第3話
二一十二年。
奴らは突然現れた。
ロシアにて最初の一体が確認された。その十分後、地表から無数に現れる奴らに対して、ロシア軍が応戦するが、その二時間後、ロシアから一つの街が壊滅してしまった。
奴らには、これまでの兵器が全く効かない。外装を覆う硬い甲羅のような物は、どんな銃弾をも跳ね返し、素早い動きを活かした機動力は、戦車はすぐに囲まれてしまい、役に立たなかった。しかし、それよりも恐ろしいのは、高い再生能力でどんな傷でも瞬時に再生してしまうのであった。
しかし、人類に対抗する手段が何もないわけではなかった。奴らは、地上戦においては無敵と言ってもよかったが、制空権は人類のものだった。航空機による絨毯爆撃が有効で、ロシア軍は街を失う代わりに、勝利するのだった。
しかし、その勝利も長くは続かなかった。近接戦闘が主だったはずの奴らの中から、対空防御を専門とする個体が現れた。その砲撃精度は、人類の技術を越える代物で、航空機を無力化しその結果、人類は制空権での優位制を失い、奴らに対しての有効な手段を失う。
その後、アメリカ、中国、フランスでも奴らは出現し、各国は奴らとの戦争状態に突入する。
高い防御力と高機動性、再生能力と自己進化。まさに、無敵となった奴ら。しかし、人類が奴らに対して何もしなかったわけではなかった。
二一十四年。
アメリカの科学者チームが、奴らの生態を調査したレポートを発表する。そのレポートは、人類にとっての希望となるのだった。
またこの時より、奴らをブリードと呼称するようになる。
まず第一に、奴らには脳と呼ばれる物が存在しなかった。そればかりか、臓器と呼ばれる物もあるのだが、ほとんど機能しておらず、何の為あるのか疑問視されている。また、ほとんど種類に口があるのだが、言語など他の個体とのコミュニケーションをとる事もないとの発表だった。
戦闘中に、叫び声をあげるのだが、それもなぜあげているのかも不明だった。
これは、ブリードとの交渉やコミュニケーションはできない事を意味していた。
そして第二に、どのように個体を増やしているのかも不明だった。そもそも、生殖器が存在せず、アメーバーのように分裂し、増殖するのだと考えられていたが、細胞の再生は確認されているが、増殖する事はないと、研究結果が明らかになっている。
ブリードがあれだけの物量を確保してるのは、どこかに奴らの巣があり、女王蜂のような個体が存在すると推測される。
これだけだと、判明していない事ばかりで、このレポートのどこが人類にとっての希望なのかと疑問視されるが、それは第三の発見によるものだった。
ブリードの体内には、赤い血液のような物が流れていて、その血液に人間の血を混ぜ合わせる事で、再生能力を無効化する事が、実験の結果から判明した。
しかし、問題もあった。混合した血液は、すぐにその効果を失ってしまう為、事前に混合した血液を用意する事はできなかった。
それでも、対抗手段のなかった人類にとっては唯一と呼べる武器であり、人の血液を必要とする以上、これまでの中遠距離での戦闘から、近接戦闘が戦闘の主軸となる為、兵器開発は大きく方向転換することになる。
最初に開発されたのは、人間の血液とブリードの血液を混ぜる為のユニット機関。通称、BMユニットと呼ばれ、手甲のような見た目をしている。カプセル型のブリードの血液を取り付け、手甲の内部にある針から血液を抜き取り、二つの血液を混ぜ、武器となる血液を作り出す。
その混合液を、手に持っている武器へと流す事により、ブリードの体内へと攻撃と同時に注入する。
これにより、人類はついにブリードに対抗する兵器を手に入れた。
そして、二一三六年。
ブリードとの戦争が始まってから、実に二十数年の月日が流れたが、地表の三文の一を人類は失ったままだった。
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