第4話

肋骨の隙間を縫うように勇者が握る聖剣が心臓を完全に貫く。

 痛みは全く感じることはなく、代わりにに焼けるような熱が心臓から喉にかけて走る。

 ワシは勇者に敗れたのだ。

 数名のゆうしゃぱーてぃーとの激しい攻防。最初はかなり優勢であり、勇者の仲間を一人、また一人と亡き者にし最期、勇者との一対一の激しい攻防が繰り広げられた。 

だが、精霊の加護を受けた聖剣の力、そして、政権の加護を受けた勇者の力はさすが歳か言いようがない。

 皮肉なことに、元は創造神として産み出した精霊達の力は元は創造神、元魔王に匹敵するほどの力を得ていたのだ 決して我が勇者に負けたのではない。我が産み出した力、我が分身の力に敗れたと思えば致し方ない。

 

「ゴハァ!」

 敗れた心臓からあふれる血液と敗れた肺に流れ込み喉を逆流して、口から漏れる。

 勢いよく飛び出す鮮血は、眼前の勇者の顔を侵食する。

 



 「最期にー・・・・・言葉・・・・・か!」

 すでに虫の息のワシには勇者がなにを言ってるのかを聞き取ることができない。


 だが、この場面での常套句は、最期に言い残す言葉はあるかーー!? であろう。

 ワシは一瞬でも忘れたことはない。

 勇者から受けた屈辱。そう・・・・・・・。




 あの日勇者が食べていた食欲をそそるカップヤキソバの香り。 ワシは、一口でもいいから食べたかった。


 だが、代わり勇者が寄越したのは食べ物とは言いようもない物。 


 あの屈辱だけは忘れることができない。


 恐らく、ワシはこの後、何も言わずとも首を跳ねられ、全ての幕を閉じるのであろう。

 並ば一言、積年の恨みを放つしかない。

  勇者の聖剣に貫かれた心臓、そして、背中まで貫通したヵ所の痛みは全くない。

さきほどまで感じていた熱さえも全くない。ワシの意識は既に遠退きその場に膝をついてうなだれている。

 

「カハッ・・・・・! た・・・・・

吐血しながら、最期の言葉を口にする。


「たべ物の・・・・・う・・・ら・・・・」

  

「み・・・・・」


 それだけ、言ったワシの視界が一度真っ白に暗転する。

 そして次の瞬間、激しい痛みが頭に走る。


  ワシは勇者に首を跳ねられ首からしたがもうないことを悟る。

 だが、脳に残る僅かな血液と酸素だけが、束の間の時を与える。


 既に、視界は暗転し何も見えない。さらには聴こえて来るのはキーンという耳音。


それ以外の音は何も聴こえない。


そして、首からしたが存在しないせいなのか首からしたの感覚が全くない。


 だが、感覚。 


勇者がそこにいるという感覚と、ワシの最期を見つめる勇者の視線だけを感じることができた。

 

 全ての生物がそうであるかのように、完全に息絶えるその瞬間、思考が加速する。

 

  ワシが食べ物の恨みと最期に言った瞬間、勇者は恐らく何のことかはわからぬであろう。


わしに残された時間も残りわずか。コンマ数秒程度のものだ。 ならばいえるのは一つ。

「か・・・・・カッ・・・・・カップ・・・・・ヤキソバ・・・・・」

ただひとことだけ呟くとワシの意識は完全に途絶えた。











 目が覚めるとワシは見知らぬ世界で目覚める。

 不思議なことに、この世界の歴史も文化も言葉もわかっていた。


 そして、いつのまにかワシのなかにある記憶も産まれてから今までの記憶があると同時に過去の記憶。


 わしが創造神であり、魔王に堕ち勇者に首を跳ねられた記憶もそこにあった。


 

 

 ワシはどうやら、この世界で人間として産まれ人間として生活し何故かわからぬが、この神社に住み着いていた。

 

 この世界でいうコジキやホームレスというものではなくこの世界でのカーストの頂点。JK(女子高生)という存在・・・・・。


自分でも色々とつっこみたくなるし!なにがなんだかサッパリわからないのだが、わし(私は)女子高生になっていた。


 濃緑色のブレザーにスカート。足元は黒いにーソックス。スクールバッグ片手に学校生活というものを演じていた。


  発展したこの世界にはテレビや雑誌、スマートフォンというものが発展しそれらの情報源からは様々な情報が飛び交い、いつのまにか、わしは新世紀の美少女として成り上がっていた。

 

この新世紀の美少女の記憶によると、新世紀の美少女は人前でカップヤキソバというものは食べてはいけないらしい。


着るものも食べるものも、持つものにも制限があり窮屈な生活をしているのだが、・・・・・。


 だが、この新世紀の美少女なかなかの悪党。 腹黒い性格をしていて好きな者は好きに買ったり食べているという性根の腐った奴だった。



 

 幸か不幸か災いか、ワシはこうして食べたかったカップヤキソバを食べることができているのだ。


 勇者に首を跳ねられた時は、あのカップヤキソバが二度と食べられない。 と絶望を感じたのだが、今にして思えば首を跳ねられることによって、こうして食べたかったカップヤキソバにありつけられる。


 なんと幸せなことか・・・・・。

 もし、あのまま勇者に首を跳ねられることなくあの世界にいたのならば、すぁしはこうしてカップヤキソバにありつけることはできなかった。

  勇者よ、首を跳ねてくれてありがとう。


 




こうしてワシは物思いに耽りながらたちあがる。


 

 

 

 

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喰うべし 藍上(あいがみ)おかき @bellss

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