*** 4/5
1/1
目が覚めるとぼくは病院にいた。
一瞬ミドリを探したけれど、彼女がここにいるわけがない。ここは、現実だ。前に入院していたのと同じ病室かどうかはわからなかったけれど、似たような病室だった。時計は午後二時を指していて、文字盤上のカレンダーは一月二十日を表示していた。
もし物語のお終いがこの病院のシーンで終わったら、この物語の読者たるぼくは、「今までの全てが精神を病んで入院していたぼくの妄想だったのだ、本当のぼくはただずっと夢を見ていたのだ」という結論を受け入れたままこの本を閉じるだろう。そうしたら、ミドリや虚空やレコード・プレイヤーや砂になった工場長が全てぼくの単なる妄想だったということになってしまうのだ。
……「妄想だったということになってしまうのだ」?
何を言っているんだろう。あれはそもそも妄想じゃないか。ミドリや虚空やレコード・プレイヤーや砂になった工場長やセレナや土人形や落ちた月なんてのも、全部、全部、ぼくの妄想じゃないか。
今ぼくのいるここが現実。妄想なんてどうでもいい。
「今ぼくのいるここが現実。妄想なんてどうでもいい」
そう、口に出して笑ってみた。
何が面白いのか、ぼくには今ひとつ解らなかった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録(無料)
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます