第14話 モテ期到来
今日も、学校の音楽室のグランドピアノはもやっと響く。
夏休みに入り、部活動の生徒たちの声が響き渡る中、僕は学校のグランドピアノで練習するために学校に通っていた。
今日は3時間借りられる予定。
練習をしていると、ふと廊下に人の気配を感じた。
なんだろう?本当は合唱部の練習の日だったとか?
せっかく来たのに、実はピアノ使えない日だったら嫌だな…。
僕はドアを開けて廊下を見た。
「あ、ごめんなさい」
「タケルくん…」
そこには、見覚えのな女子が4人立っていた。
やっぱり部活の日だったのかな。カレンダーよくチェックしたつもりだったのに。
「合唱部?吹奏楽部?今日、音楽室使う日だった?」
「いや、違うの。あの…私たちのことは気にしないで練習してください」
女子の1人が話してきた。
「部活の人じゃないの?」
「あの…タケルくんのピアノ聴きたくて…」
「私たち、夏休み前から、音楽室から聴こえてくるピアノが好きで…」
「練習、続けてください。邪魔しないので」
そうは言われても、練習を聴かれて気にならないタイプでもない。
「ほら、だから私が練習室にいた方がよかったでしょ?」
今日は午後からピアノを使う予定の絹さんが、僕たちの方に歩いてきていた。
「あなた達、タケルくんはあまり練習を聴かれるのは好きじゃないみたいなのよ。残念だけど、私も断られちゃって。だから、聴くならあっちの方で聴くといいわよ」
廊下の先の方を指さして言った。
「近くで聴いた方がいいのは分かるけど、本人の練習の邪魔になるのは良くないし。ファンなら演奏者のことを一番に考えないと」
「毛利さんも断られたの?」
「そうよ」
それじゃあ、仕方ないよね、私たちも向こうで聴く?
女子4人は話し合っている。
「ほら、あっちは椅子もあるから。ピアノの感想でも言いながら盛り上がれるわよ」
「タケルくん、練習の邪魔してごめんね。私たち邪魔するつもりじゃなかったの。少しでもピアノ聴けたらなぁ、って思ってて」
「向こうで静かに聴いてるから」
「コンクール、頑張ってね」
僕に話しかけて、キャーと言いながら女子4人は絹さんが指さした方向に歩いていく。
「私が音楽室に一緒にいれば、虫よけができたのに。そう思わない?」
絹さんは皮肉たっぷりに話しかけてきた。
「絹さん、今日は午後からピアノの練習だよね?」
「午前中、ヒマだから早く学校に来たの。タケルくん、色々自覚が薄いみたいだから。音楽室でピアノを練習し始めてから、あなたのファンが増殖中なのよ。まぁ、こうなることは予想していたんだけど」
「そう言われても、練習を聴かれるのは気分よくないなぁ。仕上がった演奏ならともかく」
ピアノが弾けると分かった途端に、女子の態度が変わるという経験は中学の時にもあった。合唱の伴奏をした後から、何かにつけて話しかけられたり。
僕は、あまり話すのが得意じゃないから、会話が続かなくて結局相手が飽きて離れていくのがオチだったけど。
「そんなにピアノを弾く男子が珍しいのかな」
「タケルくん、そういうことじゃないのよ、本当に分かってないのね。でも本選曲に救われたかもね。予選曲なんて学校で演奏していたら、大量な女子が詰めかけてたかもしれないから」
どういうことだろう?
「…ラフマニノフ、あれはヤバすぎた。あんなロマンティックな演奏聴いたら恋に落ちる女子が大量発生よ。ともかく本選曲はそこまでロマンティックな選曲じゃなくて安心したわ」
ようやく絹さんの言おうとしていることが、僕でも理解できた。
「あのラフマニノフは、誰かのことを強く感じて演奏しているもの。それが誰なのかは、残念ながら分からないのが、ピアノのいいところよね。きっと私のことだわ、って勘違いして聴けば、幸せになれちゃう。
普段はほたるさんが虫よけをしてくれてるとはいえ、ちょっとはモテていることを自覚しなさい、タケルくん」
絹さんはウィンクしながら廊下を去っていった。
こんな僕にも、モテ期なんかがあるのだろうか…
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