第17話 コンクール本選ー客席

僕の演奏順は後ろだったため、絹さんの演奏はゆったりと客席で聴くことができそうだ。


「タケルくん!」

「おはようございます」


はるか先生も予選落ちした生徒がいるため、本選は少し時間が余裕があるようだ。


「一人?一緒に聴こうか」


中学までは母親がべったりとコンクール会場についてきていたが、高校になってからは一人になった。

それは母親の教育方針だったらしく『義務教育が終わったから、私も解放!』ということらしい。


先生と一緒に客席に座る。

こうやって、先生と2人きりで客席で聴くのは初めてじゃないだろうか。離れて座っていたことも多いし、一緒でもツヨシやお母さんもセットだったような気がする。


実際に2人で並んで座ってみると、思ったより距離が近い。先生が少し動くだけで、ふわっとよい香りがして、くらっとする。

本番を控えて、こんなことでどうする!と叱咤する自分と

せっかく先生の近くにいるのだから、この心地よさを堪能したいと思う自分との闘い。


でも現実的には、横でお腹がなったりしたら恥ずかしいな、などと心配をする。ゼリー飲料たくさん飲んでるけど…


「ね、演奏順、笑っちゃったね」

「なんであのアキラくんが、こんな地方まで?って。しかも僕の後の演奏…」

「ホント、ホント~!でも本選としては日程が早い地区だから、早く通過して全国大会の練習したいのかもね」

「ああ、そういうことか」


僕はプログラムをもう一度見直して、気分を入れ替えた。今さらジタバタしたって意味がない。


「タケルくん、今日は気負わずいい演奏をすることよ。この級で本選まで残れて、このメンバーの中で演奏できるんだからね」

「はい」

「絹さんの演奏順、3番目?もう舞台袖に移動しているわね」

「少し緊張してたみたい」

「全国大会狙ってるはずだからね。緊張するでしょう。君は狙ってなくても緊張してるでしょ?」

「…はい」


まさにその通りだ。


先生と話していたら、開演のブザーが鳴った。

審査員がぞろぞろと客席に入ってくる。

いよいよ、本選の始まりだ。

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