25、二人っきりの時間だよ


 夕方になって、赤く染まった海を見ながら、俺たちは帰宅した。朝からずっと遊んでいたのと、色々とトラブルがあったので、すっかりクタクタになっていた。


 四人で横並びになって寝ていると、あっという間に駅に着いていて、先に福男が、次に猪苗代が帰っていった。


「楽しかったでござる!」


「また、遊ぼーねー!」


 二人とも満足げな顔をして帰っていった。福男も女子の前だと偏屈さも薄れるんだな、と考えると感慨深いものがあった。


 俺と春姫は当然、一緒の駅で降りて、家までの道を歩いた。夕日は沈んで、人通りの少ない住宅街では、街灯がパチパチと点灯し始めていた。


「もうすっかり遅くなったな」


「うん……そうだね」


 春姫はどこか言葉少なだった。


 海で大泣きした瞳は、ちょっとだけ赤く腫れていた。俺もさっきのことはあまり言い出せずにいた。


 ただ黙って二人歩いてるのも気まずいので、何か違う話題を振ることにした。


「……海、人いっぱいだったな」


「うん……嫌だった?」


「いや、別にそんなことはないよ」


「そっか。テッちゃん、あんまり人混み好きじゃなかったから」


「うん、好きじゃないが、楽しかった」


「……そう言ってくれて嬉しいな」


 春姫は頬を赤らめながら言った。


「どうして来てくれたの。マリーちゃんが誘ったから?」


「まさか、あいつにそんな義理なんてない」


「……マリーちゃんの水着可愛かったね」


「まさか春姫の方がずっと可愛かったよ」


「えっ」


「あっ」


 何を言っているんだ、俺。


 そのあとの言葉が出てこない。きっと口を開けば、不用意な言葉しか出てこない。

 春姫も口を開くことができずに、ただ視線をそらしている。結局気まずく、長い沈黙の時間が過ぎた後で、俺たちは家にたどり着いた。


「じゃあ……俺はこれで」


 夏の暑さに頭がやられているのかもしれない。


 手を振って去ろうとした俺に、春姫が後ろから声をかけた。


「えっと」


 春姫は俺の後ろで、じっと顔を伏せたまま言った。


「今日、水曜日だよね」

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