閉店した駄菓子屋。
@yugamori
雨宿り。
雨は嫌いだ。いつも憂鬱な気分になる。土砂降りのなか、閉店した駄菓子屋の前で雨宿りをして1時間ほどが経った。小学校の頃はほとんど毎日のように通っていた店だ。中学に上がってからは、たまに前を通り過ぎるだけになっていた店。その店がいつの間にか店じまいしていた。それに気づいてから、妙にさみしい気持ちになって前を通り過ぎるだけだった。
学校からの帰り道、とつぜんの雨に襲われたらこの店の近くだった。走って帰れば雨に打たれながらも、大した時間はかからずに家に着く。けれど、どうしてかこの店で雨宿りをしたくなった。雨が止むまでの間だけ。そう思っていると、むしろ雨は強くなる一方だった。それならそれで、ここにしばらくいるのもいい。そんなことを思っていた。
「なにしてんのんなとこで」
ぼーっと考えに浸っていると、聞き覚えのある声で我に返った。同じクラスのユウダイだった。
「なつかしくない? ここ」
ユウダイも小学校の頃、毎日といっていいくらいここに通っていたグループの一人だった。ユウダイの家は、この駄菓子屋を通った先にある住宅地にある。ここを通るのは当然だった。
「小学校の頃の記憶ほぼここってくらい来てたもんな。閉店したときはけっこう辛かったわ。もう半年以上前か」
「バアちゃんの体調が悪くなったって?」
「みたいだぜ。別に命がどうとかってわけじゃないらしいけど、もう俺らがガキん頃でけっこうな年だったしな」
店が閉じてから人づてに聞いた話だ。駄菓子屋のバアちゃんが体調を悪くして、娘夫婦の家で療養したらしい。俺たちを自分の子供のように可愛がってくれていたから、心配はした。けれど、中学に上がってからは顔すら出さないようになっていた。自分が冷たい人間のような感じがして、そのときはすごく嫌な気分になった。
「あんだけ顔だしてたのに、中学になったらまったくこなくなったよな」
「まあ、小学校の頃の憩いの場だったしな。中学になってまで通わねえだろ」
「けどなんか、あんなに世話になってたバアちゃんのとこに一切顔出さなくなって、店閉まってから体調崩したって聞くと、なんかな……」
「そう思うなら見舞いの一つでも行きゃいいじゃねえか。家そんなに遠くねえし」
「なんかそれも……」
「んだよどうしてえんだよ。俺は行ったことあんぜ」
「マジかよ」
「おまえと同じような気持ちになったしな。前通ってもいっつも素通りだったし。けど店閉まって驚いてバアちゃんのこと知って、行った」
「……誘ってくりゃよかったのに」
「俺が行きたいから行ったんだよ。行きたきゃおまえも行きゃいいだけだろ。こんなとこでわざわざ雨宿りしてるくらいなんだからその気持ちに素直になりゃいいだろうが」
言われてみてそうだった。なんでわざわざここにいるのか。さみしい気持ちになったのか。その気持ちをただ残しておくだけなのは、それこそ違う気がした。
「……家教えてくれよ」
つぶやくように言うと、ユウダイはにやっと笑った。バアちゃんはまず間違いなく俺のことを覚えているだろう。毎日通っていただけじゃない。バアちゃんはそういう人だったから。
雨音はさっきよりも増して駄菓子屋の屋根を強く叩いていた。けれどさっきまでの寂しさはなくなっていた。雨の日はどこか憂鬱になるはずなのに。
閉店した駄菓子屋。 @yugamori
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