第2話 不本意ながら監視されているようです

 「とりあえず今日はこれで結構です。お疲れでしょうから宿でお休みになって下さい。明日リリアかメイビスを迎えに行かせますので、またこちらにおいで下さい」


 書類にサインをし終えた俺にネリーが微笑みながら言う。書類には俺の新しい名前の他に、この世界で暮らすに当たってここの法律を遵守することと、それに反する犯罪行為を行わないこと。永久市民権が与えられるまでは転生者監督署の指導に従うことなどが書かれていた。右も左も分からない異世界に来た俺にとってそれを拒否する理由も必要もないので、さっさと署名をした。慣れない名前でのサインは苦労したが、それより驚いたことは全く知らないはずのこの世界の文字でサインが出来たことだ。読むだけでなく書くことも出来るとは至れり尽くせりだ。


 「宿というと?」


 「新しく来られた転生者の方はひとまずこちらで用意した宿に泊まっていただきます。申し訳ありませんが一通りの手続きが完了するまでは勝手な外出は禁止させていただきます」


 「はあ、構いませんよ。どうせ行く当てがあるわけじゃなし」


 「それからもし体に何か異変があったらすぐ知らせてください。宿の人に頼めばすぐこちらに連絡が来るようになっています」

 

 「異変?というと……」


 「とにかく何か変わったことがあったらです」


 「転生したことで何か影響があるんですか?」


 「……その可能性もあるということです。お願いします」


 「わかりました」


 さっきまでと違い妙に真剣な雰囲気になったネリーに、俺はいささかの不安を覚えたが、今のところ体に異常はないので、素直に頷いた。


「それでは宿にご案内します。リリア!メイビス!」


 ネリーが呼ぶと、壁際のソファに座っていた二人が立ち上がる。


 「終わった?お疲れ様」


 リリアが体を伸ばしながら言う。待っている間退屈だったのだろう。


 「お願いね。女将さんには本部が転生者反応を感知した時点でこっちから連絡が行ってるはずだから。部屋の用意は出来てると思うわ」


 「りょーかい。じゃ行きましょうか」


 ネリーに挨拶し、監督署を後にした俺はリリアとメイビスに付いて街を歩き出した。陽が傾き始め、店先に喧騒が増えてきた気がする。俺は見知らぬ世界の風景に緊張し、リリアたちに当たり障りのなさそうなことを質問してみる。元の世界では自分から女の子に話しかけるなど滅多になかったことだ。環境の変化と体が若返ったことが自分の心境にも影響を与えているのかもしれない。


 「リリアたちはこれが初仕事って言ってたけど」


 「そうよ。研修期間が終わってこの間正式に職員採用されたの。メイビスとは同期よ。だからあんたを迎えに行ったのが私たちの初仕事」


 「リリアはどうして監督署の職員になったの?」


 「面白そうだったから」


 「面白い?」


 「ええ。他の世界から来た人たちってこの世界にはない色々なことを知ってるでしょ。それを聞くのが楽しみだったのよ」


 「ふーん、じゃあメイビスは?」


 「わ、私はその……親から薦められて。安定していて周囲の環境もいいからって」

 

 「メイビスはお嬢様だからねー。ご両親が心配なさるのも当然よね~」


 「リ、リリア!」


 恥ずかしそうに顔を赤らめるメイビス。成程、おっとりした感じなのはそのせいか。それにしても……


 「ええっと……女性に年齢を訪ねるのは失礼だと分かってるけど敢えて訊かせてもらうね。二人は幾つなの?」


 「失礼だと分かってるなら訊かないでよね。まあ気にするほどの歳じゃないけど。16歳よ。メイビスも同じ」


 「やっぱりそれくらいか。いや、俺の元居た国じゃ君くらいの歳だとまだほとんどが学生だからさ。ここではみんな君たちくらいで働くのかなってね」


 「まあ人によるわよ。魔法学校の専門課程に進む子もいるし、高等学術院で教授の助手をやる子もいるわ。でも大抵の子は15歳で魔法学校の修士課程を卒業したら働くわね。監督署の職員は結構人気で倍率高いのよ」


 さりげなく自慢を交えるリリアに苦笑しながら俺は頷き、


 「へえ、すごいじゃないか。優秀なんだな、二人とも」


 と言ってやる。人づきあいが苦手な俺でも二十年以上社会人をやっていればこれくらいの気は使える。


 「べ、別にそれほどじゃないわよ。ねえ、メイビス」


 「そ、そうですよ。そんな大したことは」


 本気でそう言ってるであろうメイビスに対し、リリアは明らかに喜んでいる。言ってもらいたかった言葉が聞けて満足だというのが手に取るように分かる。全く可愛いものだ。


 「ほ、ほら着いたわよ。監督署御用達の宿、『小鹿亭』」


 リリアが右手の建物を指して言う。小鹿亭はそれほど大きな宿ではなかったが、綺麗な外観で趣味がよさそうな造形の建物だった。ドアを開けると、喧騒が耳に入って来る。一階は食堂というか酒場のようになっていて、大勢の人がジョッキを傾けたり皿の上の料理に舌鼓を打っていた。リリアが右手の厨房らしき場所に近づき、声をかける。


 「女将さーん、監督署の者です。お知らせしておいた新しい転生者を連れてきました」

 

 「はいよー」


 元気な返事がして、奥から一人の女性が姿を現す。背の低い中年女性で、小太りの体格をしている。顔は中々の美形で、若いころはさぞモテたのではないかと思えた。


 「はい、いらっしゃい。大変だったろう?いきなり違う世界にやって来て」


 女将さんはにこにこしながら俺にそう話しかけてくる。人の好さそうな女性ひとだ。

 

 「はい、まあ」


 「腹減ってるだろ?簡単なものしかないけどまずは食べてきな」


 「いいんですか?あ、でもお金が」


 「大丈夫だよ。ね、リリアちゃん」


 「ええ。とりあえず暮らし向きが決まるまでは監督署が宿代と食事代を肩代わりするわ。仕事が決まって収入が安定したら返してもらうってことで。……って女将さん、私の名前知ってたんですか?」


 「ははん、旅館の女将の情報網を甘く見ないでもらいたいね~。監督署に可愛い新人が二人入ったなんてことは先刻ご承知さ」


 「や~ん、可愛いだなんて、そんな本当のこと言わないで下さいよー」


 少しは謙遜しろ、とツッコミたくなったが、確かに二人は可愛いし、何よりこの自信たっぷりなところがリリアという子の魅力なんだなと分かってきた。控えめなメイビスとはいいコンビかもしれない。


 「それじゃちょっと待ってな。空いてる席に座ってておくれ」


 そういって女将さんは厨房の中に戻っていく。俺は手近な空席に腰を下ろし、ふう、と息を吐いた。ここに来て急に疲れが押し寄せてきた気がする。


 「じゃあ私たちは帰るわね。明日の朝迎えに来るから寝坊しちゃダメよ」


 「ああ、ありがとう。本当に世話になったね」


 「礼はいいわ。仕事ですもの」


 「ゆっくり休んでください。それでは」


 リリアはウインクをしながら手を振り、メイビスは丁寧にお辞儀をして小鹿亭を出た。一つ一つの仕草に性格が反映されていて面白い。


 「ほい、お待ち」


 暫くして女将さんが料理とジョッキを運んできてくれた。皿に乗っているのは見たことのない野菜のソテーと、これまた見覚えのない何かの肉のグリル。ジョッキの中身は色といい上に乗った泡といいビールそのものだ。こういうのは万国ならぬ全異世界共通なのだろうか。って俺今体は未成年だと思うのだがいいのか?


 「いただきます」


 今まで緊張していて感じなかったが、こうして料理を目の前にすると自分がひどく空腹だったことが分かる。そういえば元の世界で倒れたのは昼前だった。そう考えると随分長い間食事を摂っていない。


 「美味っ!」


 野菜のソテーを一口食べて、俺は思わず声を上げた。温野菜特有の甘味に加え、かすかな苦みが舌を刺激する。大きな葉の野菜は火を通しているのにシャキシャキした歯ごたえがあり、感触でも楽しませてくれた。味付けは塩と胡椒のみのようだ。尤もこの世界の塩胡椒が俺の世界と同じとは限らないが。


 「おお、これは!」


 続いて口にしたグリルも絶品だ。鶏肉を少しさっぱりさせたような味わいだが、それに塗ってあるソースが美味い。甘辛いソースが肉によくしみ込んでおり、食欲をいや増す感じだ。俺は勢いでジョッキも口に運んだ。苦みはあるが、やはりビールとは違うもののようだ。だが疲れた体にはまさに干天の慈雨といった感じがする。というかこれもしかして……


 「どうだい、気に入ってくれたかい」


 夢中で食べ進める俺のところにまた女将さんがやって来て尋ねる。


 「はい!すごく美味しいです!こんな美味い料理久しく食べたことありませんよ」


 「そりゃよかった。この世界で初めて食べるもんが不味かったら悲しいからね」


 「あの女将さん、このジョッキに入ってるのって」


 「ん?ジュニアショットのことかい?」


 「これ、お酒じゃないんですか?」


 「ははは、そうか。初めて見るんだもんね。こいつは酒じゃないよ。アルコールはゼロ。大人たちが飲んでるのはビッグショットっていって立派な酒だけどね。背伸びしたガキが大人の真似して飲みたがるんでね。子供用に作られたもんさ。あんたも未成年だろう?だからこいつを出したのさ」


 中身は立派なおっさんなのだが、元々酒は弱いので却ってありがたい。


 「ごちそうさまでした。本当に美味しかったです」


 「はい、お粗末様。じゃあ今夜はゆっくり休みな。あそこの階段を上がって手前から二つ目の部屋を用意してあるから、そこに泊まっとくれ」


 「何から何までありがとうございます」


 「なあに。監督署からはしっかりお代を頂いてるからね。しっかり働いて返しなよ」


 「はい」


 俺は女将さんに頭を下げ、教えられた通り階段を登って二つ目の部屋を開けた。六畳ほどの広さの部屋にベッドとランプの乗った小さなテーブル、そして木製の椅子が一脚置いてある。正面にはガラスの嵌った窓。その前に薄いカーテンが掛かっている。壁には衣装棚があり、床は下の食堂と同じフローリング。天然木だと思うが、ニスが綺麗に塗られていて光沢がある。埃も落ちておらず、シーツはピシッとしていてベッドメーキングも完璧だ。女将さんがやったのか他の従業員がやったのか知らないが、どちらにしてもいい仕事をしている。


 「ふう」


 何一つ荷物もない身軽な体の俺はベッドに腰かけ深呼吸する。疲れた。今日はいろいろありすぎた。半日前までは別の世界にいたのだ。それが急病で倒れてそのまま死に、この世界へ転生。美少女二人に連れられてこの町へ来た。怒涛の一日としかいいようがない。それにしても異世界転生とはある意味ベタな展開に巻き込まれたものだ。俺がアニメオタクだからか?日本人が多いとリリアは言っていた。この世界には他にもたくさんの転生者がいるようだが、全員俺のいた世界から来たのだろうか。それともまた別の世界からの転生者も……。

 どちらにしろ来てしまったものはしょうがない。この世界のことは明日のレクチャーを聞かないとわからないが、ここまでの様子から察するにどうもこの世界は典型的なファンタジーワールドのようだ。おそらく魔王がいてその配下の魔族が人々を襲っていて、それに立ち向かう勇者となるべく多くの異世界人が召喚されているとかいうテンプレ展開に違いない。他の転生者の中には自分こそ選ばれし勇者でチートな魔力を有し、冒険者となって可愛い女の子に囲まれながら魔王を倒すのだ、などと考えている輩も多かろう。皆が異世界に転生した時点で主人公だと思いたがるだろう。特に血気盛んな若者ならば。

 しかし俺は違う。社会に出て二十数年、理不尽や不条理な出来事を嫌というほど見てきた。殊に俺のような低学歴者にとっては納得のいかないことが数多あった。ましてコミュニケーションを取るのが下手な人間にとっては社会は生きづらいことこの上ない場所だ。だから俺はいつしか過度な期待はしないようになった。例え蔑まれようと真面目にコツコツ働き、破滅的な状況に陥らぬよう、目立たずひっそりと暮らしてきたのだ。それはこの世界でも変わらない。大体主人公だの勇者だのは確かに役得はあろうが、必要以上に苦労をしょい込むものと相場が決まっている。強敵と戦って瀕死になったり、陰謀に巻き込まれて群れ衣を着せられたり。大抵のアニメやラノベは圧倒的な主人公補正ともいうべき展開でハッピーエンドを迎えるが、今の俺にとってこの世界は現実だ。現実がハッピーエンドにならないことなど嫌というほど知っている。だから俺はモブキャラを目指す。画面の端っこに時々映り、敵が攻めてきたときにはその強さを際立たせ、主人公を盛り上げる役回りだ。しょぼい攻撃魔法を放って「バ、バカな!なんて力だ」とか言った後吹き飛ばされ、壁に激突して気絶する冒険者Aとかクレジットされる存在。強力な魔族にセリフもなく殺されるというのはちょっと困るが、最終回までしぶとく生き残り、魔王を倒した勇者を讃える町の住人とかが理想だ。ひっそりこっそり目立たないようにこの世界で生き抜いていきたい。魔王退治は他の転生者に任せればいいのだ。

 そんなことを考え込んでいるうち、強烈な睡魔が襲ってきた。緊張が解け、疲れが一気に表面化したようだ。俺はベッドに体を横たえ、歯を磨いてないな、などと思いながら、ゆっくり眠りに落ちていった。


 ……ふと目が覚めた。


 のろのろと頭を動かし窓を見ると外はまだ真っ暗だ。慣れない場所でよく寝付けなかったか。


 「!?」


 その時、俺ははっきりと視線を感じた。見られている、と直感する。慌てて体を起こし、周囲を見渡すが、人の気配はない。テーブルの上のランプはほぼ消えかけ、部屋は暗闇に支配されつつあったが、誰かが潜んでいれば分かるはずだ。狭い上に隠れられそうなところはほとんどない。念のため起き上がり、衣装棚とベッドの下も覗いたがやはり影も形もない。それでも誰かが自分を見ているのは確かだと思えた。


 「監督署の監視か?」


 勝手な外出をしないように?しかし昼間のネリーの様子からは夜中にこっそり見張るような真似を監督署がするとは思えなかった。そもそも監督署にはあの嘘を見抜く水晶球があるのだ。わざわざ一晩中監視する必要もないだろう。


 「う~ん」


 それにも増して決定的なのはこの視線の感じだ。これには何ともいえない気分の悪さを覚える。俺は武道の達人などではないので、気の種類が細かくわかるという器用な真似は出来ないが、今感じているのは敵意、悪意、殺意といったものとは違うような気がする。うまく言えないけれど何かよくないもの、という感じだ。俺はいつの間にかびっしょりと額を濡らしていた冷や汗を拭い、窓に近づく。表の道沿いに明かりがポツポツと灯っているのが見えた。背の高いランプ灯だろう。人の姿は全く見えない。色んな種族がいるようだから夜行性の者もいそうなものだが、動いているものは何一つ確認できなかった。


 「気のせい、じゃないよな」


 改めて暗い部屋の中をぐるりと見回す。と、突然感じていた視線が消えた。俺が目覚めたので監視を止めたのか。しばらくじっとしていたが何も変化は起こらず、俺は胸に嫌な気分を抱えながら再びベッドに横たわった。


 



 「トーマ!いつまで寝てるの」


 いきなり耳元で声がして、俺は飛び起きた。寝ぼけ眼を擦ると、目の前にリリアが立っている。


 「リリアか。おはよう」


 「おはようじゃないわよ!寝坊するなって言ったでしょ!」


 「怒鳴るなよ。昨夜は寝つきが悪くて……」


 そこまで言って俺は昨夜の視線のことを思い出し、慌てて部屋を見渡した。別段変わった様子はなく、視線も感じない。


 「何、いきなり。まだ寝ぼけてるの?」


 「ああ、いや。しかしリリア。いくら仮宿とは言っても他人ひとの部屋勝手に開けるなよ」


 「あんたがさっさと起きないからでしょ!」


 そう言ってプン、と横を向くリリア。そういえば昨夜部屋の鍵かけるのを忘れてたか。しかしこの光景はシチュエーションだけ見れば主人公を幼馴染のツンデレ美少女が起こしに来るというアニメのテンプレ展開だな。俺は主人公なんぞ願い下げだが、可愛い女の子に起こされるというのは悪い気分ではない。

 

 「早く支度して。監督署に行くわよ」


 「ああ」


 支度も何も持ち物は何もないし、服もこの制服だけ。すぐにでも出かけられるが。


 「ん?」


 その時俺はリリアを見て異変に気付いた。彼女の体の周囲がぼんやりと光っている。淡い赤色の光が体から漏れ出ているように見えるのだ。


 「どうしたの?」


 俺の様子がおかしいのに気付いたか、リリアが不審そうな顔でこちらを見つめる。


 「あ、ああいや、何でも」


 そう言っているうちにリリアの周りの赤い光は消えた。気のせいだったのか。しかし……


 俺は廊下に出て共同の洗面台で顔を洗い、リリアに付いて階下に下りて行った。朝の時間帯のせいか昨夜に比べて食堂にいる人間は少ない。階段の上からぐるっと見回したが女将さんはいないようだった。


 「!」


 俺は一階に下りた途端、声にならない叫びを上げた。テーブルで食事をする一人の男の体の周囲に、先ほどのリリアの時と同じような光を見たのだ。それはリリアとは違い青い色をしていて、煙のように体から立ち上っている。寒い時の風呂上がりに体から湯気が立っているような感じだ。

 これは何かの異変か?思わず冷や汗が流れる。昨日ネリーが言っていたのはこのことか。もしかしてこの世界に来たことで何らかの能力を得てしまったのか。冗談じゃない。俺はモブキャラとしてひっそり生きるのだ。特別な力などいらない。


 「何やってんのよ」


 急かすリリアに動揺を気取られぬよう俺はそのまま小鹿亭を出る。もしかして、と思ったが、外に出た俺はさらにショックを受けた。街に溢れる様々な人々。そのうちの何割かがあの光を体から漏れださせていたのだ。言い合いをしている二人からはさっきのリリアよりずっと鮮やかな赤い光。店先で酒瓶らしきものを持って俯いている初老の男からは濃い青色の光。それ以外にも黄色や紫色など濃淡様々な色の光が煙のように立ち上っている。

 

 「これは一体……」


 俺に何らかの異変、恐らくは何かの能力が備わったのは確かに思われた。このままではまずい。なんとかしなければ厄介なことになると、俺の勘が告げる。リリアに伝えるか?しかし彼女は俺の様子にあまり注意を払っていないように見える。どのみちこれから監督署に行くのだ。そこで伝えても大差はないだろう。この後レクチャーを受けるそうだから、そこで何らかの答えが提示されるかもしれない。


 「遅いわよ。置いてっちゃうからね」


 リリアの声も碌に聞こえず、俺はこの先のことを考えながら、ゆっくりと監督署に向かった。

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