第9話 思い出の写真
「これは…ダメだ…」
レッスンから帰宅して、お母さんに『はるか先生とこれまで一緒に撮った写真を見せて欲しい』と話した。
「どうしたの?急に」
「優弥くんが今日写真撮ってるのを見て、懐かしくなって」
「ふーん。印刷してあるのはこれで…あ、何枚かはスマホにあるからLINEに送るわよ」
「うん」
そうして入手した、僕とはるか先生の思い出の写真。
僕は自分の部屋に写真を持ち帰り、まるでタイムカプセルを開ける気分で並べた。
しかし、そこにある写真は想像していたものと違くて愕然とする。
「こ…こんな田舎くさい子供だったなんて…」
もちろん『ピアノ天使』と呼ばれるジャニーズ顔の優弥くんと自分を比べる気はさらさらない。
でも…でも、もう少しイケてると自分では思ってたんだ。
本当に、目をそむけたくなるくらい、ダサイ。イケてない。
「恥ずかしすぎる…」
うなだれるというのは、まさにこういうことだ。
小学生の僕…なんという素朴さだ。
優弥くんの、あのキラキラ感がどのくらいトクベツなのか改めて実感した。
しかも、全部ぶすっとしている。コンクールや発表会の終わりに記念で撮っているのだから、そんな機嫌も悪くないはずなのに。
嘘でも笑って写真に写っていれば、少しはイケていたのかもしれないけど、ヘラヘラできる性格ではない。
高校生になった今でも、普段からあまり笑わないし、写真だからと笑顔を作ることもしない。
これは小さい頃からで、今に始まったことではないことを再認識。
ピコン。
LINEの通知。
お母さんがスマホに保存している写真を送ってくれた。
「あ…これ…」
兄のツヨシと僕が、レッスン室で予選通過のメダルを持ってる写真が目に入る。
「はるか先生が撮ってくれた写真だ」
撮ってもらった時のことを、急に思い出した。
これは、ツヨシと僕が初めて二人揃って予選通過できた時だ。
僕が小学校4年生だったっけ。
それまで僕が通ればツヨシが落選、ツヨシが通れば僕が落選といった具合で、兄弟そろって通過はできていなかった。
『記念に兄弟で写真を撮ろうよ』とレッスン室で先生に言われて、ツヨシはヘラヘラと大喜びでメダルを片手に変顔を作る。
ったく、相変らずバカな兄貴だな、と思いながら、スマホのカメラを向けてるはるか先生を見たら、すごく嬉しそうに僕たちを見ていたことを鮮明に思い出す。
その時の写真を、今初めてみた。
お母さんが、はるか先生から画像データをもらって取っておいたのだろう。ツヨシは見たことがあるのだろうか。僕は、この写真を見た記憶がない。
そこには、僕が『はにかんだ笑顔』で写っていた。
もしかして、お母さんは僕が珍しく笑顔の写真だから大切に残しておいたのかもしれない。
とはいえ、全開の笑顔を見せるツヨシと、はにかみ笑顔の僕。
このあたりから、僕たちの性格の違いは明らかだ。
小学4年生の僕。
もう既に僕の中で、はるか先生はトクベツな存在になっていたんだ。
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