日記③ 夏の兆し
朝の記憶がない。
私が目を開けると太陽はほぼ真上から見下ろしている。毎日太陽は無慈悲に光り多くの人々を
眠りについた時とはまるで別の場所にあるスマホを片手に洗面所にトボトボ歩く。
脳が覚醒していない状態では千鳥足より足がおぼつかない。
蛇口を捻ると勢いよく清涼が顔を覗かせる。
飲む、洗う、濯ぐことの出来る万能薬である。
人類、いや全ての生命はこれなくして生きることは到底不可能であって、何よりも身近に、何よりも尊重せねばならないものなのである。
私はまずうがいから入る。
寝起きは必ずと言ってもいいほど口の中が干からびている。そのため寝起きの私はオアシスを求めて広範な乾荒原を駆け巡る遊牧民と同値である。
蛇口からとめどなく溢れる液体は、私の乾ききった大地の潤いを取り戻すには十分であった。
脳が次第に覚醒していくのがわかる。
動く、動くぞ。頭が次々と演算を開始する。
次に何をすべきか、今日何をするのか考える。実際にそんなに動けるはずがないのに…。
頭で考える全ての事が出来たらいいのにと思っても人の身体は不自由千万である。
そのため人は常に最適解を考えなければならない。
まぁそんな事できるのは極々一部の天才と愚鈍のみである。
そんな事を考えつつ斜光がささるリビングに戻る。
机には一人分のカレーライスが置かれていた。家族は既に食べ終わって食器が流しに重ねられていた。
そう言えば家族の姿がない。きっと買いもんにでも出かけたのであろう。
我が家では日常なのでそこまで気にすることではない。なんなら家族が誰も居ない方が珍しいので少し大声を出してみたりもする。
冷蔵庫からウーロン茶を取り出す。私は麦茶の方が好きだがウーロン茶の茶葉が多く有るので致し方ない。
ガラスのコップに2個の氷を投下融解の音にも耳をやらず豪快にウーロン茶を注ぐ。
多少こぼれても気にせず溢れる寸前まで注ぐ。今この場で一番偉いのは私。つまり
キンキンに冷えてやがるウーロン茶を一思いに喉に掻き込む。
蒸し暑い室温も相まって本物のオアシスを感じた。温度は正義だ。
コップの中の幸せに今にも酔ってしまいそうになりながらも私は椅子に座って生暖かいカレーを口に運んだ。
ゴロゴロとした野菜が自己主張をしている。
そんな光景に私は夏の兆しを感じた…。
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