第28話 産声
······昨晩から感じていた鈍痛が、一定時間を置いて確実にはっきりとした痛みに変わって来た。
夜中に自宅から病院に移ってからも、次第にその痛みは時間と共に増して行く。心配そうな夫が、妻の腹部を何度も擦る。
痛みが生じた時に擦ると楽になる。妻がそう言うと、夫は必死に妻の腹部を擦った。本格的な痛みが始まり、病室に看護師が二人入って来た。
看護師の指示で妻は息を吸い吐く。それを繰り返しても、中々胎児は頭を見せなかった
。
「促進剤を使います。いいですね?」
看護師が夫と妻に確認する。このまま長引けは、母子共に良くない影響があると説明される。
夫婦は同意し、促進剤が使用された。すると、程なくして病室に赤子の泣き声が響き渡った。
「おめでとうごさいます。女の子ですよ」
タオルに巻かれた赤子が、看護師から母親に手渡された。乳飲み子のそのしわだらけの猿のような顔に、夫は両目に涙を浮かべて見つめていた。
妻は疲れ切った表情で我が子を胸に抱いた
。そして、微笑しながら乳飲み子の顔を見つめていると、妻は突然両目から大粒の涙を流し始めた。
その涙が、生まれたばかりの我が子の頬に落ちた。
「あかね?大丈夫?あれ。この子、右目の下に小さいホクロがあるね」
夫の荒島亮太は、赤子の小さ過ぎる顔を至近で見つめ、そう言った。
『大丈夫。きっとまた会えるよ』
遠い昔。確かに聞いたその言葉が。鮮やかに。そしてはっきりとあかねの脳裏に甦った。
一旦は泣き止んでいた赤子は、頬に落ちた母の涙に反応し、再び泣き声を上げた。
君を守る為に、僕は三度生まれ変わる @tosa
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