15、結局、来ちゃいました。


「お邪魔しまーす!」


 猪苗代マリーは、春姫と一緒に水曜日にやってきた。結局、春姫も彼女のことは断らなかったようだ。


 まぁ、それはそれで良い。たまにはセックスごっこなしの水曜日というのもありだろう。


 ちょっとさみしい気持ちはあるが。


 猪苗代を先に二階に上がらせて、丁寧に靴をそろえていた春姫が俺に言った。


「テッちゃん、ごめんね。マリーちゃん、どうしても来たいって言ってたから」


「別に良いよ。それにしても猪苗代と仲よかったんだな」


「委員会で一緒なの。マリーちゃんとっても面白いよ」


 面白い、とは色々なとらえ方がある言葉で、猪苗代のそれは、トラブルメーカー的な面白いだった。


 先に俺の部屋に入っていた猪苗代は、身をかがめて、俺のベッドの下をガサゴソと漁っていた。


「おい、何してんだ」


「エロ本、探してんのー」


「男子高校生かよ。そこには何も入っていないぞ」


「そうなの? ベッドで変なこととかしてない?」


「してないっ!」


 している。


「そんで、いつも二人は何して遊んでいるの?」


 猪苗代はテーブルの前で、あぐらをかくと俺たちに言った。


 俺は春姫と互いにきょとんと顔を見合わせた。目があった春姫の顔が気のせいか、少し赤い。俺はゴホンとせき払いをして、猪苗代に言った。


「宿題とかかな」


「マジで? 真面目だねぇ」


「本当だよ、マリーちゃん。私たちいつも二人で勉強してるんだ」


「へぇー。確かに二人とも成績良いもんな」


 神妙な顔つきで納得した猪苗代は、自分のカバンを漁ると、あっけらかんとした調子で言った。


「わたし教科書持ってないや」


「お前、今日授業どうしたんだ」


「隠れてゲーム実況見てた」


「マリーちゃん、わたしの貸してあげる。一緒に見よ」


「おぉ、春っち……さんきゅう」


 生物のレポート提出が近かったので、三人で協力しながらやることにした。俺よりさらに授業を聞いていないはずの猪苗代は、なぜか俺たちよりも単元の内容を理解していた。


「なんで教科書持ってないのに、こんなにできるんだ」


「うーん、勘?」


「テッちゃんと同じで地頭が良いんだよ。テッちゃん以上にサボりがちだけど」


「もー、春っちはめ上手なんだから」


 照れ臭そうに猪苗代は笑った。悔しいが、なんか憎めないところがある。


 適当に世間話をしながらやっていくと、いつの間にか一時間近く経ってしまっていた。


 猪苗代は大きく身体を伸ばしながら、あくびをした。


「はぁ、こんなに勉強したの。久しぶり」


「なんかできてるのはムカつくな」


「理系科目はねー。文系はさっぱりなの、あたし。いつも春っちに教えてもらってる」


「わたしは逆にマリーちゃんに教えてもらってる」


「うらやましいな。俺は一人でやるしかないから」


「来栖くんは?」


「あいつは何もやってこない」


 福男はさらにサボりがちで、赤点を良く取っている。代わりに体育科目が抜群に良いという動けるデブだ。


「ねーねー。そういえばさー」


 猪苗代が思い出したように言った。


「春っちと佐良ってやっぱり付き合ってるの?」


 こいつ、いきなりブッこんで来た。

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