第13話

 ネメシスを投薬した瞬間、激しい痛みが全身を走る。全神経を、針で突かれているような痛みに、叫び声をあげる事すら出来ない。頭は、脳をかき回されているようで吐き気がする。

 無謀な賭けは失敗に終わったようだ――と、諦めかけた時、失くなったはずの右腕の切り口が、熱を持っているように熱くなる。

 次の瞬間、右腕が生えてきた。


「な、何なんだこれは?」


 思わず声が出てしまったが、全身を走っていた痛みと吐き気は収まっていた。

 生えた右腕は、結晶のような硬質の骨格で覆われていて、それはブリード達が持つ外骨格に似ていた。どんな弾丸も、弾いてしまいそうな強度なら、身体に刺さっている鎌も対処出来そうだ。

 右腕を振り回し、鎌を砕きながら体勢を立て直す。


 作戦は成功し、ギガースの腕を鎌ごと切断すると、地面に着地すると同時に、体勢を立て直す。右腕からは混合血液が絶えず注入出来るようで、再生する事はなかった。


「大丈夫か、上薙少尉」

「ああ、何が起きてるかわからないが、どうやら右腕が一瞬にして生えたようだ。しかし、肝心の武器がない」


 先ほど、刀は折れてしまっている。確かに、鎌の腕は破壊したのだが、八本の足は健在しているので、驚異的な機動力は確保されたままだった。しかも、俺を警戒しているようで、一定の距離を保ったまま、仕掛けようとしない。

 このまま長期戦になれば、明らかにこちらが不利だ。


「それなら、これを使え!」


 市ヶ谷中尉は、自分の持っていた刀を投げた。市ヶ谷中尉の武器は特別製の刀で、刃渡りが普通の刀の二倍はある長刀。使い勝手は悪いが、剣術を極めた市ヶ谷中尉には、扱いやすいようだ。

 それでも、武器を持っていない俺としてはありがたい。


「遠慮なく使わせてもらうぜ!」

「その刀は私の分身みたいなものだ。必ず勝って返してくれ」

「へへ。言われなくても、そのつもりだ」


 右腕で刀を持つと、不思議な事が起こった。腕から結晶が伸び、刀を覆ってしまった。まるで、右腕が意思を持っているようで、刀のすべてを覆い尽くすと、右腕と一体化してしまった。


「な、何だこれは? 中尉、俺に何が起こっている?」

「わ、わからない。私も、こんな現象は聞いていない!」


 刀全体が結晶に覆われると、結晶にヒビが入り割れた。すると、刃の部分が結晶でコーティングされ、それ以外の部分は外骨格を纏った姿へと変貌していた。見た目には、より強力な刀へと変化したように見えた。

 これなら――と、バーニアで一気に間合いを詰め攻撃する。低空からの攻撃は、ギガースの死角となったようで、八本の足はすべてを一撃で仕留める事が出来た。そのまま、上空へと飛び上がり、下降しながら頭部に狙いを定める。


「これで終わりだ!!」


 剣先がギガースの頭部を捉え、そのまま突き刺すと、混合血液の効果もあり沈黙した。


「やったな上薙少尉! すべてのギガースを撃破したな!」


 歓喜をあげる市ヶ谷中尉。何とかギガースを倒す事は出来たが、それよりも今起きた現象の方に、意識がいってしまう。


 一体、これは何か起こってのか。そして、ネメシスとは一体何なのか――。

 そんな事ばかり、考えていた。

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