第4話
「
「う……うーん。もう、休憩は終わりか」
午前中の訓練を終え、昼食後の休憩時間。天気の良い日は、この木の下で寝るのが日課となっていた。アメリカ軍では、こんな事をしていたら、すぐに揶揄されるところだが、日本帝國軍ではそんな心配はなかった。
それに、海が近いためなのか、潮風が気持ちよくて、俺はよくこの木の下で昼寝をしていた。
「もう、こんな時間か」
「はい。それと、午後の訓練は中止にありました」
「中止?」
「はい。それと、如月大尉から第三作戦室に集合するように――との事です」
午後の訓練がなくなるのはありがたいが、作戦室に集合とは作戦命令がおりたのかなだろうか。
日本帝國軍に入隊して、一ヶ月が過ぎていた。主に、哨戒任務と訓練の繰り返しで、戦闘らしい戦闘に参加する事はなかった。
これまで、常に最前線にいた俺にとっては、平和すぎて平和ボケしていた。
いよいよ、最前線へと派遣さらるのだろうか。
「わかった。第三作戦室に行くか」
「はい。行きましょう」
第七特殊部隊一人懐っこい性格で、気弱なところがあり、軍人ぽくない。ほとんど実戦経験がないらしく、訓練にチームを組んだ際に、助けたのをきっかけに、最近やたらとなついてくる。
俺には妹がいないから、もしいたのなら、きっとこんな感じなんだろうと思う。
コンコンっ。
「入れ!」
「失礼します!」
部屋の中には、すでに部隊の全員がいた。どうやら、俺たちで最後のようだ。
「空いてる席に座れ」
「は!」
前に、部隊長である如月大尉が立ち、向かい合うようにして、部隊の面々が。それと、如月大尉の横には基地の副指令と、国連軍の軍服を着た人物。
単なる作戦で、副指令が同席する事はまずない。ましてや、国連軍もいるとなると穏やかではない。
作戦室内は、異常な空気が漂っていた。
「時間になったので、ブリーティングを始める」
緊張した空気のまま、如月大尉が音頭をとって始める。
「最初に、こちらにいらっしゃるのは、国連軍パルマ・ノマッド大尉である。一同起立! 敬礼!」
「ああ、楽にしてくれ。俺も堅苦しいのは苦手なんでね」
軍人にしては、ずいぶんと軽い感じだった。日本帝國軍も、アメリカ軍も規律に厳しい印象だったので、少し拍子抜けした。
コホンっと咳をして、如月大尉は話を続ける。
「今日、諸君らに集まってもらったのは、第七特殊部隊の今後の作戦についてだ」
今後の作戦。
国連軍の軍人がいるくらいだから、国連軍絡りの作戦なのだろう。
「第七特殊部隊は、現時刻をもって国連軍に出向となった」
「……!」
部隊のみんなは、一応に驚いた表情をしていた。
しかし、日本帝國軍人である俺たちが、なぜ国連軍に出向するのだろうか。
その理由が気になる。
「我々の任務は、日本独自の新兵器の開発と運用試験だが、日本国内での運用試験はほとんど終了している。そこで、今後は実戦での運用試験の為、国連軍への出向となった」
日本は、ブリードの占領から逃れている数少ない国である。来栖が実戦経験が少ないのも、それが理由である。
その為、日本国内で実戦による運用試験はほぼできないのであった。
「如月大尉。発言をよろしいでしょうか?」
「許可する。なんだ、上薙少尉」
「は! その兵器開発と運用試験ですが、現在部隊での運用試験中の兵器はありませんが、それは新兵器でありますか?」
「確かに、この部隊で試験中の兵器はない。しかし、第六特殊部隊で運用試験中だった兵器を、こちらで実戦試験を引き継ぐ事になった」
第六特殊部隊で運用試験中の兵器。
率直な疑問があるので、聞くことにした。
「如月大尉。それなら、第六特殊部隊が実戦試験をすればいいのではないですか? なぜ、第七特殊部隊なのですか?」
「それについては、私から説明しよう」
それまで沈黙していた、副指令が口を開く。
「もともと、こちらの兵器は第七特殊部隊で運用試験をする予定だった。しかし、カナダへの派遣などで、国内での運用試験を第六特殊部隊に任せていた。しかし、開発リーダーである如月大尉の出向が決まっている以上、実戦試験は第七特殊部隊で行う事に決定した。それと、出向については一時的な処置であり、諸君らが無事に期間する事を願っている」
開発リーダー。
如月大尉は技術大尉だったのか?
確かに、実戦試験ともなれば、現地での改修や整備など開発に携わった者がいた方が効率が良い。
「理由はわかりました。ありがとうございます」
「それとね。国連軍は多国籍だから、色々な国の兵器に関するデータも豊富だ。もちろん技術提供はさせてもらうつもりだから、日本にとってもメリットはあると思うよのだが……」
「……とにかく、これは命令だ。いいな諸君!」
「はい!」
続いて、如月大尉より目的地と所属部隊が発表された。場所は、スウェーデン国連軍基地。国連軍第八六試験部隊所属になる事が告げられた。ブリード最初の出現地であるロシアとも近いスウェーデンなら、実戦試験も運用しやすい。
「――以上だ。それでは、出発時間二○○○まで自由行動とする。時間なったら第二飛行場に集合するように。以上、解散!」
「は!」
「諸君らの健闘を期待する」
こうして、俺は日本を離れ国連軍所属となった。ここ一ヶ月で、アメリカ、カナダ、日本、そしてスウェーデンと一気に四ヶ国も移動するとは……。
俺が生まれる前、まだブリードが現れる前には、旅行なんて文化があったと聞いた事があるが、軍事目的なのでそんな楽しいものとは別のものか。
それにしても、俺は日本に帰ってくる事ができるのだろうか?
そんな事を考えながら、自室へと向かった。
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