第10話 入学式の朝の憂鬱

「信じられない…」


入学式の朝、僕は、僕自身に本当にあきれ果てていた。


夢はおぼろげ。


でも先生を喘がせ、先生の息遣いを耳元で感じていた。


「タケルくん…んっ…」


「せんせっ…好き…好きっ」


これが僕の潜在意識にある願望なのか。

シャワーに慌てて向かい、下着をこっそりと洗いながら、自己嫌悪に陥った。


なんだって、よりによって入学式の朝にこんな濃い夢…


しかも今日は、付き合うことになったほたると高校の校門で待ち合わせることになっている。

付き合うと決めてから初めて会う日なのに、なんという裏切り行為。


「おはよう」


シャワーを爽やかに浴びてきました、と装いリビングに向かった。


「おはよう、朝ごはん出来てるわよ」


「おう、タケル、お前も今日から高校生か。俺とは電車が逆方面で寂しいな」


兄の毅は、何やら僕をニヤニヤした顔で見てくる。男同士、もしかしたら僕の夢精を感じ取ったのか?

毎日必ず朝シャワーをするわけではないから、行動が怪しかったのかも。


「あんたと同じ高校だけは避けたかったから」


「つめてーオトウト」


こんなバカみたいな兄だが、県内屈指の進学校に通っている。運動も勉強もいつも僕よりも出来た。人付き合いもうまく、クラスの中心にいるような兄に僕はいつも劣等感を感じざるを得なかった。


そう、ピアノ以外、僕は兄にひとつも勝てない。


「タケルも成績上は、お兄ちゃんと同じ高校も狙えたのに~でもまぁ、あんたたち仲悪いから高校が別になって良かったかも」


お母さんは、僕たち兄弟が仲が悪いのを話のタネにしながら朝ごはんを食べ始めた。

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