第2部 夢のような世界と現実

第1話 逃げてるだけ

「タケル、本選って夏休みなんだろ?」


今日も唐揚げ満載の弁当を食べていたら、友人の陸郎に聞かれた。


「うん、8月3日」

「そっか~ばあちゃんちに行ってる間かぁ」

「おばあちゃんちに行くの?」

「7月末からな~。母さんの方の。結構年齢いってるし、行けるうちに行っとかないと

こっち戻ってくるの、お盆明けになるよ、あ、そうそう、お前、花火大会くらい誘っとけよ」


花火大会?


「やっぱり!何も考えてなかったろ!お前んちの近くでお盆に大きい花火大会あるじゃん。ほたるちゃん、誘っとけ」

「あー」

「あー、じゃねえんだよ。ああいうのはきっと、付き合っているからこそのイベントなんだぞ。見てみろ、俺なんて行く相手いねぇじゃねーか」

「長いこと行ってないな」

「ほたるちゃん、誘われるの待ってるかもしんないぜ」


花火大会か。小さい頃に家族で行ったっきりだな。

あの時、ほたると偶然会って土手であやとりをした記憶がある。


「お前、ほたるちゃんと付き合ってんだろ?そういうのにはな、責任ってもんがあんの。いい加減にすんなよ」

「…そうだな」


陸郎のいう通りだ。

ほたるから告白されたにせよ、僕はOKしたわけで。

あの時は、はるか先生への気持ちを何とかして抑え込まなきゃと、そればかり考えていた。

デートとか、花火大会に誘うとか、ちょっと行動を起こすようにしよう。


「先生への気持ち、ちょっとは整理ついてんのか」


考え込んでる僕に近づき、陸郎が小声で話してきた。


「このままでもいいかな、って。どうせ現実的な話にはならないわけだし」


ため息をつきながら、顔を遠ざけ、陸郎は僕を見てはっきりと言った。


「お前のそういうところ、男らしくないと思う」


真正面から言われて、ちょっとビックリした。


「心と体は別、とか、本当に好きな人とは付き合わないとか言うやついるけど、俺はただ逃げてるだけだと思う。付き合ってるんだったら、ちゃんと向き合えよ


…なんて付き合ったこともない奴が言うことじゃないけどな」


最後はちょっとふざけた感じで話を終わらせた陸郎だったけど、言ったことは本音だろう。


「陸郎、唐揚げ食べる?」


僕の弁当にある唐揚げを一つ、陸郎の弁当のごはんの上に乗せた。


「あざーす!」




『逃げてるだけ』


陸郎の言ったキーワードが後から響いた。

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