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ぼくは自分のアパートで仰向けに寝転がっていた。長い夢を見ていたらしい。前にも見た嫌な夢だったけれど、前に見た時よりは楽しい夢だった。
前にこの夢を見た時は、隣にミドリがいてくれた。ぼくはミドリの姿を探したけれど、部屋の中にはいないようだった。
「ミドリを知らない?」
ぼくはレコード・プレイヤーに尋ねた。けれどレコード・プレイヤーは、もう壊れて埋めてしまったのだった。
「この部屋には、君しかいないよ」
虚空が答えた。
「そう、参ったな」
そこでぼくは口を噤み、咽喉まで出た言葉を飲み込む。「久しぶりだね」という言葉を、そして戦慄し、惑い、息を吐き、吸い、笑み、小首を傾げる。なんだか妙に、ミドリに会いたくてたまらない。
ぼくはミドリを探しに外へ出た。外は暗い。夜だ。セレナはぼくを見つけると、一つ欠伸をしてヘッドライトを明滅させた。
「ミドリを知らない?」
ぼくは曖昧な記憶を手繰った。ぼくとミドリはセレナの上で星を見ていて、そのままぼくは眠ってしまったのだった。けれど今は、セレナの上にミドリが乗っている様子は無い。
「ミドリのところへ連れて行って」
セレナの開いた運転席に滑り込み、キーを回して、アクセルを踏む。ハンドルもギアも、セレナに任せておけば何も問題ない。ぼくとセレナは、あの晩に星を見た「新しかった場所」へ向かう。
「いい空だね」
虚空はぼくの舌の上からそう言った。
「それ以上に、よくない空だ」
ぼくの奥歯の隙間から、そうも言った。
ぼくは虚空に尋ねたいことがたくさんあった。今まで何処にいっていたのか。何をしていたのか。どうして戻ってきたのか、違う、そうじゃない、どうして戻ってくることができるのか。けれど、親愛ならぬぼく自身へ、好奇心は猫を殺すとの伝言だ。
ぼくは久々に会えた懐かしい友人と、セレナとの三人で、ずっと、ずっと、天気の話をしていた。
これほど天気の話をしたかったことはない。
ただ、夜空があまり暗くて、雲の話をすることができなかったから、天気の話はすぐに尽きてしまった。それからしばらくは、何の話もしないゲームをしながら、ドライヴを続けた。虚空はセレナの車内をいっぱいに埋めて、窓ガラスの隙間から溢れ出ていた。
しばらく走ると、セレナが急ブレーキをかける。その途端、ぴたりとセレナが停止する。ぼくらも止まる。ぼくらはあの「新しかった場所」に辿り着いていた。ぼくはセレナを降りて走り出す。
ミドリが、星の光を反射しながら、寝転がっていた。
ぼくはなんだか泣きだした。
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参考:日産セレナ画像検索
https://www.google.com/search?q=nissan+serena+azurite+blue&tbm=isch
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