第14話 不本意ながら予言されました

 「メイビスが辞めるってどういうことですか、支部長!?」


 リリアが噛みつくような勢いでフェルム支部長の机に身を乗り出す。


 「落ち着け、リリア。まだ正式に決まったわけではないのだ」


 たしなめるようにアリーシャが言う。


 「だって!」


 「まあ待て、リリア。支部長、どういうことか説明してもらえますか?」


 俺の言葉に支部長は困ったような顔をして、俺の足元の女の子に視線をやる。


 「ふむ、少し複雑な事情でね。今説明してもいいが、その子は退屈じゃないかな?」


 確かにこのまま俺にしがみつかせた状態でい続けるわけにもいかないだろう。


 「その子を落ち着かせてからゆっくり話そう。食事はもう済ませたのかい?」


 そう言えば食べ損ねたままだった。今からさすがにリリアお薦めの店に行くわけにもいかないだろうから、隣の山羊の胃袋カペラ。ストマクスで食べるとするか。この子もお腹を空かせているかもしれない。


 「それでいいな、リリア?」


 「しょうがないわね。あんたの奢り。忘れないでよ?」


 「はいはい」


 俺は女の子を連れ、リリアと一緒に支部長の部屋を出た。お腹が空いているか尋ねるとこっくり頷く。言葉は通じているようでほっとした。


 「いらっしゃいませ」


 山羊の胃袋カペラ・ストマクスは混み合っていた。空いたテーブルを探していると、見覚えのある顔が視界に入って来る。


 「ブロアさん、こんにちは」


 「おお、トーマ殿。今日は可愛いお連れと一緒ですな」


 ブロアさんは丁度食事を終えたところのようで、テーブルの上には空になった皿が並んでいた。


 「よろしければこちらに座りませんか?私は今食べ終わりましたので皿を片付けてもらいますから」


 「いいですか?すいません。リリア、じゃあお言葉に甘えてここに座ろう。君もいいね?」


 女の子がこっくり頷き、リリアがブロアさんに頭を下げる。


 「こちらブロアさん。俺と同じ転生者だ。ブロアさん、彼女はリリアといって監督署の職員です。転生した俺を監督署に連れてきてくれた人で……」


 「リリア・ポーラーです。お姿は何度かここでお見掛けしました。よろしく」


 「私も見覚えがありますよ。案内係の方でしたか。こんな可愛い人に連れてきてもらったとは羨ましいですな、トーマ殿」


 「いやー、可愛いなんて!そんな本当のこと言われても。へへ」


 こいつは誰が相手でもブレないな。ある意味感心する。


 「して、この子は?」


 「はあ。話すとややこしいんですが……。まずは注文させていただけますか」


 「そうですな、私としたことが。おーい、嬢ちゃん!」


 ブロアさんがウエイトレスを呼び、自分の皿を片付けてもらっている間に俺とリリアはメニューを見て注文を決める。問題はこの子か。


 「何か食べたいものはある?」


 訊いてみても首をかしげるだけで返事はない。子供向けのメニューと思えるものは見つからないし、どうしたものか。


 「シェフにこの子用の料理を作ってもらった方がいいでしょう。嬢ちゃん、すまんが小さい女の子が食べられそうなものをバンさんに頼んでくれんか?」


 ブロアさんの注文にウエイトレスは頷き、厨房の方へ消えていく。


 「いいんですか?わざわざ」


 「心配はいりません。前も言った通りここのシェフは日本人なんじゃが、私とはもう長い付き合いです。といっても1年ほどですが。ほぼ毎日来ておるせいですっかり打ち解けておりますので。少々の無茶は聞いてくれるし、それだけの腕もある」


 「ありがとうございます」


 「なんの。それで差し支えなければこの子のことを聞いてもよろしいかな?」


 「ええ、実は……」


 俺はこの子を助けた経緯をかいつまんでブロアさんに話した。


 「ふむ。この子が追われていた理由が気になりますな。それに……」


 ブロアさんは女の子をじっと見つめた後、俺に顔を寄せ、


 「少し外で二人で話せんですか?」


 と囁いた。この二人の前では話せないことなのか。


 「ねえ君。俺はこのおじちゃんと少し外で話してくるから、ちょっとだけここで待っていてくれないかな?すぐに戻って来るから安心して」


 「どうしたの?トーマ」


 「リリア、悪いが少しの間この子のことを見ていてくれないか」


 「それは構わないけど、何?男二人で悪だくみ?」


 「ほっ、ほっ。悪だくみですか。それはいい」


 ブロアさんが楽し気に笑う。


 「ね、少しだけだからいい子にして待っていて。俺はどこにもいかないからね」


 女の子の頭を撫で諭すようにそう言うと、不安げな顔をしながらも頷いてくれた。


 「話ってなんです?リリアたちに聞かれちゃまずいんですか?」


 店の外に出た俺はブロアさんに尋ねる。


 「ふむ、トーマ殿。忠告しておきますが、あの子には気を付けなされ」


 「え?」


 「あの子はただの子供ではない。今ははっきりとしたことは分かりませんが、とにかくこれだけは言えます。あなたがあの子と出会ったのは決して偶然ではない。何か大きな意志が働いておる。会ったばかりのあなたに懐いているのが証拠です」


 「な、何を言ってるんです!?いきなりそんなこと言われても……」


 「あの子は邪悪な存在ではない。それは確かでしょう。しかしあの子を取り巻く世界というかその周辺には危険な匂いを感じるのです」


 「じょ、冗談じゃないですよ!そんな剣呑な。どうしてそんなことが……。まさかがブロアさんの……」


 「おっと、その先は禁句ですぞ。年寄りの戯言、と言われても仕方ないが、残念ながら私の予言は外れたことがないので」


 「そ、そんな……」


 「あの子をしっかり見ていることです。あなたが自分を見失わなければ、大丈夫。あの子はあなたにとって悪い存在ではない」


 「分かりませんよ、そんなこと言われても!俺に父親役なんて……」


 「そろそろ戻りましょうか。料理も来ている頃でしょう」


 呆然とする俺を置いて、ブロアさんはさっさと店の中に戻ってしまう。どういうことだ。あの子を助けたのは紛れもなく偶然だ。それが誰かの意思だなどと言われても到底信じられない。しかしあの子が会ったばかりの俺に懐いているのも事実だ。くそっ!一体何がどうなっているんだ。


 「何やってたのよ、もう料理来てるわよ」


 混乱する頭を抱えたまま席に戻ると、すでにリリアと女の子は食事を始めていた。俺は女の子が食べているものを見て、少し驚いた。ケチャップ(にしか見えない)がかかった小さなオムライスに一口大のハンバーグ、ナポリタンにポテトサラダ(これもそうとしか見えない)、おまけにプリンまでが一皿に綺麗に載っている。完全に「お子様ランチ」だ。食材が違うであろうこの世界でこの再現度。さすがブロアさんが惚れ込んで通い続けるだけはある。


 「美味しいかい?」


 俺が尋ねると、女の子は微笑んで頷く。この子の笑顔を見たのは初めてだ。


 「よかったわね」


 リリアも嬉しそうに微笑みかける。それを見て俺は覚悟を決めた。とにかく大切なのはこの子をあのゴロツキ連中から守り、両親のもとに無事に帰すことだ。それまではこの子をしっかり預からなくては。


 「どうしたの?冷めちゃうわよ」


 リリアに促され、俺もフォークを取った。やはりここの料理は美味い。


 「では失礼します」


 店の入り口でブロアさんに挨拶し、俺たちは監督署に戻った。別れ際ブロアさんが俺の目を見ながら小さく頷く。俺も無言で軽く頷き返し、女の子の頭を撫でた。


 「応接室の準備が出来ています。すぐ向かわれますか?」


 ネリーに聞かれ、俺は肯定の返事をした。とりあえず落ち着いたところでこの子と話をしたかった。


 「さて、お腹もいっぱいになったし、少しお話しようか」


 俺は女の子を応接室のソファに座らせ、その隣に腰を下ろした。リリアは反対側に座る。


 「怖がらなくていいからね。とりあえず君の名前を教えてもらえないかな?」


 俺の質問に、女の子は悲しげな顔をして俯く。意識を集中すると、体から悲しみと戸惑いの色のオーラが出ていた。俺やリリアを恐れている感じではない。そうするまさか……


 「もしかして、自分の名前が分からないのかい?」


 小さく頷く。なんてこった、記憶喪失の迷子とは。これは厄介だな。


 「何か覚えていることはない?住んでたお家とかパパやママのこととか」


 反対側からリリアが質問する。しかし彼女は首を横に振るばかりだ。


 「捜索願が出てないってのが気になるよな。普通なら真っ先に警察に届けるだろう、両親なら」


 「この町の子じゃないのかも」


 「ねえ、さっき怖いおじさんたちに追いかけられていたよね?あの人たちはいつから君と一緒にいたの?」


 「この町に……来てから」


 ようやく言葉を発してくれた。しゃべることが出来ないのかと思って心配していたのだ。


 「この町へはどうして来たの?」


 「歩いて……」


 「一人で?」


 頷く。こんな小さい女の子が一人ぼっちで徒歩で旅するなど有りうるとは思えないが……。


 「どこから歩いて来たの?いつから一人なのかな?」


 「森……」


 「森?」


 「森からずっと歩いて来た。最初から一人……」


 「森ってまさかスラウブ大森林!?」


 「スラウブ?なんだそりゃ」


 「帝国との国境に広がる森林地帯よ。検問がある表街道以外はまともに人が入り込むところじゃないの。危険な獣や魔族も棲んでるっていうし」


 「まさかこの子、帝国から!?」


 「ありえないわ。あそこの国境検問所は身元がはっきりしていない者は誰一人通れないもの。こんな小さな子が一人で歩いてたら即効保護されるはずよ」


 「検問以外の所を通って、はないか」


 「猛獣や魔族がうろうろしている森を?それこそ考えられないわ。それに検問所以外にも国境線に沿って王国軍が常時配備されているのよ。ここに来るまで誰にも発見されなかったなんて信じられないわね」


 「しかしこの子は最初から一人で歩いて来たと言った。そして俺が見た限り、この子は嘘は吐いていない」


 罪悪感のない根っからの悪人でない限り、人間は嘘を吐くとき大なり小なりの後ろめたさを抱く。ましてやこんな小さな女の子だ。何も感じないで平気で嘘を吐くとは思えない。そして俺にはその罪悪感がオーラの色になって見える。今のこの子は不安や戸惑いはあるが、罪悪感のオーラは出していない。


 「わからないわねー。どういうことかしら?」


 まさかこの子自体が魔族なのでは、という考えが頭をよぎる。俺はまだ実際に魔族を見たことがない。上級な魔族ほど人間の姿を取るとアリーシャは言っていた。しかしまさか……


 「ごめんなさい……」

 

 突然女の子が涙を目に溢れさせて呟いた。俺とリリアは驚いてあたふたとなだめる。


 「ど、どうしたの?大丈夫だよ」


 「何も……分からなくて」


 「大丈夫だってば。焦ることはないから、ね?何か思い出すまでここで休んでいよう。ここにいれば安全だから。心配しないで。気にすることはないからね」


 俺の言葉に頷き、女の子は胸にしがみついて泣きじゃくる。やっぱりこんな子が魔族のはずがない。ブロアさんも邪悪な存在ではないとはっきり言っていたではないか。


 「そうよ、ここに居れば大丈夫。ね、疲れたでしょ?もうお休みなさい」


 俺とリリアは手をつないで女の子を用意してくれたベッドに連れて行き、横にさせた。しばらく手を握っていると、女の子は安心したのかやがてゆっくり寝息を立て始める。


 「さて、とりあえずこのまま眠っていてもらおう。その間に……」


 「ええ。メイビスのことね」


 俺とリリアは支部長室に向かい、ドアをノックした。部屋に入ると相変わらずアリーシャが立っている。この人ずっとここにいるのかな?


 「やあ、あの子はどうしたね?」


 支部長の質問に俺たちは今しがたの女の子の話を聞かせた。支部長もアリーシャも話を聞き終えると、難しい顔で考え込む。


 「あんな小さな子がスラウブ大森林から一人で歩いて来たなど有りえん話だ」


 「そうだね。それにトーマ君の感じた通り、あの子は魔族じゃない。どんなに上手く人間に化けても私やアリーシャの目を誤魔化すことは不可能だ。しかし彼女は嘘を吐いていない。……謎だらけだね」


 支部長のお墨付きをもらって俺はほっとした。しかしそうなるとますます謎が深まるわけだが。


 「まああの子に記憶が戻るまでは手の打ちようがないかもしれないな。当面はここで保護することを約束するよ。そしてトーマ君、君は出来うる限り彼女のそばにいてやってくれ。彼女は君を頼りにしている。理由は分からんがね」


 「はい。それで支部長……」


 「メイビスの件だろう?説明するよ。まあ端的に言うと彼女に縁談が来ているのさ」


 「縁談!?」


 俺とリリアが同時に叫ぶ。


 「うん、お相手はこのアレックの町を実効支配する貴族、マクシミリ侯爵家の次男、確か名前は……」


 「ユーティリスです」


 「ああ、そうだったね。どうやら半年ほど前、侯爵家がこの監督署を視察に訪れた時同行していたその次男坊が正式採用直前だったメイビスを見て一目ぼれしたらしくてね。人を使って彼女のことを調べさせ、先日メイビスの実家、フォートン家に婚約の打診をしてきたらしいんだ」


 「そんな!メイビスはまだ16でしょう!?」


 「まあ貴族なら珍しい話じゃない。5歳や10歳で有力な家の子息同士が婚約するなんてのは日常茶飯事だしね。しかし当然というかメイビス本人は嫌がっているようでね」


 「当たり前ですよ!やっと家を出て自分の力で働いていけるって、あの子、すごく喜んでたんです!!」


 リリアが鬼気迫る迫力で支部長に詰め寄る。


 「それなのにまだ1年も経ってないのに政略結婚で辞めさせられるなんて!」


 「落ち着け!リリア!」


 アリーシャの叱責が飛ぶ。


 「でも!!」


 「まあリリアの言うことは尤もだ。私としてもせっかくの優秀な新人を手放したくはない」


 「何とか断れないんですか?本人が嫌がってるのに無理やり結婚なんて。メイビスが可哀そうですよ」


 「そこが難しいところなんだよね。フォートン家もこの辺りでは名家なんだが、やはりマクシミリ侯爵家に比べると格は落ちる。上位の家からの申し出は実際は命令に近い。それでもメイビスの父親、現当主のフォートン卿は骨のある人物として有名だからね。愛娘の幸せのためならこの話を断れたかもしれない。普通の状況だったらね」


 「というと?」


 「その骨のあるところが今回は裏目に出た。フォートン家は代々王国軍とつながりが深い。各方面軍の将軍たちとも懇意にしていると聞いている。このアレックの町には大規模な駐留部隊がいるが、彼らの居住場所を提供しているのもフォートン卿だ。さっき話に出たスラウブ大森林の国境沿いに常時部隊が展開しているからね」


 「それとメイビスの縁談がどう関係するんです?」


 「件の次男坊、なんて言ったっけ?、まあいい。そのボンボンが王国軍に売り込みに行ったのさ」


 支部長がここまで名前を覚えないとは、その次男坊、推して知るべし、といった人物らしい。


 「売り込みってなんですか?」


 リリアが膨れた顔のまま尋ねる。


 「画期的な魔法を開発した、という話らしい。なんでも地魔法で合成したゴーレムに非常に複雑な命令を下し、普通では考えられない動きをさせることが可能だとか」


 「ゴーレムに?」


 「うむ。トーマ君はゴーレムを知ってるかね?」


 「ええ、まあ。前の世界での知識ですが」


 「なら問題ない。これまでの転生者の話を聞く限り君たちの世界の知識はそのままこのディール・ムースでほぼ通用する」


 「でもゴーレムって単純な命令しか受け付けないって聞きましたけど……」


 リリアが首をかしげながら言う。


 「うん、だから画期的なのさ。これが実用化されれば危険な任務を人間にやらせなくて済む。それどころか戦闘が始まったらゴーレムたちに戦わせることも出来る。人的被害を極力減らすことが可能になるというわけだ」


 確かにそれは画期的といえるだろう。


 「次男坊はこの魔法のノウハウを軍に渡してもいいと言っているんだ。しかも軍とつながりの深いフォートン卿を通してね」


 「何ですって!?」


 「フォートン卿としては兵士の危険を大幅に減らすこの魔法はぜひ導入したい。しかしそのためには次男坊の要求通りメイビスを嫁に出さなければならない。まさに板挟みだ」


 「そんな!メイビスを取引の道具に使うなんて!許せない!!」


 「部外者の立場で僭越かもしれませんが、俺も同意見ですね。そんな卑怯な男に嫁いだところでメイビスが幸せになれるとは思えません」


 「私も同じだよ。大体この次男坊は昔から評判が悪い」


 やっぱりそうか。


 「かといって雇い主であるというだけでこの話に首を突っ込むわけにもいかない。貴族が我々監督署に干渉できないように、貴族の家の問題に我々が干渉することもまた出来ないのさ。口惜しいけどね」


 「何とか出来ないんですか!?このままじゃメイビスが……」


 リリアの目には涙が溢れている。出来る事なら俺も何かしてあげたいが、支部長の言う通り貴族の婚姻に関して転生してきたばかりの清掃人の俺が首を突っ込むことなど不可能だろう。しかし……


 「その魔法は実際に軍にお披露目されたんですか?」


 「いや、それはまだだ。それがまた頭にくるんだが」


 「え?」


 「その次男坊、よりによってうちの訓練場でその魔法を軍に披露したいと言って来たんだ。メイビスが勤めているこの場所で、とか言ってるが、実際は当て付けさ。貴族たちはうちを目の敵にしているからね。目の前で画期的な魔法を見せつけて、メイビスを奪っていくつもりなのさ。性格のねじまがったあの男の考えそうな事だよ」


 「ここの訓練場で……。それまでは実際にその魔法が成功しているところを誰も見ていないわけですね?」


 「ああ。マクシミリ家の敷地内でしか試していないだろうからね」


 「ふーん……」


 「どうしたんだい?トーマ君」


 「リリア、あの子が起きて不安がるといけない。応接室に戻ってみてくれないか?」


 「何でよ!メイビスがいなくなっちゃうかもしれないって時に!」


 「頼む」


 いつになく真剣に言う俺にリリアが黙り込む。すると俺の考えを察してくれたのか、アリーシャが落ち着くようリリアを説得し、何か飲もうと言って部屋から彼女を連れ出してくれた。

 

 「すまん、リリア」


 泣きながら部屋を出ていくリリアに俺は小声で謝る。二人が出ていくと、支部長が目を光らせて俺を見つめる。


 「さて、聞かせてもらおうか。何か思いついたんだろう?トーマ君」


 「はい。率直にお聞きしますが、その次男坊が一人でそんなすごい魔法を開発できるとお考えですか?」


 「いいや、天地がひっくり返っても無理だろう。大方お抱えの魔導師辺りが創ったんだと思うね」


 「今までの魔法の応用でゴーレムにそんな器用な真似をさせる事が出来ますか?」


 「そこが不思議なんだよ。私たちエルフだって何百年もかけて魔法を研究しているものがごまんといるが、そんな術式は聞いたこともない」

 

 「ではこうは考えられませんか?その魔法は実は……」


 「なるほど。<スキル>、もしくはそれを応用したもの……」


 「ええ。とすればその次男坊は実際にはその魔法を操ることが出来ない可能性が高い。必ず近くにそれを制御する人間がいるはずです」


 「訓練場での魔法のお披露目の際、そいつを排除すれば、次男坊の魔法は成功せず、赤っ恥をかく、か」


 「勿論殺したりそんな物騒なことは考えていません。排除するのは<スキル>です」


 「君の<スキル>を使ってゴーレム魔法を失敗させる。そうすればフォートン卿がメイビスの嫁入りを断る口実にもなる。中々ワルだね、君も」


 「本意ではありませんが、メイビスが不幸になるのをみすみす見逃すのはどうしても嫌なんです」


 「私も同じ気持ちだよ。しかし君の<スキル>を公にするわけにもいかない」


 「はい。だからその作戦を一緒に考えていただきたくて」


 「ふむ、いいだろう。人の顔に泥を塗るような真似をしたことを後悔させてやろうじゃないか。マクシミリ侯爵家の次男坊様に、ね」


 そう言って支部長は外見にそぐわぬ凶悪な笑みを浮かべた。


  



 

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