第11話 入学式

校門の前には、ほたると両親が立っていた。


「タケルー!おはよー!」


僕たちの姿を見て、両手を挙げながら元気に声をかけてきた。


「まー!ほたるちゃん、制服似合ってるわね、かわいいわよ」


「やだ、おばさんったら!」


「やっぱり女の子はいいわ、うちは男二人だから」


「おはようございます。タケルくんと同じ高校で知ってる人がいると心強いですね」


ほたると両親、僕の母親と話が盛り上がっていた。


ふと、親同士が話し始めると、ほたるは僕の横に来て


「採寸日以来だね」


と話しかけてきた。


そういえば採寸日の日、ほたるがブカブカの制服姿を見せてくれてたっけ。高校の制服はブレザーで、中学のセーラー服とは違って、少し大人びて見えた。


「うん」


こうやって横に並ぶと、ほたるは先生よりも背が高くて165cmくらいはあるのかもしれない。僕は172cmまで伸びてるから、ちょうどいい感じに見えるのかも。


「晴れて良かったね」


「そうだね」


差しさわりのない会話が続いていく。でも、ほたるとならこんな会話を続けていてもいい気がした。幼馴染で性格もよく知っているから、変に堅苦しくなくていい。


「クラス!貼られてる!!」


ほたるが、走り出した。

僕は、どちらにしろ知り合いはほとんどいないし、誰と一緒になっても同じかな、とぼんやり思っていた。


ほたるに置いていかれた感じでポツンと立っていると、斜め後ろから視線を感じた。

振り返ると、髪の長い女の子が立っている。


同級生?


どこかで顔を見たような、でも中学にはこんな女子いなかったし。


「タケルくんだよね?ナカミチ タケルくん」


いきなりフルネームで話しかけられギョッとした。


「私、分からないか。毛利 絹って言うんだけど」


あ…


「ピアノの…」


「あ、良かった。知っててくれたんだ」


「知ってるよ。コンクールでよく名前も見るし、演奏も聴いてるから」


「私も。今、クラス発表で名前を見て、タケルくんの名前見つけてビックリして」


「タケルー!クラス一緒だったよ!」


ほたるが走って戻ってきた。

僕が知らない女子と話していたことに気付いて、ふと立ち止まる。


「ごめん、邪魔したわね。タケルくんは1組、私は2組だったの。今度、ピアノの話しましょ」


ほたるを一瞥して、絹は母親らしき女性の所に歩いていった。

僕のことを母親に話したのだろう、母親はちらっと僕を見て、「ああ」という顔をした。


「誰?」


怪訝そうにほたるが聞いてくる。


「ピアノのコンクールで良く会う人」


「ふーん、クールビューティーって感じ」


「なにそれ。ショーワ?」


「ばか、今はレイワの世だよ!」


お母さんも絹さんに気付いたらしい


「タケル、あれ、毛利 絹さんじゃない?髪をおろしてるから一瞬分からなかったんだけど」


「うん、今話しかけられた」


「やっぱり!舞台ではいつも髪をアップにしてるから。でも、あのスッとした感じは絹さんよね」


「今度ピアノの話をしようって」


「そ。同じ高校になるとはね。はるか先生にLINEしようかな」


「うん、伝えといて」


毛利絹さんは、小学校3年生くらいから僕がよく出るコンクールで名前を見るようになった。もしかしたら、それより以前から出ていたのかもしれないけど、だいたい小学3年や4年くらいから、「この子は違うぞ」という突出したオーラを出し始める子が多い。


僕が絹さんを知ったのも、小学校3年の冬に出たコンクール予選だった。

僕の後に演奏した絹さんは、舞台袖で聴いても透き通った音色で美しく演奏した。


金賞で予選通過をし、僕は銅賞で予選通過。

はるか先生が、「タケルくんも上手だったけど、後に弾いた絹ちゃんって子も、すごかったわね」と興奮気味に話していた。


中学に入ると、ピアノのコンクールに出続ける人はガクっと減る。部活動に移ってしまう人も多いし、演奏の難易度も上がり、音楽センスがないと入賞は難しいからだ。

でも絹さんは、県内ではトップクラスを走り続けた。

先生も、中学に入り大学教授に変えたという噂も聴いた。


専門に進むのかな、と思っていた。

県内には県立高校の音楽科と私立の音楽科があるから、そこに行く子が多い。


同じ高校になるなんて、夢にも思わなかった。


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