第6話 喧嘩読み書きの基礎

 甥は、相も変わらず熱心に読んでいる。


 「どうかね、これがまあその、なんだ、いわゆる「喧嘩文体」というものを解説した文章というわけであるが、読んでみて、どうかな?」

 「確かに、面白いです。ただ・・・」

 「ただ、何かね?」

 「これ、一歩間違えたら、問題を起こしそうに思えるけど・・・。思いっきり言いたいことを述べるのはいいけど、その後あえて、こう言うとこんなことを言いだす奴がいるだろうが、そんなものはこうこうこうだ・・・って、そこがまた、さらなる罵声を浴びせるような表現だから、そりゃ、聞かされる相手は、たまらないだろうな・・・。場合によっては、さらに論争がエスカレートしかねないような気もするけど・・・」

 「まあな。そりゃ、相手を間違えたらそうならないこともない。だが、自分自身の主張を激烈に述べなければならないときなどは、このくらいの表現を使わないとね。そうだな、例えば、裁判のときとか、よほど、相手に対して許せないものがあるときや、そうでなくても、どうしてもこれだけは人に読んでもらいたいと思うときとか、あるいは、人をあおって何かを・・・というときにも、割に有効な手段かもしれない。もっとも、裁判のときは、あまり感情を入れすぎるとまずい面もあるがな」

 「それってまさか、プロパガンダの手法?」

 「そこまでのものではないが、しかし、そんな言葉、どこで知ったか知らないが、よく知っておるな」

 「いつだったか、社会の先生から聞いたよ。その言葉の意味が分からないと言ったら、辞書を引いて教えてくれた」

 「そうか。まあ、言葉を知るきっかけはどんなことでもいい。それを知ったら、見えてくるものが違ってくるというのは、君もそこで感じたのではないかな?」

 「確かに。なんか、それまでと違う何かが見えた気がした」

 「その感覚、忘れちゃいけない。ところで君は、イェーリングなんて人の名前は、聞いたことあるかね?」

 「ないよ。今初めて、ここで聞いた」

 「そうか。まあ、そんなもんだな。じゃあ、今ここでイェーリングなる人物を知ったとして、君は、この人がどんな人かを、何かで調べようという気持ちになったかね?」

 「まずは、インターネットで調べてみようと思うけど・・・」

 「よろしい。それで、調べてみればいい。こういうきっかけから、いろいろなものを調べて、そこからいろいろな知識が得られ、さらに、知りたいことが増えてくることもあるだろう。そしてまた、いろいろと調べ、様々なものに出会っていくのだ。そんな経験をどれだけ君が積んでいけるかは、君自身のこれからのがんばり次第だ。ある程度私も手助けは出来るが、いつまでも手取り足取りとはいかないし、そういうのは、君だっていやになるだろう。しかしな、あまりシャカリキになったりすることはない。まあ、気楽に、焦らず、ぼちぼち、やっていけばいい。そうしないと、長続きしないからね」

 「もう少し、喧嘩文体というか、それに関連した何かを読んでみたいけど、何かある?」

 「それでは、こんなものがあるので、読んでもらおうか?」


 外は暑苦しい限りだが、室内はこのところ冷房を自動運転でずっとつけているから、涼しい限りである。実はこれだけ冷房をかけても、それほどの電気代にはならない。ただまあ、閉めっぱなしでは何なので涼しい朝のうちに空気の入替えのためにベランダの窓を開けたりはする。

 今日は甥とはいえ人が来てくれている。人の出入りも、この空間の活気づけにはなるというものだ。

 ちなみに私のアパートのベランダは東向きなので、西日は入らない。これから夕方に向かうが、室内はどんどん涼しくなっていく。

 思考を巡らすには、わりといい環境ではある。


 閑話休題。

 次に紹介する文章はレビューの引用はないが、あるノンフィクションに応募したときに下書きとして書き込んでいたものだ。その内容を読んでいただければ、読み書きするにあたっての「喧嘩」というものがどんなものか、ご理解いただけると思うので、ここでご紹介しよう。

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