第2話

 「う……う。…………こ、ここは?」


 目覚めると、真っ白い天井が広がっていた。消毒液の独特の匂いから、病院であることはわかったが、最後に覚えている事は敵に突っ込んで行った事だ。


 「……い、痛!」


 負傷したはずの左肩を手をやると、ガーゼで覆われていて、記憶していた事と一致した。

 やはり、俺は敵の中に突撃したようだ。


 しかし、あの戦力差で俺は生き延びれたのか?


 この現実を飲み込めていない俺に、話しかける声がした。


 「どうやら、気がついたようだな」

 「あ、あなたは……」


 軍服を着た女性が二人。

 確かこの軍服は。


 「ほう、日本語がわかるようだな」

 「え? た、確かに。何でわかるんだろう?」

 「まあ、いいじゃない。こっちも英語で話さなくてすむし」


 軍服を着た二人の女性。

 会話の感じと雰囲気から、二人は性格が正反対なのはすぐに理解できた。


 一人は、いかにも軍人ぽく、規律正しく凛とした強さを感じる。

 もう一人は、人懐っこい明るく軍人らしくない女性。


 どうやら、俺は日本帝國軍に助けられたようだ。


 「あ、あの……こ、ここは?」

 「ここは、日本帝國軍横浜基地だ」

 「え! 横浜基地? それって……」

 「そうだよ。ここは日本だよ」

 「……」

 

 日本だと。俺が参加していた作戦はカナダだったはずだ。国連の要請で、他国からも参加していると聞いていたが、まさか日本まで運ばれたのか?


 状況を把握できない俺に、凛とした軍人の女性が話しかける。


 「自己紹介がまだだったな。私は日本帝國陸軍第七特殊部隊所属、如月芽依きさらぎめい大尉」

 「私は、水無月紗希みなつきさき中尉」

 「じ、自分は――」

 「元アメリカ陸軍、第三六部隊所属シン・ラインセル准尉よね」

 「はい。……も、元?」

 「そうそう、悪いんだけれど、君はこの前の作戦で戦死した事になっているから」

 「…………え?」


 戦死。

 どういう事だ。俺はこうして生きているのに、何で戦死した事になっているんだ。それに、カナダにいたはずなのに、なぜ日本なんかにいるんだ。


 何だか、キナ臭い雰囲気を感じる。

 どうやら、俺は何かの陰謀に巻き込まれたようだ。


 「説明が必要なようだな」

 「は、はい。お願いします」

 「准尉は、先の作戦で敵前逃亡の末、戦死した事になっている」

 「え……」


 驚いている俺を気にもせず、表情を変えずに如月大尉は説明をつづける。


 「しかし、実際には我々日本帝國軍が保護した」

 「つまりは、シン准尉はアメリカに帰っても、待っているのは死刑――って事」

 「な、なんだって?」


 何を言っているんだ。

 俺はこうして生きている。確かに敵前逃亡したが、それは仕方ない事だ。あれだけの大群を目の前にすれば、当然の結果と言える。

 それに、あの時は興奮薬も切れてしまった事だし……。


 「お、俺はアメリカに帰ります。あの時は、仕方なかったんです。大群に対して自分一人だったし、それに興奮剤も切れてしまって――」

 「甘いな。すでに処理されている件を、わざわざ軍法会議にかけると本気で思っているのか? ましてや、将校でもない准尉の話になど聞く耳を持つと思うのか?」 

 「…………」


 確かにそうだ。

 ましてや、外人部隊である俺の話など聞きもせず、すぐに銃殺刑だろう。


 途方に暮れる俺に、如月大尉はある提案をする。


 「帰る事もできず、帰っても待っているのは死刑である准尉に提案なのだが、このまま日本帝國軍に入隊するのはどうだろうか?」

 「え?……それって」

 「つまり、第七特殊部隊に入らないってこと?」

 「国籍の事なら心配しなくていい。すでに准尉の国籍なら、こちらで用意してある」

 「悪い話じゃないと思うんだけれど……」

 「……」


 どういう事だ。

 俺なんかを、日本帝國軍が受け入れてくれるのか。


 「な、何か裏があるんですか? アメリカ軍の情報を流せとか?」

 「准尉が知っている情報なんぞ、役に立つと思うのか? 正直、我々も人材不足であるのは同じだ。日本も日本帝國と改めて、徴兵制を復活させたが、長引く戦争で兵士の数が不足している。それは、アメリカ軍も同じだろう?」

 「確かにそうです……」 

 「どう、シン准尉は実戦経験もあるんだし、悪い話じゃないでしょう?」

 「……は、はい」


 こうして、俺は日本帝國軍に入る事になった。アメリカに帰れない事も理由だったが、日本帝國軍に入隊すれば、『奴ら』と戦う事ができる。


 もちろん、本音を言えば恐怖心がないわけではないが、それ以上に『奴ら』を倒したい気持ちが勝っていた。


 人類の敵『ブリード』を……。

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