第9話 不本意ながら復帰します

 目が覚めるとベッドの上だった。


 そこが小鹿亭の自分の部屋だと気付くのに少しの時間がかかった。一晩泊っただけの部屋だから仕方ないだろう。


 「気が付いたかい!?」


 顔を横に向けると、心配そうな女将さんの姿が見える。徐々に頭がはっきりするにつれ、俺は倒れる前の出来事を思い出した。


 「女将さんが運んでくれたんですか?」


 「うちの従業員に手伝ってもらってね」


 「ありがとうございます」


 「礼を言うのはこっちの方さ。まさか本当に私の<スキル>を消しちまうなんてね」


 「上手くいってよかったです」


 「しかし本当に信じられないよ、<スキル>を消しちまうなんて。それがあんたの<スキル>なのかい?」


 「自分でもよくわからないんですが、どうやらそうみたいです」


 「公になったら大変なことになるね、おそらく。勿論私は何も言うつもりはないけど……」


 「女将さん、今何時ですか?俺はどれくらい寝てました?」


 「3時間近くかね。もう6時前だよ」


 懐中時計をポケットから取り出し、女将さんが答える。


 「それじゃあ食堂の方の準備があるでしょう。俺は大丈夫ですから、行ってください」


 「本当に大丈夫かい?」


 「ええ。平気です」


 何かあったら言っておくれよ、と言い残し、女将さんは部屋を出て行った。俺はまだ少しふらつく頭で立ち上がると、窓から表を覗く。陽は傾き、夜の帳がすぐそこまで迫って来ていた。あの人たちはまだいるだろうか。俺はどうしても衝動が抑えられず、部屋を出た。階段を下りると、食堂にはちらほら客の姿が見える。もう夜の食事時間が始まっているのだ。厨房の中に入っているのか、女将さんの姿は見えなかった。俺は目立たぬようこっそり食堂を通り過ぎ、外に出た。体はもう問題ないようだ。俺は早足で監督署へ向かった。


 「あら、トーマさん、どうしたんですか?着替えを取りに?」


 カウンターに向かうと、幸いネリーがまだそこにいた。俺は息を切らせながら、ネリーにフェルム支部長への面会を申し込む。


 「え、支部長にですか?どうしたんですトーマさん。今日の検査はもう……」


 「お願いします!どうしてもお話ししたいことがあるんです」


 俺の迫力に押されたのか、ネリーは「とりあえずお尋ねします」と言って奥に消えていった。彼女が帰ってくるまでの間、俺は息を整えながら少し冷静さを取り戻す。何をやっているのだろう、俺は。客観的に見れば俺のしたことはこの町、ひいてはこの世界の安寧を壊しただけではないのか。一時的な感情で長い間この町の転生者を守っていたシステムを破壊しただけではないのか。しかし<スキル>が消えた後の女将さんの表情を見ると、俺は正しいことをしたのではないかという思いも拭いきれないのだ。


 「トーマさん、支部長がお会いになるそうです」


 自問自答を続けているうち、ネリーが戻ってきてそう告げる。どちらにしても禁止されていた<スキル>を使用してしまったことを報告せねばならない。その結果何らかの処罰、ことによっては幽閉などの処置も覚悟しなければならないだろう。


 「ご案内します」


 俺は覚悟を決め、ネリーに付いていった。少なくとも俺は自分の中の正義に基づいて行動した。だからそれがどんな結果になっても後悔だけはしないようにしよう。


 「こちらです」


 足を踏み入れたことがない監督署2Fの奥の方のエリアに、支部長の部屋はあった。「職員以外が立ち入ることはほとんどないんですよ」とネリーはここに来るまでの間に教えてくれた。その部屋のドアをネリーがノックすると、「どうぞ」という声が中から聞こえる。ドアがゆっくり開かれ、ネリーが深々と中に向かって頭を下げる。俺もつられてそれに倣う。


 「トーマさんをお連れしました」


 「ご苦労様。やあトーマ君どうしたのかな?何だか怖い顔をしているねえ」


 「お話したいことがあって」


 頭を上げて部屋の中を見ると、正面奥の大きな机の後ろにフェルム支部長がいた。椅子に座ってるように見えるが、机の高さからすると、普通の椅子では顔まで隠れてしまいそうだ。さっき乗っていた宙に浮かぶ円盤のようなものの上にいるのかもしれない。そしてその横にはアリーシャが立っていた。厳しい顔でこちらを見つめている。


 「まあ入り給え。ネリー、君は下がっていいよ」


 「はい、では失礼します」


 ネリーはもう一度お辞儀をしてドアを閉める。俺はそのままカーペットの敷かれた部屋を支部長の前まで進む。


 「で、話とは何かな?」


 「……さっき、『小鹿亭』の女将さんの<スキル>を消しました」


 「何?」


 「き、貴様、何を言っている!?どういう意味だ」


 アリーシャの顔が気色ばむ。


 「言葉通りの意味です。もう女将さんの<スキル>は使えません」


 「詳しい話を聞こうか」


 支部長はあくまで冷静に俺を見つめながら言う。俺は息を整えてから、先ほどまでの出来事を話した。女将さんの監視に気付いた事、女将さんの過去の出来事を聞いたこと、そしてその<スキル>を消し去ったこと。


 「ふうむ。俄かには信じられないね。まさかそんなことが」


 「貴様なんてことをしたのだ!使用を禁じた<スキル>を舌の根も乾かぬうちに使い、あまつさえ、監督署に協力してもらっていた<スキル>を… …」


 「それが聞きたくて来たんです。支部長、どうして女将さんにあんなことをさせていたんですか!?」


 「転生者の監視のことかい?君が気付くとはね」


 「女将さんはあの<スキル>に苦しんでいました!嫌悪すらしていた!それなのに!」


 「ではどうすればよかったのかね?彼女の<スキル>は特定の人間を意識していなければ勝手に無作為の人間を監視してしまう。こちらから転生者の情報を伝えることで、彼女は少しでも<スキル>を有効に使えたはずだ。彼女もその方がまだ楽だったはずだ」


 「それはそうかもしれませんが……」


 「<スキル>が無くせるものなら私もそうしたさ。元々彼女のものでもないんだ。何とか方法はないかと色々試してもみたんだよ。でも上手くいかなかった」


 「その通りだ。大体、貴様は彼女のために支部長がどんな思いをしていたか知るまい!」


 「やめたまえ、アリーシャ」


 「いいえ、言わせて下さい!いいか、転生者は毎日やって来る訳じゃないんだ。<スキル>が顕現して登録が終わり、監視の必要が無くなってもすぐ次の転生者が来るわけじゃない。転生者の監視をしない間はどうする?無作為の人間を見てしまえば彼女は益々苦しむ。だから支部長は転生者の監視をしていない時はずっと自分を監視させていたんだ!」


 「え!?」


 「来る日も来る日も自分の居場所を教え、彼女に見させていたんだ。プライベートなど何もない生活だ。それを20年近く……」


 「やめろと言っているだろう。これは彼女への償いだ。彼女を苦しめた男と同じ監督署の者としてのね」


 「……申し訳ありません。事情も知らず。女将さんの話を聞いて、あまりにも気の毒に思えて」


 「いや、いいさ。彼女の苦しみを分かってあげられたのは君の<スキル>のおかげか。その<スキル>は君の優しさの象徴なのかもしれないな。でも本当によかったよ。これで彼女は長い長い苦しみから解き放たれるだろう。改めて礼を言おう。ハンナの苦しみを取り除いてくれたことにね」


 ハンナ、それが女将さんの名前か。


 「本当にすいませんでした。ちょっと頭に血が上ってしまったようです。その……女将さんの旦那さんを利用した監督署の職員なんかの話があまりにもひどくて」


 「それに関しては恥じ入るばかりだよ。小さい町の支部とはいえ、そんな人間が在籍していたなんてね。本当にハンナとご主人には申し訳ないことをした」


 「そいつはまだその町の監督署に?」


 「いや、調べさせたんだが、ハンナが村を出た直後退職して姿をくらませたらしい。一応後を追ってはみたんだが、今に至るも行方不明さ。重ね重ねお恥ずかしい限りだね」


 「そうですか。とにかく女将さんの<スキル>を消したことを俺は後悔してはいませんが、使用禁止の<スキル>を使ったことは事実です。どんな処罰でもお受けします」


 「ふ~ん、そうだねえ。どうしたものかな?アリーシャ」


 「やはりこの男の<スキル>は危険すぎます。魔法を消すというだけでも驚きなのに、<スキル>を消去するなどあまりにも……」


 「まさに驚天動地だね。大体<スキル>ってのは本来干渉不可能な能力だもんね」


 「そうなんですか?」


 「ああ。どんな魔法だろうと<スキル>だろうと、他人の<スキル>には干渉できない。その能力を無効化することは不可能なんだ。だからより強い<スキル>の前ではどんな魔法も<スキル>も無力だった。……少なくとも今まではね」


 「それが覆るということはこれまでの常識、ひいては世界のパワーバランスを根本から崩すことに繋がりかねん」


 「まさか、そんな大げさな」


 「大げさなものか。今の先端技術のほとんどは転生者がもたらした<スキル>の活用によるものだ。それに監督署が転生者の情報を一元的に管理しているおかげで、各国は他国にどんな転生者がいて、その<スキル>がどんな能力かを詳細に知ることが出来ない。そのことが軍事的な抑止力になっているんだ。帝国がここ何十年かおとなしくしているのもそのせいといえる」


 「それが他人の<スキル>を自由に消せる能力者がいるなどと知れればどうなると思う?このアルテイン王国は帝国に比べれば穏健な考えの者が多いが、それでも王国軍には過激な思想を持つものが一定数いると聞く。奴らがお前を担ぎ出し、公国辺りに攻め入って利権を奪おうとしても不思議ではない」


 「冗談じゃない!戦争に利用されるなんてまっぴらですよ」


 「勿論我々とてそんな真似を許す気はない。基本的に監督署が外部に転生者の情報を流すのは危険が少なく、技術的な活用が平和的に行われると判断した場合のみだ。

無論能力は使い方一つでどうとでもその結果を変えてしまうから慎重な上にも慎重を期す必要があるが、現にそうやって水晶球や転移魔法も開発されたからね。だから危険があると判断した<スキル>の情報を漏らすようなことは断じてないが、残念ながら完全に秘匿するのは難しいのが現状だ」


 「何故です?」


 「どこの国でもどこの町でも諜報機関の人間が市中をうろついているからさ。我々が情報を渡さないので、街中で直接<スキル>を見ようとしているんだ。それでこちらの知らぬ間にスカウトする。こちらで使用に制限を付けてもやはり<スキル>を使いたがる者は多いからね。意図的ではないがやむを得ぬ場合もままあるようだし。軍に協力している転生者はほとんどがこのパターンさ。他にも貴族から依頼を受けて有能そうな転生者を見つける人間たちもいるらしい。新しい技術を開発すれば貴族社会でのステータスが増すからね。王国議会での発言権を強めたい連中はわんさかいるんだ」


 どこの世界でも人間がいる限り権力闘争は無くならないということか。


 「まあ街中で普通に暮らしている時点で、我々が危険度が高くないと判断した能力と言えるわけだし、軍や貴族が金を出して新しい技術を開発してくれるなら、こちらとしては目くじらを立てることもないということで、そう言う事例は事実上野放しになっていたといっていい。今まではね」


 「だが貴様の<スキル>は危険すぎる。軍のタカ派に愚かな妄想を抱かせるには十分すぎる程な。情報漏洩は論外だが、貴様の行動自体も制限する必要がある」


 そういうことになるか。まあ致し方ないのかもしれないが、牢屋暮らしは嫌だなあ。


 「まあ待ちたまえアリーシャ。アイテムが感知した時点で、トーマ君が転生してきたことは本部に知られている。そして残念ながら今までの事例から見て、その程度の情報は簡単に外に知られてしまう。そんな中で我々が彼を軟禁状態にでもしようものなら、トーマ君が危険な<スキル>の持ち主だとわざわざ喧伝しているようなものじゃないか」


 「そ、それはそうですが……」


 「表向きは昼間私が言ったように人の負の感情が色として見える、という能力にしておいて、あえて行動に規制をかけない方がよいと思うのだがね」


 「し、しかし万が一こいつの能力が外部に漏れでもしたら……」


 「そこは極力<スキル>の使用を控えてもらうしかないが……変に監視の人間を付けても逆に怪しまれるしね。まあまずは職を決めて『小鹿亭』を出る事かな。あそこがうちの指定宿なのは周知の事実だからね。トーマ君のことを知った人間はまずあそこを張りこむだろう。ハンナ自身が漏らすようなことはないと確信しているが、今日ハンナの<スキル>を消したところを見られていたら最悪だね。そこんとこは大丈夫だったかな?」


 「それは大丈夫だと思います。女将さんとの話はオープンに出来るような内容じゃなかったので、周囲には気を遣いました。尤も遠くから盗聴できる魔法か<スキル>でも使われていたら分かりませんが……。


 「魔法に関してはあそこには結界が張ってあるから心配ないし、私たちが把握している限りではそういう<スキル>の持ち主はこの町にはいないが、外部から来ていたらわからないね。昨日からこの町に来た人間はどれくらいかな?」


 「調べさせましょう。おそらく身元のはっきりしていない者はほとんどいないと思いますが」


 「まずは安心か。まあ王都あたりから派遣されてきたなら飛行術を使っても明日以降にならなければここには着かないだろうが、一応町に入る人間はそれとなくチェックしてくれたまえ。大っぴらにやると痛くない腹を探られることになって逆効果だからね」


 「わかりました。隠密行動に長けたものを目立たぬよう町の入り口に配置します」


 「あの、転移魔法を使ってここに来るって可能性は?」


 「あれはうちの職員以外はごく限られた人間しか使えないんだ。君もリリアたちが許可申請をしているのを見たろう?」


 確かに職員番号を言って許可を求めていたな。


 「転移魔法を使って君を調べに来たものがいるとしたら、職員の中に内通者がいるということになる。あまり考えたくない事態だね」


 「第一、どんな<スキル>を持ってるのかもわからない段階で使用記録の残るゲートを使ってまでここに来るとは考えられん」


 ならやはり今のところ俺の<スキル>能力が他の人間に知られている可能性は限りなく低いか。よかった。


 「しかし本来なら君の<スキル>を正確に記録して本部にも転送しなければならないんだが、これほどの能力となると、少し考えてしまうね」


 「どうしてです?本部の管理体制に問題でも?」


 「いやいや、あそこのセキュリティは万全だ。支部長クラスからの報告が外に漏れるとは考えにくい。機密指定をすれば閲覧出来る者も限られるしね。ただ……」


 「ただ?」


 「その閲覧出来るものの中に問題が、ね」


 「あ……」


 支部長の言葉にアリーシャがはっとした顔をする。


 「ねえ?これほどの能力の持ち主が現れたと知ったら、が放っておくとは思えないだろ?」


 「確かに。なら王都からここまですっ飛んできても不思議ではないですね」


 「彼女?」


 「ああ、気にしないでいい。こっちの話だ。それより君のこれからの生活についてなんだが」


 「それについては少し考えていることがあるんです」


 「ほお。聞かせてくれないか」


 「ええ、とですね。さっきから気になってたんですが、そこ、シミがありますよね」


 俺はアリーシャが立っている少し前の辺りのカーペットを指差して尋ねる。


 「ん?ああ。この間うっかり紅茶を零してしまってね」


 紅茶のシミか。この世界の紅茶と俺のいた世界の紅茶が全く同じとは思えないが、今までの経験からして、成分は大きく変わらないだろう。


 「どれくらい前ですか?」


 「二、三日前だよ。それがどうかしたのかい?」


 「すいません。雑巾のようなものはありますか?」


 「雑巾?ええ、ちょっと待ってくれたまえ」


 支部長は机の脇のチェストを開け、中から一枚の白い布を取り出す。


 「これでいいかい?」


 「これ、汚しても大丈夫ですか?」


 「構わないよ」


 「じゃあ失礼して」


 「何をする気だ?貴様」


 「まあ見ていて下さい」


 俺は紅茶のシミの所まで行き、意識を集中させる。二、三日前の水溶性のシミならこれでいけるか。前の世界で清掃していたオフィスビルのタイルカーペットと違ってそこそこのもののようだし、下手なものはいきなり使いたくない。


 「生成」


 俺の言葉と共に掌に水の塊が現れ、それがシミに落ちる。じわりと水が広がるのを見ながらそのまま待つ。


 「おい、何の真似だ?」


 「そろそろいいかな?」


 俺は水の染み込んだシミの上に布を置き、上から拳でトントンと叩く。カーペットのシミ抜きは上からゴシゴシ擦るのはNGだ。汚れが却って沈殿してしまう。まずこうやって叩きながら布に汚れを移動させるようにしてから、押し付けないように拭き取るのが大事だ。


 「よし」


 布を取ると、シミは予想以上に取れていた。思った通り、<スキル>で生成したものは一般的なものより汚れを確実に落とすことが出来るようだ。


 「ほお。綺麗になったね」


 いつの間にか間近に来ていた支部長が感心したように声を上げる。


 「貴様、いったい何をしたのだ?」


 「アルカリ電解水です。カーペット用の洗剤は使った後に綺麗にリンスしないと残った洗剤の成分が新たな汚れを呼んで再汚染の危険があるのですが、これはその心配がありません」


 「な、何を言ってるのだ?お前は」


 「ああ、すいません。仕事の癖でつい。つまりはカーペットのシミを落としたわけなんですが、これが本来の俺の<スキル>の使い方かな、と」


 「本来の使い方?」


 「ええ。負の感情を『汚れ』として落とすのが俺の<スキル>の能力なら、文字通り汚れそのものを落とすことが出来るんじゃないかと。まだ試してはいませんが、おそらく俺はその汚れがどういう性質のものであるか分かれば。それに応じた洗剤を生成出来るんじゃないかと思います。しかも普通のものより確実にその汚れを落とすのに適したものを」


 「なるほど。昔取った杵柄ならぬ、前世で取った杵柄というわけか」


 「はい。この能力を使えば……」


 「この世界でも清掃人をやるつもりかね?」


 「せっかく転生したんですから、別のことをやりたい気持ちもありますが、こういう<スキル>を持ってしまった以上、目立たないで生きるには都合がいいかな、と」


 「ふむ。これを君の<スキル>として報告すれば世間の目をごまかせるかもしれないね。そして君の生活の目途も立つ」


 「それでも注意は必要でしょう。あまり勝手に動き回っては欲しくないな」


 「ならとりあえずここの清掃の仕事を依頼しよう。それなら外部の人間の目にさらされることは極端に減るだろう」


 「いいんですか?」


 「ああ。確か清掃は職員がローテーションでやってるが手が足りてないんじゃなかったかな?」


 「そうですね。本来の業務と重なるとなかなか手が回らないようです」


 「なら決まりだ。一石二鳥ならぬ三鳥だね」


 「近いうちに新しい部屋も手配する。ここの近くにな」


 「ありがとうございます」


 俺は頭を下げて二人に礼を言った。まさか死んだあとまで清掃の仕事をするとは思わなかったが、監禁されるよりはずっとましだ。厄介な能力を隠してひっそり生きていくには丁度いいだろう。俺はほっと胸をなで下ろし、監督署を後にした。


 

 




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