。


スッとペダルをハーフで踏み、右手と左手の指を祈るように深く入れた。


僕が出したい音の響きが生まれますように!


最初の響きが作り出されれば、目まぐるしい色彩感で進んでいく。生み出された響きは反響され、ホールの客席へと広がる。


そこに、僕の作り出せる限りの色を届けよう。


はるか先生、僕の音はあなたの元に届いていますか?

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