BLEED
一ノ瀬樹一
第1話
真っ赤な血と破裂音。
さっきまで、何気ない会話をしていた仲間の頭は吹き飛び、司令塔をなくした首から下は小刻みに震えているだけだった。
「くそ、これで何人目だ!」
思わず口から出た言葉だったが、その声に答える者はいない。
どちらにせよ、このままでは作戦続行は不可能だ。とっさに通信機に手を伸ばす。
「こちら、シェパード4。CP、応答を!」
「――こ、こちらCP。シェパード4どうしました」
「敵の伏兵と遭遇。第三六部隊は、俺を残して全滅した! これからどうすればいい? 指示を求む」
「――――」
応答がない。
電波状況は悪いが、通信は途切れていないはず。司令部が状況を把握できない程に、緊迫しているのだろう。
無理もない。そもそもが、この作戦自体が無謀としか言い様のない代物だったのだから。敵三千に対して、こちらは僅か三百。単純計算でも十倍はあるのだから、勝てる見込みは最初からないに等しいのだ。
ふと時計を見ると、作戦開始からすでに四時間がたっていた。
「――シェパード4、応答しろ!」
「こちら、シェパード4」
「私は、本作戦の指揮官リアトリート中佐だ」
「!」
驚いた。
それと同時に、なぜ指揮官のリアトリート中佐が直々に通信して来たのかが謎だった。
「こちらシェパード4。第三六部隊は、自分以外死にました。作戦の続行は不可能です。撤退命令を――」
「シェパード4! 本作戦は継続している。第三六部隊はそのまま作戦通り、その場にて陽動を続けろ!」
「し、しかし、部隊は自分一人しか残っていません。隊長も死にました」
「黙れ! 外人部隊である貴様が、この私に意見をするのか!」
外人部隊。
俺の所属している第三六部隊は、外国人で編成された部隊。正式な国籍を持たない俺たちは、軍内で差別され外人部隊なんて呼ばれている。
今回の作戦でも、正面からの突入し、他の部隊への陽動が任務とされている。
要するに捨て駒なのである。
「し、失礼しました」
「そうだ、それでいいのだ。貴様は国ために生きて、国のために戦って死ぬ運命なのだ。引き続き、陽動を続けろ。以上だ」
そう言って、一方的に通信を切られた。
要は、この場で死ねとのご命令のようで、俺の様な人間はそれだけの価値しかないらしい。
死ぬ事は、俺にとっては恐れるに足りないのだが、リアトリートのような奴の為に死ぬ様で、その点は納得できない。
外人部隊などと言われているが、こんな俺にも愛国心はある。生まれた国は違えども、育ってきた国が『こんな奴ら』によって蹂躙されている事実を変えることが出来るのならと、俺は軍に志願した。
まあ、本音を言えば温かい食事と寝床、何よりも永住権が魅力的だった。子供の頃の記憶はあまり覚えてはいないが、この国での国籍を持たない俺にはこの国での行動は大分制限されている。
外国人登録証を常に持ち歩かなければならないし、夜間の外出も禁止されている。何よりも差別の対象であり、生傷の絶えない幼少期だった。
そんな嫌な思い出ばかりだが、それでも俺が育った国であり、『奴ら』に奪われてしまうのは阻止したい。
ああ、こんな事を考えている時点で、まるで死んでしまうフラグを立てているようで嫌だが、さすがにこの戦力差を思えば、腹をくくるしかない。
俺は、首のドックタグにキスをして、敵の前へと飛び出した。
しかし、あまりの大群に、恐れをなした俺は、踵を返すのだった。
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