第34話 コンクール予選ー結果
無自覚だった。
無表情で先生を見ていたつもりだった。
陸郎が見間違えたんじゃないか、と疑いたい気持ちが半分。
無自覚に先生を見て微笑んでしまっていたかもしれないと思う気持ちが半分。
陸郎が、僕の恋心に気付くくらいだ。おそらく後者が正しいのだろう。
「お前さ、ほたるちゃんと付き合ってるんだよな?」
「うん」
「分かってて、付き合ってんの?」
「……」
「悪い、今話すことじゃなかった。演奏終わったばっかりで。落ち着いてから、また学校ででも話そう。
…なんかお前って、思ってたより複雑みたい」
「陸郎ほど、単純じゃないよ」
「お前な、俺にだって色々悩みくらいはあるんだぞ!」
陸郎は、両手を上げてけん制してくる。まるで下手な演劇部の役者のように。きっと重たくなった空気を和ませようとしてくれたのだろう。
「ありがとう」
僕は陸郎と目を合わせられなかったけど、感謝の気持ちをつぶやいた。どこか救われた気分だった。
「おう!」
陸郎はいつも通りの明るい声で、僕の背中をポンと叩き答えた。
急にホワイエに人が集まり、ざわざわしだしたことで、審査結果がそろそろだということに気付いた。
ドレスから着替えた絹さんが、結果が張り出させる場所の近くで立っている。
「おい、あっちで貼りださせるんだろ?向かった方がよくね?」
「早く見ようが、後で見ようが結果は変わらないし」
「え、そういうもん?でも結果気になるじゃん」
「まぁ…」
男性が審査結果を持ってきて貼りだした。
やったー!と喜ぶ声と、がっくりうなだれている姿と。
コンクールというのは残酷なもので、明暗がはっきり別れる。
ふと、はるか先生が遠目からスマホで結果を撮影している姿が見えた。スマホを拡大し、僕の方を見て、ガッツポーズ。
「通過してるみたい」
ポツリと僕が言うと、横の陸郎は、呆れたように僕を見て
「ハイハイ、行ってらっしゃい」
と僕をはるか先生の方へ押し出した。
「タケルくん!やった!通過だよ!」
先生は笑顔で何度もガッツポーズ。
「はい」
僕は今度こそ、自覚ある微笑みを先生に向けた。
先生は目を逸らすことなく僕を下から見つめて、やったね、と言った。
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