第11話 出会い
一つ年上の兄、ツヨシは小学校に入った時にピアノを始め、2年生の秋にコンクールに出た。
僕はその日、お父さんと留守番をしていたけど、帰ってきたお母さんが興奮して
「ツヨシが初めてのコンクールで予選通過した!!」
と、お父さんの肩を揺さぶりながら話しているのをよく覚えている。
全国大会は翌年の1月中旬。東京で行われるため、せっかくだから家族旅行も兼ねようということになり、両親とツヨシと僕の4人で全国大会に行った。
ツヨシの演奏を、僕はお父さんと客席で聴いた。
初めて来たピアノのコンクール。僕と同じような年の人が、代わる代わる大きな舞台でピアノを演奏していく。
ライトに照らされた舞台は、僕が今までみたことがない世界。
キラキラした音、それはライトの明るさに負けないくらいで、素直に綺麗だなと思った。
そして、いよいよツヨシの演奏。
舞台に立ちピアノを弾くツヨシは、いつもの、ふざけてバカばっかりやっているツヨシとはまるで別人だった。
ホワイエで演奏を終えたお母さんとツヨシと待ち合わせると、両親はツヨシを珍しく褒めたたえる。
「とりあえず止まらずに弾けてよかった~ツヨシ、頑張ったよね」
「全国大会で演奏するなんて、すごいぞツヨシ!お父さんもタケルと客席から応援してたからな」
ツヨシは演奏の緊張からか、普段はたくさん話すのに黙り込んでいる。
「ツヨシくん!頑張ったね」
僕の目の端に、ひらりと白いスカートの端が見えた。
誰?と上を見ると、髪をカールした可愛い女の人がツヨシに歩み寄っていた。
その人は、ツヨシの真正面まできて、ふっとしゃがんだため、僕はその女の人の横顔を真横で見ることになった。
ツヨシの両手を握り、手を振った。
「よく頑張ったね!ドキドキした?」
「うん、あんまりよく覚えてない」
「よく覚えてなくても、一生懸命練習したから、上手に弾けてたよ」
「うん、良かった」
「先生、本当にありがとうございます」
「まさか、うちの息子が全国大会でピアノを演奏するなんて、思ってもみませんでした。いい経験になったと思います。」
両親がお礼を言う。
女の人はすっと立ち上がったため、僕はその横顔を間近で見られなくなり、スカートがヒラヒラしているのをずっと見ていた。
「ツヨシくん、大舞台で頑張って偉かったですね。ご両親も東京まで大変だったでしょう。これから観光ですか?どうぞ家族旅行、楽しんでくださいね。
…あ、弟くんかな?」
女の人が僕の顔を見た。
「はい、タケルって言います。ちょっと引っ込み思案でピアノもいいかと思っているんですけど、何が合うのか分かりかねていて」
「そうなんですね。タケルくん、はじめまして」
その女の人はもう一度しゃがんで、今度は僕を真正面に見た。
「タケル、先生にご挨拶は?」
お母さんにせかされる。
「…はじめまして」
僕の声を聞いて、笑顔になった人。
この人が、はるか先生。
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