第13話 不本意ながらまたテンプレイベントです

 監督署に着くまで随分注目を集めてしまった。


 アリーシャの治癒魔法で傷はふさがったものの、流れ出した血は消えたわけではない。俺は右足を血塗れにしたまま歩いていたのだ。そりゃ目立つというものだ。考えてみればアリーシャの部屋で流した血もそのままにして出てきてしまった。清掃人としてあるまじき失態だ。一刻も早くアリーシャの部屋から離れたかったのでうっかりしていた。せめて軽く拭き取るくらいはすべきだった。


 「おはよう、トーマ君!……ゲッ!何その足!?怪我したの?大丈夫?」


 監督署の入口で声を掛けてきたコニーがドン引きした顔で俺の足を見つめる。


 「大丈夫です。怪我はしましたが、もう治してもらいましたので。この血はいかんともしがたいですが」


 「うわ~、痛そー。ズボン、ばっくり穴空いてるじゃん。治癒魔法ってさ、痛みまでは消せないんだろ?本当に大丈夫?」


 「ええ。ここまで歩いてきましたし」


 「無理はダメだよ。休むなら課長に言っといてやるぜ?」


 「本当に大丈夫です。着替えはさせてもらいますけど」


 ネリーに借りたズボンをこんなにしてしまい、俺はどうしようかと頭を抱えた。もう制服しか残っていないし、新しいの買って返すしかないよなあ。金はないけど。


 「痛てっ!」


 更衣室に入り、制服に着替えようと足を上げた途端、ズキンとした痛みが走る。怪我自体が治っているから今一つ実感がなかったが、やはりかなりの傷だったらしい。我ながら無茶なことをやったもんだ。あの時はまともな思考ができなかったからな。


 「おはようございます」


 庶務課に行くと、もう課長以外は全員顔をそろえていた。俺はエントランス担当のパタラに付いて、作業を見させてもらうことにした。


 「それじゃいつも通りにやってみて下さい」


  パタラが掃除を始め、俺はそれを後ろから見る。玄関の外は箒で掃いてゴミを集め塵取りで回収。エントランスロビー内も同じようにゴミを掃いて、その後モップ掛け。テーブルとカウンターを雑巾で拭き、カウンター内のゴミ箱のゴミを袋付きのカートにまとめ、外のゴミ置き場へ持っていく。驚くほど前の世界と同じような工程だ。こんなところまで共通なんだな、と変なことに感心する。


 一通り作業を確認した俺は庶務課に戻り、作業シフトの作成と必要な資材の一覧をまとめた。まず第一に問題なのは清掃箇所によって資材の色分けがされていないことだ。この世界にはビニールという物がないようなので、手袋に関しては軍手のようなものを使うしかないが、タオルに関しては色分けが可能だ。トイレ掃除において便器周りと洗面台周りは明確に使うものを分けるのが基本だ。多くの清掃会社の場合、便器周りはピンク系、洗面台や流しは白か青を使うのが一般的だろう。これらをしっかり分別することは衛生面は勿論、見ている者にも安心感を与える。便器と洗面台を同じ色のタオルで拭いているのを見たら、いい気分はしないだろう。例え使っている物が別だったとしてもそれが本人以外は判別できない。それに清掃員本人も間違ってしまう可能性がある。


 「こんなものか」


 とりあえずの案をまとめ、出勤してきたかブンマ課長に見せる。課長はちらっと眼を通し、


 「いいんじゃないの。はっきり言って俺、清掃に関しては素人だしさ。昨日言った通り君に任せるよ」


 とさして興味がなさそうに言う。


 「それよりさっきコニーに聞いたけど、怪我したらしいじゃないか。大丈夫なの?」


 「え、ええ。傷は治ってますし。痛みはまだありますが」


 「ズボン穴開けちゃったんでしょ?着替えはあるの?」


 「今来ているこれだけです」


 「転生して四日目だっけ?身の回りのもの揃ってないんじゃないの?財務課に話しとくからさ、借用書書いてまとまった金受け取ってきな。そんで今日は買い物に行きたまえよ」


 「いや、しかし……」


 「いいっていいって。ここに勤めてる限りは踏み倒しも出来ないし、うちは良心的だよ。利息もすごく低いしね」


 ――でも少しは取るんだ、利息。


 「というわけで今日はショッピングを楽しみたまえ。しかし店もよく分からんだろうし、案内する者がいるかな」


 「それなら心当たりがありますので」


 「そうかい。じゃあその人に頼んできな。俺も財務課に行ってくるよ」


 「ありがとうございます」


 俺は礼を言って庶務課を離れ、リリアたちが所属する管理課に向かった。入り口付近にいた職員に声を掛けようとしたとき、聞き覚えのある声が後ろからする。


 「あれ?トーマじゃない。どうしたの?」


 振り向くと、丁度探していた本人がいた。手間が省けて助かる。


 「おお、リリア。お前に用があったんだ」


 「へ?」


 「これから生活必需品を買いに行くんだが、店を案内してもらえないかと思ってな」


 「えー、何で私が」


 「お前、俺の世話をしてくれるんじゃなかったのか?」


 「え?ああ、そういえばそうだったわね」


 こいつ、やっぱりこないだは自分がサボりたいだけだったんだな。


 「まあメイビスでもいい、というかどっちかというと、いいんだが」

 

 「どういう意味よ、それ」


 「借りた金がお前の腹に消えちまったら困るからな」


 「そんなことしないわよ、失礼ね」


 どの口がそれを言う。


 「でも残念ね。メイビスならいないわよ」


 「え?何で?」


 「昨日から休んでるのよあの子」


 「どうして?体の調子でも悪いのか?」


 「それがわかんないのよねー。課長からは何も聞いてないし」

 

 「ふうん、心配だな」


 「あら?私とは大分態度が違うじゃない」


 「自分の胸に手を当てて訊いてみろ」


 「何よ、やっぱり男の子は胸の大きい子が好きなわけ?」


 「ばっ!そういう意味じゃない!」


 確かにメイビスは立派な、というか豊満な胸をしている。初めて会ったときつい目が行ってしまった程だ。対してリリアのそれはまあ慎ましやか、といった感じだろう。しかし別に俺は巨乳好きというわけじゃない。まあジーナくらいになると流石に圧倒されるが。


 「男ってホントにスケベね。やんなっちゃうわ」


 「だから違うって言ってるだろ!というかお前、分かっててわざとはぐらかしてるだろ!?」


 「何のこと~?」


 「くそっ!もういい!一人で行ってくる」


 「あ、ちょっと待ってよ。案内してあげるわよ!」


 立ち去ろうとする俺をリリアが必死に引き止める。またサボれると思ってるんだろうな、こいつ。


 


 「結構買ったわね。後は何かある?」


 「とりあえずはこんなもんかな。ありがとう、助かったよ」


 「何よ、素直じゃない」


 「俺はこれでも社会人として最低限のマナーは心得てるんだよ」


 「私にお礼を言うのが最低限なわけ?」


 「わかったわかった。残りの金で何か奢るよ。ただしあんまりたくさんは無理だぞ」


 「へへ~、そうこなくっちゃ」

 

 ニコニコしながら歩くリリアを見ながら俺はため息を吐いた。結局あいつのおかげでスムーズに買い物が出来たからまあ仕方ない。着替えに歯ブラシ、タオルなど最低限の日常品をそろえ、食材を買える店も教えてもらった。尤も食器などはまだ買い揃えていないからしばらくは外食か宿の食堂で食べるしかないが。


 「ねえ、何食べる?」


 「お前が決めてくれよ。俺はまだこの世界の食べ物よく知らねえんだから」


 「じゃあパパラプレートにしようかな。久しく行ってないし」


 「パパラ……何だ、そりゃ?」


 「行けばわかるよ、さ」


 「待て待て、まずは荷物を宿に置かせてくれよ」


 「ええ~!?」


 「ええ~、じゃない!お前、本来の目的忘れてるだろ」


 「しょうがないなー、早くしてね」


 「そうしてほしかったら荷物の一つも持ってくれるとありがたいがな」


 「何よ、か弱い女の子に荷物持ちさせる気?」


 か弱い女の子はフードファイターみたいな食事の仕方はしないと思うがな。





  「ふう、これでよし。もう面倒だから下の食堂で食おうぜ。女将さんの料理も絶品だろ?」


 買った荷物を小鹿亭の部屋に置き、俺は汗をぬぐった。いくつもの紙袋を下げていたせいで腕が痛い。


 「え~。確かにここの料理は美味しいけどー。トーマはいつでも食べられるじゃない?どうせだから違う物食べに行きましょうよー」


 お前が食いたいだけだろ、とツッコミそうになったが、リリアの言うことにも一理ある。小鹿亭と山羊の胃袋カペラ・ストマクスしか食事場所を知らないというのは生活をしていくうえで少し寂しいかもしれない。

 

 「わかったよ、じゃあ行くか」


 「やった!」


 喜ぶリリアを見て、俺も少しいい気分になった。今日は朝から落ち込んだ気持ちだったのでリリアの明るさに助けられたといえるだろう。


 「少し遅くなっちゃったから近道しましょう。付いてきて」


 「おい、そんなに急ぐなよ。俺は……」


 今朝の足の痛みが完全に引いていない上、荷物を持って歩いたので疲れているのだ。


 「ここの路地を抜ければ早いから」


 そう言いながら表通りから一本裏の細い道に入っていくリリアを追って、俺は痛む足で急いだ。


 「もうすぐよ。満席になる前に……」


 「おい!」


 後ろを振り向いて俺に話しかけようとしたリリアの後ろ、すぐには気づかないほどの横道からいきなり小さな人影が飛び出してきた。リリアが俺の声に反応する前に、その人影はリリアの背中に激突してしまい、尻もちをつく。


 「きゃっ!」


 リリアが驚いて振り向く。そこには5、6歳と思しき女の子が倒れていた。


 「あら可愛い!じゃない、大丈夫?お嬢ちゃん」


 リリアがしゃがみこんで女の子に手を伸ばす。緩やかに広がった薄い金髪ブロンドに青い瞳、陶磁器のような白い肌にフリルのついた可愛らしいドレス。フランス人形が動き出したかのような印象を与える可愛い子だった。


 「立てる?」


 優しく手を差し出すリリア。しかし女の子は怯えた表情をしてその手を取ろうとしない。体も小刻みに震えているように見える。知らない人にぶつかったせいだけとは思えない怯えぶりに感じられ、俺は嫌な予感がした。


 「その子から離れな」


 直後にその予感が的中することになった。女の子が飛び出してきた横道から、いかにもガラの悪そうな男が二人現れたのだ。片方はプロレスラーかと思うような筋肉質でスキンヘッド。もう片方は不健康そうな痩せぎすの顔つきでモヒカン。どこの世紀末だ、ここは。


 「な、何ですか、あなたたち!」


 女の子を抱えて立たせ、自分の背中にかくまいながらリリアが厳しい目で言う。男二人が現れてから女の子の震えが明らかに大きくなった。これはあれだよな。異世界物に付き物のテンプレイベントだよな。はあ……


 「お嬢ちゃん、痛い目に遭いたくなかったらその子を渡してとっとと消えな。それとも俺たちと楽しいことをしたいかい?」


 おいおい、セリフまで完全なお約束かよ。そうなると俺もお約束で返さなきゃいけなくなるじゃないか。勘弁してくれ。俺はこれ以上主人公イベントに巻き込まれるのはまっぴらなんだよ。


 「まさかとは思うが、あんたらこの子の保護者、とか言わないよな?」


 俺の言葉にスキンヘッドが殺意を込めた目でこちらを睨む。確認するまでもないが意識を集中すると、二人の男の体から真っ赤なオーラが立ち上っているのが見えた。


 「そうだと言ったら?」


 「この子の顔を見てその言葉を信じる奴がいたらすぐに病院に行かせるね」


 「舐めてると死ぬぞ、てめえ」


 「……トーマ」


 ちらっと俺に視線を送ったリリアが手を後ろに回し、女の子を指差す。この子を連れて逃げろってか?いくらモブキャラ希望とはいえ女の子に危険な役を押し付けて逃げるなんてのはまっぴら御免だよ。俺はリリアに近づき、小声で囁く。


 「リリア、その子抱えて走れるか?」


 「ちょ、あんた……」


 「いいから行け。俺だって簡単にはやられねえよ」


 「……すぐ人を呼んでくるから」


 「何をぐずぐず言ってやがる!そこの男!てめえも痛い目に……」


 「行け!」


 俺の声と同時にリリアが女の子を抱き抱え、一目散に走り出す。速い。もしかしたら魔法を使ってるのか?


 「待ちやがれ!」

 

 男たちが後を追おうとした瞬間、俺は準備していた魔法を唱える。


 「激流砲射ラピッド・キャノン!!」


 激しい水流が二人にぶつかる。視界を遮られた二人は足を止めざる負えなくなる。


 「て、てめえ!」


 街中で攻撃魔法ぶっ放したなんて知ったらアリーシャがまた怒るだろうなあ。しかし今は非常事態ということで。


 「ぶっ殺してやる!」


 スキンヘッドがナイフを取り出す。魔法なら消せるが、肉弾戦は分が悪い。俺は意識を高め、怒りを消すイメージを形づくる。


 「はあっ!」


 手の前に作った水球をスキンヘッドに飛ばしぶつける。赤いオーラがみるみる消えていくのが見えた。


 「てめえ!兄貴に舐めた真似を……」


 こっちの奴も鎮めないとダメか、ともう一度意識を集中する、と、


 「……何だかしらけちまった。今度舐めた真似したら許さねえからな」


 怒りの感情を消されたスキンヘッドがナイフを仕舞い、俺に背を向けた。


 「え、あ、兄貴!どうしたんです!?」


 「言ったろ、しらけちまったんだよ。行くぞ」


 「ちょ、ちょっと待ってくださいよ!」


 俺とスキンヘッドを交互に見ながら戸惑った様子でモヒカンが兄貴の後を追う。ふう、なんとかなったか。


 「トーマ!」


 ほっと一息ついていると、後ろからリリアの声が聞こえてきた。振り向くと、警官と思しき制服の男二人を引きつれている。


 「大丈夫!?あいつらは?」


 「ああ。ええ、と諦めて帰っていったよ」


 「何もしないで?」


 「あ、ああ」


 ここで俺の<スキル>の話をするわけにもいかないだろうしな。


 「とにかく無事でよかった。事情を聴きたいので、署まできていただけますか?」


 警官の一人がそういう。断るわけにもいかないので、俺とリリアは警察署に行くことになった。




 「しかし困りましたな」


 警官が難しい顔をして言う。全くその通りだ。


 俺とリリアは警察署でそれまでの経緯を正直に話した。攻撃魔法の使用は一応注意されたが、正当防衛ということでお咎めはなく、警官は男たちの特徴を絵に認め、手配書を作ると言ってくれた。それで本来は終わりのはずだったのだが、困った問題が起きてしまった。助けた女の子が何もしゃべらず、俺にしがみついて離れようとしないのだ。名前を訊いても、あの男たちに追われていた理由を訊いても一切答えない。ただ俺の脚にしがみついて、怯えた表情をするだけなのだ。


 「君たち、本当にこの子のこと知らないの?」


 「知りませんよ。さっき初めて会ったんです。なあ、リリア」


 「ええ。見覚えはありません」


 「しかしこの懐きようは他人とは思えんが……」


 「俺は転生してきてまだ四日目なんですよ。知り合おうはずがないじゃないですか」


 「前世で縁があったのかしら?」


 「いや、俺の記憶にある限りこんなフランス人形みたいな可愛い子と知り合いになった覚えはない」


 「フランス?」


 「ああ、気にしないでくれ。前の世界の国の名だ」


 「しかし困りましたな。本来ならこのまま警察で保護するのですが、この子は君から離そうとすると怯えて暴れてしまう。無理に引き離すと精神的に危険かもしれん」


 「かといって俺が預かるというわけにはいきませんよ。俺は転生したばかりで監督署指定の宿に泊まっている状態です。自分一人でもまともに暮らしていけないのに他人、それも小さな女の子を預かるなんて……」


 「でも事情を聴きだすにはこの子に心を開いて貰わないといけないし、そのためにはあんたと離すのは得策ではないわよね」


 「無責任なこと言うな。俺に子供の面倒なんて……」


 「とりあえず監督署に連れて行くしかないわね」


 「お、おい」


 「あそこならあんたがいられるし、支部長たちにも相談できるじゃない。とりあえずこの子を落ち着かせるのが先決よ」


 結局リリアの意見に警察も同意し、俺たちは女の子を連れて監督署に行くことになった。なんだか転生してからトラブル続きのような気がする。平穏な生活を送りたいのにどうしてこうなってしまうのだろう。




 「なるほど、大変だったね二人とも。しかしトーマ君、君はよっぽどトラブルが好きらしいね」


 俺の脚にしがみついたままの女の子を見ながら、心なしかいつもより精彩を欠いた笑顔でフェルム支部長が言う。俺たちは受付けでネリーに事情を話し、支部長室に通されていた。


 「冗談じゃありませんよ。トラブルなんて願い下げです」


 「しかし確かに困ったね。とにかくこの子が何かしゃべってくれないことには手が打てない。アリーシャ、行方不明者の捜索願は?」


 「警察に問い合わせましたが、子供の捜索願は今のところ出ていません」


 支部長の横に立つアリーシャが凛とした佇まいで言う。今朝のことがあるので、まともに彼女の顔が見れない。


 「ふむ、となるとしばらくトーマ君と一緒に居させて話してくれるのを待つしかないか」


 「ちょ、ちょっと待ってください!俺は子供の世話なんて……」


 思わずそう言ってしまい、俺ははっとして女の子の顔を見る。不安そうな顔で俺を見つめるその子の表情に胸が痛む。


 「君一人にやらせる気はないよ。我々でフォローする。とりあえず今夜はここに泊まりたまえ。応接室に寝具を用意させよう」


 「ですが……」


 「そうするしかないんじゃない?私も今日は一緒に泊まってあげるわよ。あんた一人じゃ手が回らないこともあるだろうし」


 「一緒にって、一緒の部屋にか!?」


 「だってそんなにたくさん部屋用意できますか?支部長」


 「難しいね。宿直室は宿直の者が使うし、君も含めて多くの職員は裏の寮住まいだからあまり余分な部屋はないんだよ」


 「だ、だからといってリリアと一緒の部屋に泊まるっていうのは……」


 「何を焦っている?お前なら心配なかろう。なにせこんな美人と一晩……」


 「わあああっ!!な、何言い出すんですか、先生!?」


 「どうしたのトーマ?アリーシャ先生が何か?」


 「な、何でもない、何でもない!」


 正気かアリーシャ!?昨夜一晩一つの部屋で過ごしたなんてこいつに知られたらどうなると思ってるんだ!?


 「ふん!」


 アリーシャが不機嫌そうにそっぽを向く。ダメだ。女性が何を考えているのか俺にはさっぱりわからない。


 「しかし参ったね。厄介ごとというのはどうしてこう重なってやってくるのかねえ?」


 ため息をついて支部長が言う。この人がこんな顔をしているのは初めて見た。


 「重なって、ってまだ何か問題が?」


 「ああ。まだ公にはなってないんだが、君たちは無関係というわけでもないから知らせておこうか。実はね……」


 深刻そうな顔をして支部長が言う。


 「メイビスがここを辞めるかもしれない」


 「「ええ―――っ!!?」」


 俺とリリアの叫びがハモった。


 


 


 

 

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