第13話 ピアノの響き

こうして僕は、はるか先生のレッスンに通うようになり、あのキラキラした音が弾けるようになりたくて、たくさん練習をした。


「先生、ツヨシは練習しなさいって言わないと練習しないんですけど、タケルは自分からピアノの練習をするんです。本当にピアノが好きなんだと思います」

「分かります。まだ教本の簡単な曲だけど、一つ一つ、いい音を出そうと思って弾いているのが伝わってきますから。


ね、タケルくん。ピアノっていい響きでしょ?出し方ひとつで、音の響きがどんどん変わるから面白いんだよ」


お母さんと話していたはるか先生は、僕の方を見て話し始めた。


「うん」

「ピアノはね、響きの楽器なんだよ。ボタンみたいに押す楽器じゃないの」


そういって、先生はポーンとひとつ、音を鳴らした。


「さ、今日も一緒に音の最後を掴まえよう!ちゃんと掴まえられるかな?よ~~~く耳を澄ませて…」


先生の指は、鍵盤を押したまま。

でもピアノの音はどんどん小さくなっていく。


「まだ小さく聴こえるね」


僕は、ピアノの音が漂っているレッスン室の色んなところを見て、音を探す。


あ…!


パッと手を上げたら、先生も同時に上げた。


先生と顔を見合わせて笑顔になり


「タケルくん、手を上げたの一緒だったね!」

「うん」


音が消えた瞬間に手を上げるゲームだ。



最初にこのゲームをした時、僕は鍵盤を一生懸命見ていた。


「タケルくん、そんなところから音、出てないよ?」


先生に言われてビックリした。え?ピアノの音って鍵盤から出てるんじゃないの?


「音はあそこから出るんだけどね、響きこそがピアノのすごいところだよ。ほら、顔を上げてごらん。部屋中にピアノが響き渡っている」


…ほんとだ


さっきより、音の響きが豊かに聴こえる。

ホールでキラキラした音を聴いたのを思い出した。

僕が出したい音は、こういうキラキラした音、そして響きなんだ。

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