邂逅、サハラ死闘編 第二話 アルティメット・カブ


 ポスト・ポストカリプス世界では、スーパーカブが畑で採れるということは子供でも知っている一般常識である。

 増殖したポストのそばには時々、カブの種が落ちている。種――高密度圧縮されたカブの空間情報体は丁寧に耕した畑に埋めると、ポストカリプス前から存在する、かつて生産インフラを動かしていた地下ネットワーク茎へとタキオンファイバー製の根を接続する。そしてコンポストと呼ばれる特殊なポストから公開暗号鍵とエネルギーや資材やらを受け取りすくすくと成長するのだ。

 旬は3~5月の春と、10~11月の秋。通年出荷されているが、春物は乗り心地がやわらかく、秋物は排気ガスの匂いの甘みが強くなると言われている。スーパーカブ農家はポスト・ポストカリプス文明の基盤を支える大事な第一次産業だが、近年後継者不足に悩まされており、特に全世界規模での厳しい人口減による嫁不足が深刻化している。

 畑産カブのサイズは凡そ1.8メートル。よほどの大物でも2メートルを超えるくらいであり、祭事に使われる特別な種類でようやく3メートルほど。

 10メートル超のカブなど、俺はこれまで見たことも聞いたこともない。


「この誓約は、郵便の軍務をなるべく安い料金で、あまねく、公平に提供することによって、公共の福祉を増進することを目的とし、ひいては郵政省の勝利にこの身を捧げる為のものである」

 白い女の子がこれまでのどこか投げやりで適当だった口調から一転、朗々と、滔々と口にするその内容に俺は覚えがあった。郵政省の部隊の中でも最精鋭と謳われた、カンポ騎士団ポスタル・オーダーの入団時の誓詞だ。

 カンポ騎士団とは謎めいた総帥、ロード・カンポに率いられた神出鬼没の軍団であり、第二次環太平洋限定無制限戦争時、八丈島の戦いで南アメリカ連合王国軍相手に陸海空全てを走行可能なスーパーカブの機動力を最大限活かした、圧倒的包囲殲滅戦を仕掛けたことで名高い。

 だがカンポ騎士団は人類最後の戦争となった第四次環太平洋限定無制限戦争の時代には既に解散していた筈だが……。

 俺が訝しんでいる目前で、女の子が詠唱する入団誓詞と共に、巨大スーパーカブ――アルティメット・カブがパワーラインに沿ってパーツ展開を始めた!

「郵便の軍務は、この誓約の定めるところにより、カンポ騎士団が行う」

 ガゴンガゴンガゴン! 巨大パーツ同士が擦れ合い立てる音は、これから戦場へと向かう兵士を鼓舞する銅鑼鐘の音の様だ! パワーラインを走る光の色が女の子の瞳と同じ赤色に染まり、吹き出す圧縮蒸気を払暁の空色へと染め上げる!

 アルティメット・カブのカウルの〒マークからレーザービームが投射され、空間に巨大な〒マークを拡大投影する――と、〒マークが形を歪め、まるで人型のように直立した。アルティメットカブもそれに合わせた形へと姿を変えていく。

 変形! 変形である!

 サイドスタンドとメインスタンドはバシャバシャッという音とともに前後・左右に二段階展開、チェンジペダルやキックスタータペダルと組み合わさり、逞しい脚を形成。

 タイヤも分解、再結合が行われ、分厚いゴムは肩パーツとなる。スポークが絡み合いスカスカな腕を作り上げる。隙間はすぐにエネルギーラインが走り、謎めいたチューブやシリンダーで埋められていく。

 フロントカウルは頭部へと移り、折れ曲がって武者兜のような装甲となった。ポジションランプとヘッドライトが顔面部分に縦に並び、カバーが内側から炸薬破砕され広域センサーとモノアイカメラが露わになる。

「郵便に関する任務は、郵便事業の能率的な作戦の下における適正な戦闘を行い、かつ、適正な勝利を含むものでなければならない」

 グオオオオオオン!! 胸部の50万馬力級横型エンジンが排気を開始した! まるで大地そのものが震えて音を出しているかと錯覚する凄まじいアイドリング!

 二足で大地を踏みしめるその威容、凡そ全高12メートル。神々しき佇まいは、まさにこの世に顕現した郵便の神ヘルメスの如し!

 しかし胸の部分に未だ空白がある。だがそこに生えている二本のハンドルグリップを見ればその役目は明らかだ。

「……何人も、騎士団の庇護下において差別されることがない」

 白い女の子はぐっと屈むと砂煙を巻き上げながら大跳躍、空中で捻りを加えた回転をすると地高8メートルの部分にあるコックピットにピタリと収まった。同時に透明なキャノピーがコックピットと外界を遮断する。

定形外二輪輸送車型決戦配送機アルティメット・カブ個体識別用コード『トリスメギストス』起動完了。配達員ポストリュードによる誓約認証突破を確認。おはようございます配達員・ナツキ』

 モノアイを〒型に光らせながら、アルティメットカブ・トリスメギストスが穏やかな男性の音声を発した。

 白い女の子――ナツキというのか――は目を文字通り輝かせながらそれに応える。

「おはよう、トライ。だいたい1200四半期ぶりかな?」

 四半期というのはポストカリプス以前に存在した神秘的な時間の単位である。主に軍事用の暦として用いられ、戦争もこれに合わせて行われていたという。

『正確には1211四半期ぶりです、ナツキ』

 のんびりした会話を行う一人と一機。今はそれどころではないだろうが!

 スタンプコレクターはアルティメット・カブを叩きつけられたダメージから既に立ち直り、なおかつその体躯を二回りほど膨らませていた。その巨体は今やトリスメギストスに匹敵するほどだ!

 俺の銃撃からの回復といい、異様にタフなその秘密は周囲のポストに巻きついて何らかのエネルギーを吸い上げている触手にあると見て間違いないだろう。

「SHUSHUSHUUUUUU!!!」

 スタンプコレクターは複数の触手を束ね高速回転させる。溶解粘液の飛沫を撒き散らしながら周囲の大気を引き裂く唸りをあげるそれはまさに肉色をした岩盤掘削機! 悪夢!

 対するトリスメギストスは6本のマニピュレーターが生えた武骨な腕をガードするでもなく前後にぶらぶらと揺らしているだけ。おい大丈夫なのか。

「少年、そこ危ないから伏せておいて」

 ナツキが外部スピーカーを通して俺に警告を送った、瞬間――颶風が荒れ狂った。

「うおおお!?」

 俺は手近なポストに咄嗟に掴まり、空高く吹き上げられるのを辛うじて防ぐ。

「ハッハアァッ!!」

 高揚の笑いとも裂帛の気合ともつかないナツキの声が遅れて聞こえてきた。網膜ナノアイカメラの120fpsスロー撮影モードでも上手く捉えきれない、それは言ってしまえばただの踏み込みだった。地面が爆発し、砂とポストを跳ね飛ばし、音の波は発生するそばから前方の波にぶつかって甲高い破裂音を作り出し周囲一帯にぶちまける。それは破滅的な有様だったが、全高12メートル重量50トンの鉄塊がこの速度で動いたにしては静かすぎるし破壊の規模も小さかったのを俺は看破した。

 俺はつい先程、ナツキが片手でトリスメギストスを持っていたことを思い出す。これは、やはり――重力制御が行われていると見て間違いないだろう。

 ポストカリプス前文明で、人は4つの力のうち3つまでに服従を強いることに成功した。常温核融合炉、常温超伝導、テレポテーション等の技術はその賜物だ。だが最後の壁、重力だけは頑迷に人の軍門に降るを良しとしなかった。そのはずだ。

 俺は周囲を見渡す。奇妙に歪んだ景色を。重力制御によって空間に偏在するダークマターを超圧縮し、それを触媒にしてさらにダークエネルギーを呼び込んで燃料とする4ストローク単気筒二段階重力エンジン。ポストカリプス前のデータライブラリでも仮説として概要だけが載っていたオーバーテクノロジー。

 一体何者なのだ、こいつらは。

 トリスメギストスはあっさりとスタンプコレクターの背後をとることに成功、両腕を弓のように後ろに引き絞る――その指先が陽炎のように揺らめいているのはダークエネルギーがそこに集中しているからだ。

伯爵カウント級なんて」

 弓が――放たれる。

「もう食い飽きてるんだよね」

 トリスメギストスの両腕はスタンプコレクターの胴体を貫通し、一息に左右に切り裂いた。

 SPLAAAAAAAAASH!!!!

 バラバラに飛び散った肉片や危険な粘液は空中で即座に陽炎に食われて消滅していく。怪物は断末魔すらあげることが能わず、完全に、無欠に、消失した。

 ナノアイカメラが録画を停止する。録画時間は、1.98秒だった。

 戦闘の砂埃が収まってきた。同時に、歪んでいた景色や揺らめく陽炎も徐々に通常の状態へと戻ってゆく。復元時に発生した重力波が水面の波紋の様に空間を流れ、俺は軽い眩暈を覚えた。

 バシュッという圧縮空気音と共にトリスメギストスのコックピットのキャノピーが開放され、8メートルの高みから、患者服の裾をはためかせながらナツキが何の苦もなく地面に三点着地する。

 そのこめかみに、俺はシグサガワーを突きつけた。

「……命を助けてあげたのに、これは酷くないかな少年?」

 ナツキはさして動揺するわけでもなくパッパッと砂埃を払いながら立ち上がった。俺は肩を竦めて答える。

「こんな銃でお前を殺せるとは思っていないし、よしんば殺せたとしてもそのあとそこのデカブツに殺されるだろうというのは理解しているぞ」

『デカブツではなく個体識別コードはトリスメギストスです、少年。よければトライとお呼びください』

 穏やかな男性の声が降ってきた。トリスメギストス――トライがモノアイとセンサーが並ぶ顔をこちらに向けている。先程から俺の頭の中では被照準警報が鳴り響いていた。トライからだ。

 俺が銃を抜いた瞬間、いや抜くと〝決めた〟瞬間からトライが俺に向けて電磁波による狙いをつけていた。神経パルスを読み取られている? それくらいの芸当は可能だろう。そしてそれだけのことを出来る奴が隠蔽もせずにこちらに狙いを合わせる理由は警告のためだ。それでも俺はナツキに向けた銃を下ろさない。

「まあつまりこれは、分かりやすい俺の態度だと思って欲しい。命を助けてくれたことには感謝しているが、正体の分かってるバケモノより正体不明のお前たちの方が俺は恐いって訳だ。配達員サガワーとしちゃ情けねえがな」

 感情制御モジュールの働きで銃を持つ手は震えていない。俺は精一杯タフな配達員を気取りながら言葉を続けた。

「まだ俺の最初の質問に答えてもらってないよな? もう名前は知ってるが、改めて問わせてもらうぜ、ナツキさんとやら。『お前は、誰だ』」

 ナツキは面白そうな顔で銃口と俺の顔を見比べる。

「うーんそういえば場所を教えてもらったのに、自己紹介がまだだったね」

 ナツキはおもむろに姿勢を正すと、ビシっと敬礼をした。

「自分は郵政大臣直属、カンポ騎士団の郵聖騎士ポスタル・ナイツカネヤ・ナツキであります。あ、ちなみに郵聖騎士ってのは通常の部隊の階級に換算すれば少佐ね。で、こっちの大きいのがトリスメギストス。通称トライ。私の相棒? 半身? 兄? そんな感じのやつ」

『正確な表現を用いるならば、同じ概念住所を利用する半共生体です。当機体が配送機プレリュード、ナツキが配達員ポストリュードと呼称されます』

 説明されても分からないのだが。

「で、少年。君の名前は? サガワー? ってことはこの時代にもまだ佐川救世軍サガワネーションアーミーは存在するのかな?」

 俺はその名が出てきたことに驚いた。佐川救世軍とはポストカリプス前文明に存在した民間軍事会社であったが、郵政省が国内の通信リソースを専ら軍事利用に割り振ってからは空いたニッチを埋めるように民間向け郵便事業にも手を出し巨大コングロマリット化した。

 配達員サガワーとは佐川救世軍にあやかって呼ばれだしたものだが、長い年月のうちにほとんどの人はそのことを忘れ去っていた。つまり、こいつらは本当に1200四半期――300年も昔のやつらなのだ。

「いいや、佐川はとっくの昔に消滅したよ。俺の名前はヤマトだ。そして少年じゃない」

「いやいや君未成年でしょ? 17歳って測定結果が言ってるもん」

 どうやって測ったのかは知らないが年齢は合っていた。合っているのになおも未成年扱いとは――300年前と現代で成年の定義が違うことを俺は思い出した。ポスト・ポストカリプス世界では14歳に達すると成人と看做され集団養育所から追い出される。俺の場合は事情が特殊で、10歳の頃に元いた場所を飛び出したのだが。

 面倒を見てくれる『親』なる存在はいない。リスクの高い出産という行為を人類が捨ててから既に200年以上が経つ。

「……とにかく少年呼びはやめろ」

「分かったよ、ヤマトくん」

「くん付けもいらない」

「分かったよ、ヤマトくん」

「……」

 このアマ……。思わず引き金を引きそうになるが、それに合わせたかのように――いや合わせたのだろう――トライが僅かにキュイっとモノアイを絞ったので踏みとどまる。ナツキはそれを見てとても良い笑顔になった。大した性格だ。なろうと思わないとなれるものではない。

「さて――お互い自己紹介も済ませたし、もうこの銃は退けて貰っても構わないかな? それともこれがこの時代の作法なわけ?」

「いいや、まだ一つだけ質問がある。何故、青ポストに入っていた?」

 青ポスト――かつての戦略輸送に使われた基幹ノード。今では世界中どこに行っても存在するポストだが、青ポストだけは別だ。自己複製の際に中身まで増えるのはどうしても取り除けないバグだったが、都合が良かったのでそのまま実装された。だが機密がたっぷり含まれる物資が際限なく増えられても困る――そう判断したかつての郵政省は最も重要で破壊されては困るはずの青ポストに、自己複製機能をつけなかった。代わりに破壊された場合、同郵便番号を用いているエリア内に存在するポストが青ポストとして〝目覚める〟。機能を丸々引き継ぐのだ。

 そこまでして護られていた青ポスト、その中身。確かにテレポテーション網が作られた時代には存在しないはずの部隊や技術は、隠匿すべき機密の塊だろう。だが何故その大事な荷物があの文明を終わらせた厄災、『大郵嘯ポスタンピード』の最中、まさにカオスの海へと沈み込みつつあるポストの中に仕舞われていたのか。サルベージするにしろデリートするにしろ、放置という選択肢はまずないだろう。

「うーん。結構痛いところをついてくるね」

 ナツキは白い長髪の先端をいじりながらトライを振り仰いだ。

『当機体には封緘情報を開封する権限は付与されておりません』

「だよねー」

 ナツキはうーんうーんと髪をぐしゃぐしゃにして悩んでいたが、やがてパッと顔を上げてこう言った。

「銃を下ろして、ヤマトくんの秘密を一個教えてくれたら、教えてあげる」

 ウム、としかつめらしくうなずくナツキ。俺は損益分岐点計算モジュールを走らせ、素直に銃を下ろした。トリガーからも指を離す。

「あれ、素直だね!」

「これでも商談は得意なんでな」

 配達員は商人でもある。配達し、取引し、回収する。戦闘なんて、仕事全体からしたらオマケのようなものだ。

「ヤマトくんに最初に出会えて良かったよ。起きたら酷い世界になってたらどうしようかってそれだけが心配だったんだ。ヤマトくんみたいな人がいるなら、そう悪い世界じゃないって安心できた」

 ナツキは、真顔で、そう言った。立ち上げっぱなしだった損益分岐点計算モジュールが今の発言がどう相手を利するのかを即座に算出しにかかるが、野暮なタスクはキルしておく。

「……結構酷い世界だがな」

 俺はなぜだかナツキの顔をまともに見れずに、視線を逸らしながらそれだけ言い……眉根を寄せた。土煙。ナノアイカメラが望遠モードに自動で切り替わり、映像が即座に脅威ライブラリと照合され、紅いマーカーが灯った。

『良い雰囲気のところ申し訳ございません。ナツキ、ヤマト様。敵性勢力の接近を感知しました。敵性と判断した基準を述べますか?』

「プロトコル省略。第二次戦闘待機モードへ移行。以降、配達員への確認なく自律判断で防衛行動を取って」

『第二次戦闘待機モードへ移行。自律判断レベルを5まで引き上げました』

 もはや拡大せずともはっきり見えてきた。土煙を上げながら爆走してくる、巨大戦車型ドーザー。ドーザーブレード部分には凶悪なる鋼鉄棘付き回転破砕機も取り付けられており、火花を散らしながら行く手にあるポストを次々と飲み込み驀進してくる! 車体に何箇所にも取り付けられた排気パイプが一斉に火炎を放射し空を焼き焦がした!

 あれは――撤去人ユウパッカーの戦車型配達アナイアレイトシステム車、通称『ハイエース』だ!

 撤去人ユウパッカー! このポスト・ポストカリプス世界において最大の武装を持ち最大の勢力を誇る、対自己増殖郵便ポスト強硬派の超国家組織APOLLONが抱える暴力装置!

 APOLLONとは全世界的郵便ポスト完全抹消を是とするユニオンであり、その為ならば手段を問わないのだ! そしてその尖兵たる撤去人は日夜ハイエースを乗り回し人々の糧となるポストを破壊して回る! もちろんポストは破壊してもすぐに生えてくるので、奴らがやっていることはただの迷惑行為に過ぎない!

 そしてポストの中身を生活の活計にしている配達員とは犬猿の仲なのは言うまでもないことだろう!

「色んな人がいるんだね、この世界は」

「酷い世界だろう?」

 俺とナツキが苦笑いを交わしながら会話しているうちに、連続ドリフトを決めてハイエースがトライから50メートルほどの距離をおいて止まった。

「そこの男女と胡乱巨大建造物に告げる! 武器を捨てて投降せよ! 当地区はAPOLLONの重点浄化区画である!」

 ハイエースのハッチが開き、中から拡声器を持ったモヒカンヘアーの撤去人が姿を現しがなり立てた。トゲ付きの鼻ピアス、トゲ付きの耳ピアス、トゲ付きの指輪、トゲ付きのボディーアーマーという標準的撤去人の制服姿だ。

「トライ、胡乱建造物だって」

 ナツキが何故かツボに入ってけらけらと笑った。

「お、女~ッ!! 乳がデカイからといって愚弄は許さんぞ~!!!」

 こめかみに青筋を立てて撤去人が口角泡を飛ばす。極悪棘付き回転破砕機が威圧するかのように回転し、排気パイプが炎を吹き上げた。ついでに撤去人がスイッチを押し、拡声器からも火炎放射する。ゴウ! ゴゴウ!

「あいつらは撤去人と言って、まあ見ての通りアホの集団だ」

 俺はナツキに説明してやった。

「うーんまあ、おもしろそうだけど今はヤマトくんとお話してるし、おかえり願おうかな」

 ナツキがそう言った、その瞬間のことだった。


 ――ZGOOOM!


 ハイエースが。潰れていた。

 戦車があそこまで平たくなれるものなのか。ほぼ二次元と言って差し支えない。そのくせ地面は1ミリも凹んでいない。ありえない。現実味がまるでない。赤い血飛沫と黒い燃料がこちらの足元にまで飛んできており、砂に吸われて丸い塊を作る。それだけは確かな現実感をもってぬらぬらと生々しく光っていた。

「――え」

 その声を漏らしたのは、俺ではなくナツキだった。俺は声も上げられずただ畏怖していた。元ハイエースだったものの上空20メートルに突如現れたものを見て。

 それは、

 10メートルを超える、

 超巨大スーパーカブ。

 トライとは別の、もう一機の青いアルティメットカブが、音も無く空中に静止し、ただ緑色のエネルギーラインを静かに脈動明滅させていた……。

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