第6話 三者面談

今日は高校に入って初めての三者面談の日。

お母さんと僕、そして担任の先生で、学校生活や進路について話すことになっていた。


「大学への進学を希望ですね」

「はい、県内の国立で」


僕は即答した。


「そうすると1ヶ所しかありませんが」

「そこですね」


そう、県内の国立大学は1ヶ所しかない。


「希望する科はありますか?」

「具体的には決めていません」


「県外に出る気はない?」

「タケル、出てもいいのよ。何とかなるから」

「いえ、県内の国立でいいです」


兄のツヨシは県外志向が強い。多分東京に行きたいと言っているのだろう。

年子の息子二人が県外となると、経済的負担も大きくなりそうだというのも県内を希望する理由のひとつ。


「レベルも悪くないですし」

「悪くないけど、もっと頑張らないと入れないね」


上から目線で言ったら、先生に鼻で笑われた。


「2年生からのクラスは?文系?理系?希望は?」

「理系です」

「うん、それがいいと思います。ハイ、文系・理系テストの結果」


理系にマッチするとはっきりと数値に現れていた。


「え~!理系なの?」

お母さんは横でびっくりして、その数値を見直す。


「このテストは絶対的なものではないのですが、かなり理系に傾いているのが見てとれます。本人も理系を希望しているのでしたら、問題ないと思いますが」


「この子、小さい頃は本ばかり読んでいて、だからてっきり文系かと思っていたんですよ」


僕はテストの数値をみて、やっぱり、という気がしていた。

『バッハが立体的に演奏できるのは理系』

それは、僕も色んな人の演奏を聴いていて感じ始めていたからだ。

僕自身の演奏も立体的に聴こえるのであれば、どこか頭の使い方が理系寄りになっているのだろう。


「先生、理系を希望します。県内の国立大学に進学できるよう勉強します」

「希望は分かりました。お母さまも何かございますか?」

「本人がそう希望するのでしたら、どうぞよろしくお願いします」


教室を出て、お母さんと二人。


「タケル、経済的なことなら本当に気にしなくてもいいのよ。どうにかなるんだから」

「そういうことじゃないよ、あの大学がいいと思ってる」

「ならいいけど…」


お母さんは、頑なに県内の大学に進学したいと言っているのを訝しげにみている。

僕は大学が進学して、何か研究したいと思えることに出会えて、それがうまく仕事に結びつけばいいと思う。

そして、この場所でピアノをずっと演奏し続けるんだ。

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