第1話 初陣①


―その世界は深い霧に包まれていた―


植物や動物の姿形すらも覆い隠す深く暗い霧。

生物の生死すら曖昧なこの地を駆ける巨大な金色の建造物があった。

キャタピラにより走行しているそれは砲台がついており、しかし戦車と呼ぶにはあまりにも巨大な城のような形だった。


――移動要塞グラスヘイム――


それは深い霧を生み出した、ヨドゥンと呼ばれる未知の生命体に脅かされた人類の砦である。


建物内は司令区画、居住区画、戦闘員区画に分けられており、老若男女が生活を営んでいる。


『2時の方向に多数のヨドゥン反応、戦闘員は各自ゲートより出撃を!繰り返す……』


戦闘員区画に緊急放送が響き渡る。


そんな中で廊下を走る二人組の青年がいた。


「おいヒヨッコ共!お前らは13番ゲートでで雑魚の相手をしておけ!」


先を走る屈強な男が二人に声をかける。


「了解です先輩!……とうとう実戦だなエイジ!」


意気揚々とした様子で話す青年は礼門翔レイモンカケル。オレンジ色のショートヘア、ゴーグルが特徴的だ。


「あぁ、そうだな」


緊張気味に返す青年は唐沢栄士カラサワエイジ。紫色のミディアムヘア、黒いスポーツサングラスが特徴だ。


「なんだよ緊張してんのか?俺とお前なら大丈夫だって!」


自信にあふれた笑顔のカケルとは対照的に眉をひそめるエイジ。

二人はバディを組み、人類の敵であるヨドゥンと戦う戦闘員であった。しかし未だ実戦経験はなかった。


「どこからくるんだよその自信は……」

「そりゃ俺達の仲だから、だよ!」


そういいながらカケルは右耳につけている銀のピアスをなでる。

エイジも無言で右耳をなでる。そこにはカケルと同じデザインのピアスがつけられていた。

これは二人が互いを信頼する証としてつけたものだ。

幼いころからこのグラスヘイムで生まれ育ち、共に育んだ友情は親友と呼べる間柄になるほどだった。


「おっ、あれが13番ゲートだな」


二人の目の前にはⅩⅢと書かれた巨大な金属製の扉が外敵を阻むように閉ざされていた。





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