11、多分そんなに悪い人じゃない
「あんたさぁ、春っちとどういう関係なの?」
猪苗代マリーは放課後、わざわざ校舎裏まで俺を、呼び出して詰め寄ってきた。アメリカ人の父をもつ彼女は、もともとブロンドっぽい髪を、さらに脱色して、色鮮やかな金色に染めている。
福男の言葉を借りると、学園の五人の美少女を選ぶとしたら、候補に入ってくるくらい猪苗代マリーは綺麗な顔立ちをしている。
しかし春姫と違うのは、彼女の人柄だ。
陽キャと言うより、ヤンキーの部類に入る。現にこうやって、校舎裏に呼び出して詰め寄ってくるような性格だ。
キッとにらみつけてくる猪苗代に俺は言った。
「どう言う関係って……ただの幼なじみだよ」
「知ってる。春っちから聞いたもん。でも、学校で全然しゃべってるところないじゃん。冗談だと思ってた」
「知らんがな」
「それなのに、二人連れだって遅れて登校してきてさ。一体どういうつもりなの?」
「ただ、たまたま登校時間が一緒になっただけだよ」
「それだけな訳ないじゃん。春っち、今日、ずっと落ち込んだ顔していたよ」
そうか。
猪苗代の言葉を聞いて、俺はなぜ彼女が詰め寄ってきたか分かった。
春姫は痴漢のショックから立ち直れていない。
今朝のあれはやはり無理していたんだと、ようやく俺は理解した。
「何かあったの?」
「別に……何も」
春姫が痴漢のことをこいつに言っていない以上、俺が口を出すべきじゃない。
俺はただ首を横に振った。
「本当?」
「本当だよ。何もなかった」
「あんたが、なんか変なことしたんじゃないよね?」
「してない」
セックスごっこを除けば、変なことはしていない。
「本当に? 幼なじみって関係にかこつけて、春っちのことをイジメたりしてないでしょうね」
「してない」
「春っちが断れないからって、嫌なことしてない?」
「……してる訳ないだろ」
「なんか、怪しいなぁ」
猪苗代は顔を近づけて、いぶかしむように俺のことをのぞき込んだ。距離が近い。目を落とすと、胸の谷間が見えるくらいに近い。
沈黙は金。
俺はただ黙って首を横に振った。
むっと口を尖らせていた猪苗代だったが、さすがに諦めたのか、ふんと捨て台詞をはいた。
「春っちに変なことしたら許さないからね」
猪苗代が
ようやく解放されて、俺はホッと息をついた。妙に真実に近づいてくるので、何も悪くないのに、冷や汗をかいてしまった。
「しかし、春姫、猪苗代とあんなに仲良かったんだな」
クラスの中でも大人しい部類の春姫と、気の強いヤンキーの猪苗代。取り合わせとしては不思議な感じだったが、あの詰め寄りようを見る限り、猪苗代は相当、春姫のことを気に入っているようだった。
もしセックスごっこをしているなんて知ったら、猪苗代は発狂するに違いない。あれは合意の上だから、別に問題はないのだが。
いや……合意だよな?
『春っちが断れないからって、嫌なことしてない?』
さっき猪苗代に言われたばかりの言葉が脳裏をよぎる。
なんか、不安になってきた。
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