第3話






「いらっしゃいませ」

 陽が傾きはじめ、空の色が赤色に染まりはじめる頃、

 空の色が町並みをも朱色に変える。

 まっかに染まるということではないが、女の子が恥ずかしかったりてれたりするときにみせる顔を朱く染める程度。

 

町並みがわずかに朱に染まるといった程度だ。

 あと数時間もすれば、帰宅する人々であふれ帰り、最近流行りのコンビニエンスストアにはたくさんの人であふれかえり、買い物をするのも一苦労といったところ。

 

 普通では考えられない、硬質の道路に建ち並ぶ建造物は、どれも無機質な灰色。 稀に風が吹けば飛ばされてしまいそうな建物もあるが、現代技術の結晶それとも文化のち違いなのかはわからないが、ちょっと崩れかけた建物でも、なかなか、吹き飛ぶことはなく、その堅牢さは何度見ても感心せざるを得ない。


 無機質で灰色の建造物群の地域を抜け通りを抜けると色とりどりの家屋が建ち並び、これらもまた、それ以上の現代科学の極み。 ちょっとした、暴風雨にもびくともしない作りだ。

 耳を澄ませば住人の笑い声や泣き声、たまに怒鳴り声も聞こえるがそのどれもが温かみがあり、心に響くものがある。



 

人々が生活する圏内から僅かに離れ、残り少ない木々で囲まれた公園の向こう。石垣の上に立てられた神社がある。

 それほど大きくもないし数も少ないが、数段の階段を歩くのと変わらずに登ると、もとは赤井色の塗料が塗られていたのであろう、境内への入口、鳥居がある。

 

 所々にハゲそびれた塗料がのこっているが、全体的には純粋な木の色で奇麗に塗装されていれば、立派な存在感を醸し出していたのであろうが、それでも年季というものであろうか? 現代技術の粋を集めたのであろう鳥居は、どんな暴風が到来しても倒れることがなく、つねに人々を迎える門としての役割をつづけている。

 

 

 

 鳥居をくぐり抜けて一歩足を踏み入れれば、そこは既に聖域。 下界とは違う雰囲気を呈している。

 左右に並ぶ木々は壁の役割を果たし境内を外から守るように敷地を取り囲む。

 

いつものように、鳥居をくぐらずに通路の外側、まばらに生える木々の合間を抜けると、境内の最奥部にはごし神体を祭る社殿がある。

 社殿の向かいには参拝者のための賽銭箱と社殿にすまう神様を呼び出すためドラが吊されている。


 社殿へと進む石段の中腹から賽銭箱を見下ろす形で座り込む。

 


 茶色のビニール袋には、熱々の白磁の容器が食欲をそそる独特な香が湯気とともに漏れ出している。


 

 下界と隔絶された境内は既に薄暗く、頭の上で鳩かカラスが羽根をばたつかせる程度。

 時折猿か猪が現れては餌を求めて山から降りてくる程度。

 最近では神社に訪問する人間は少なく、神社の管理人か神職の者か熱心な参拝者が来る程度。

 真夜中になれば近所の悪ガキか、変態か、酒に溺れた泥酔者が出没する程度で、この時間であれば神社の関係者もそういった輩も訪れることは全くない。


 

 ビニール袋から白熱々の白磁の容器を取り出して膝こ上に載せる。

 蓋をされている容器ではあるが、容器と蓋の隙間や僅かに開いた排気口からは、暴力的なまでの香が食欲を揺する。 


 

  コンビニエンスストアでいつも貰える割り箸を口に加えながら容器の蓋を剥がす。


 爆発的な甘酸っぱい魅惑な香りの本流は、鼻孔を侵し口内は、すでによだれがダダもれ状態となる。

 口に加くわえていたわりばしがよだれの侵食を被る前に手にとって握り混む。

 

 白磁の容器の中は湯気により覆われ、ソース特有の茶色に染め上げられた麺がいある。

 ポツポツと浮かぶ僅かに染め上げられた野菜の緑色と、もとから茶色かった小さな肉塊がヒョコヒョコと存在する。

 

コンビニで、一度調理して、すぐに食べれる状態にしてあるのだが、容器をしっかりと手にもって、食べやすいようにめんをほぐし掻き混ぜる。

 

  ソース特有の香りの第二波が鼻孔を侵食してすでに我慢の限界。

 

 割り箸で適量をつまみ上げて口内に運ぶと熱されていた麺に絡み付いていたソースの甘酸っぱさが爆発的な奔流で広がる。

 一口くちにいれてしまえば、自分の意思ではおろか他の誰かが止めに入っても止めることはできないであろう


 

独特な甘酸っぱいソースと麺が絡み合い口内では何物をも近づけさせない、奔流が暴力的に生み出され、咀嚼して飲み込むたびに例えがたい満足感に包まれる。


 こうなってしまえば、箸で摘んで口の中に入れる行為gq止まるはずもなく最後には、何も考えられなくなり頭の中は真っ白。ただ口の中に放り込むようになってしまう。

 恐るべき! カップヤキソバの魔力。


 主食である麺の姿はなくなり、容器の中には僅かに残った肉塊と、取り残された野菜が麺に吸われなかったソースのなかで漂っていた。


 

 

 

 

  そう、鷲ワシが初めてカップヤキソバというのを知ったのは鷲があちらの世界で創造神として崇められていたときだ。

 異世界からやってきた勇者がこのカップヤキソバを口にしていたときにワシも欲しくなってしまったのじゃ。

 創造神としての立場を置いて異世界から来た勇者にカップヤキソバをもらい、もちかえったのじゃが、

 

持ち帰って、いざ実食。

 勇者が食べていたホカホカで柔らかくて甘酸っぱいソースが麺に絡み合った、このカップヤキソバという食べ物。

 

 中身を開けてみれば人肌のような色をした堅い物体。

 一瞬!ナンジャこれは? と、疑問に思いながらもくちにしてみれば・・・・・




ーーーーガリーーー


 

その瞬間、ワシは思わずぶちギレて世界を滅ぼすために魔王と転落したのじゃ。


 

 



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