第7話 音楽室のグランドピアノ
音楽室のグランドピアノは、ちょっと渋い音色だ。
言い方を返れば、ちょっともやっと。
その、もやっとしたその音色は僕にそっくりかも、と少し親近感を覚えるほど。
放課後、本選で演奏する予定のショパンのエチュードとベートーヴェンのピアノソナタの練習を始める。
絹さんが先生に頼んでくれたお陰で、合唱部や吹奏楽部の練習で使わない日に音楽室で練習できることになった。
8月のコンクール本選まで、という期限付きとは言え、グランドピアノで練習できるのはとても助かる。
自宅のピアノはアップライト。鍵盤の戻りがどうしても遅いし、ペダルの響きも掴みにくい。
エチュードとは練習曲のことだ。でもショパンのエチュードは芸術性も高く、いわゆるツェルニーの「指しっかり動かしましょう」というものとは一線を画す。
今回、僕の演奏するOp25-1は「エオリアンハープ」とも呼ばれる。名づけ親はショパンと同じ年のシューマン。
エオリアンハープとは、風で音が鳴る楽器なのだそうだ。
この曲は中学の時にも演奏しているけど、あまり良い出来で仕上がらなかった。高校受験もあったし、新曲2曲は負担になるため、一度演奏した時をもう一度仕上げて本選に臨む予定。
今回こそは、重たくならないよう演奏したい。
和音で弾いたりして、響きを徹底的に耳に覚えさせる。
何度かやっていたら、音楽室のドアが開く。
…?
今度は何だと思ったら、絹さんが静かに入ってきた。練習の手を止めた僕に
「ごめん、邪魔しないから練習続けて」
とはいうものの、このまま続けるわけにもいかない。
「何かあった?」
「聴いてたらだめ?」
「いや、聴かせられるような演奏じゃないから」
全国大会に毎年出るような人が、一体何を言っているんだろう。心底疑問に思う。
「そっか、残念…じゃあ帰る。邪魔してごめんなさい」
パタンとドアの閉まる音を聞いてから、練習を再開した。
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