僕らは自由である。

雨野 じゃく

僕らは自由である。

僕らは自由である。


今は夜、目の前の横断歩道の中央に、小さなおばぁさんが大きな荷物を背負い、杖をついて歩いている。

信号機はすでに赤になり、車が動き出した。

トラックの運転手を見ると、彼は年を取った男性だった。

彼はぼぉっとすました顔をしていた。


僕は、きっとこのままだとおばぁさんは轢かれるだろうと思った。

しかしトラックはまだ遠い。まだ加速している最中だ。

僕が行動すれば、助かる。


僕らは自由である。


おばぁさんを助けても、助けなくてもいい。

助けなきゃいけないなんてことはない。

もし、助けるのが普通だからとか。

もし、助けなきゃいけない状況だからとか。

もし、近くに人がいるからとかなら、やらないほうがいい。


僕はただ眺めていた。

おばぁさんはトラックに気づかないで、一生懸命に歩いている。

少し経つと、トラックが近づいてきて彼女をはねた。

おばぁさんを引いたトラックは100mほど先に停車し、運転手が下りてきた。

おばぁさんは見えない。


目の前の信号機が青に変わった。

僕は歩き始める。


僕らは自由である。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

僕らは自由である。 雨野 じゃく @Haruto_Okuyama

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ