第11話 講座を終えて

 私は、甥の前でこう述べて「講座」のまとめを述べた。

 

 要するにだな、喧嘩文体であれ小論文であれ、予想される反論に対してきちんと準備をして、それに配慮しながら自説をしっかりと述べていけばいいわけだよ。

 書き方は、今渡した小論文の例文でも読んでいれば、自然とその文体が身につくし、いろいろ書けるようになるだろう。

 作文は、いくらか書き方が違うかもしれないが、要は、事実に基づいて、自分の意見や感想を述べていけばいい。

 そのときも、基本は、自分とは違った感想を持つ人がどういう意見を持っているだろうかということを常に意識して、配慮しつつ、自分の言葉で、自分の言いたいことを丁寧に述べていくこと。それが大事だ。

 単に事実ではないというぐらいの嘘はいいし、場合によっては、むしろ真実を伏せた方がいい場合も確かにある。


 ただし、明らかに嘘ととられるようなことや、正当な理由なく人を傷つけるようなことは書いてはいけない。

 すぐばれるし、文章どころか、君自身が信用されなくなる。

 なんせ「文は人」というぐらいだからな。

 気の利いた言葉も、今は使いすぎるな。

 あとが続かなくなるし、全体のバランスが崩れてしまう。

 もう一度言うけど、あくまでも自分の言葉で、自分が言いたいことを、丁寧に、読む人、特に自分とは異なる考えを持っている人を想定して、説得するように、書いていくことが基本だ。それは、論文であれ、作文であれ、何であれ、どれでも一緒だよ。ちょっとした置き書きのような文章でもね。


 かなり消化不良な気もしないではないが、とりあえず、教えるべきことは教えられたかな。今回、私が教えたことが彼にどれだけ理解できたかはわからない。まして、どれだけ実践できるようになったかなんてとんでもない。いずれにせよ、これからどんどん書いていくうちに、彼も書く力をつけてくることは間違いなさそうだ。

 しかし、その夜かかってきた電話によれば、何だか、いろいろ書いてみたくなってきたから、機会を見つけてはとにかく文章を書いてみようと思う、とのこと。また書いたものを読んでほしいということなので、それはいつでも、メールなりなんなりで送ってくれれば、読んで添削なり感想なりを出してやるよ、と言っておいた。


 甥はこの日の夕方、路線バスに乗って自宅へと戻っていった。

 彼がこの後、どんなことを学び、どんなことを文章で表現していくのだろうか。


 これで一つ、楽しみが増えたな。


 自宅に戻り時計を確認すると、午後7時過ぎ。いささか、暗くなりかけてきた。つい1月ほど前はまだこの時間でも十分明るかったのだが、さすがにこの時間帯になると、暗くなりつつある。秋は、もうすぐだ。

 そういえば、帰りがけに通った、あのガソリンスタンドのあった空き地には、トンボが何匹か、雑草の上を縦横無尽に飛んでいた。



 著者より

 拙文の「密林」レビューの引用はすべて、私・与方藤士朗が以前、本名「米橋清治」名義で、「密林」ことアマゾンが運営しているサイトのレビューに執筆したものです(現在は諸般の事情により非公開となっております)。

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