14、あーそーぼっ!


 猪苗代は俺にぺこりと頭を下げた。


「左良くん、ありがと! 君って見た目よりもずっと良い人なんだね!」


「俺ってそんなに印象悪いのか」


「だっていつも教室の隅っこで、人のことにらんでるじゃん」


「にらんでるわけじゃないけどな。それは猪苗代もだろ」


「私は眠いだけ」


「俺もだよ」


「お互い目つき悪いんだね」


 クスクスと笑う猪苗代は、いつもより幾分か親し見やすい空気をまとっていた。


「春姫の幼なじみって聞いた時はびっくりした。なんか似合わないなって思って。でもそんなことないね。誤解してた」


「誤解してたのは俺も同じだよ。ずっと、やばいヤンキーなのかと思ってたさ」


「それねー。だから友達いないんだけどさー。話しかけてきてくれたのは、春っちだけだよ」


 猪苗代はおずおずと照れ臭そうに自分の髪を触ると、言った。


「……ねぇ、そうだ。たまに左良と春っちって遊んでるんだよね」


「あー……そうだな」


「あたしも行って良い?」


「えっ」


 今度は俺が固まる番だった。


「遊ぶって、俺の家だぞ」


「うん」


 表情を凍らせた俺にお構いなく、猪苗代は言った。


「あたしも左良くんの家で一緒に遊んでも良い?」


「それ……は」


「ダメかな?」


 面と向かって言われると断りづらい。


 しかし春姫が俺の家に来る日は水曜日だ。水曜日ということはセックスごっこの日だ。


 断った方が良い。


「ダメ……かな?」


 猪苗代が俺を見つめてくる。大きな瞳は子うさぎのようだった。ますます無下むげに断りづらい。


「……別に」


「大丈夫?」


「春姫の予定が……どうだかな」


 俺がそう返答をすると、猪苗代は太陽が差し込んだようにパァッと顔を輝かせた。


「そうだね。じゃあ、春っちの予定も聞いてみるよ!」


「あー、うん」


「オッケー。じゃあ、また今度!」


 すっかり行く気でいるし。


 猪苗代は意気揚々いきようようといた足取りで帰っていった。まさか毎水曜日に俺と春姫の間で、セックスごっこがとり行われているとは知るまい。


 猪苗代が来たら、セックスごっこができない。


 ……うまく春姫が断ってくれると良いんだけど、と心の奥で願わずにはいられなかった。

 

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る