第37話 今回だけの特別ショー!


「それで、強力な助っ人って?」


「それは見てからのお楽しみさ」


オオカミさんに連れられて、やってきたのは職員専用の部屋。そこに件の人物がいるようなので、少し期待を込めて扉をゆっくりと開けた


「…あれ?」


しかし、そこには誰もいなかった


「来たか、オオカミ」


「ブラックジャガー、あの人はどこに?」


「緊急の用があると言って何処かに行った。ショーまでに戻ってくるかは分からんな」


どうやら、オオカミさんの言った強力な助っ人という人物の力は借りられなさそうな雰囲気。これもしかして、早速さっき話してもらった案が脆く崩れ去ったのでは?


「問題ないよ。プラン通り私達だけで進めよう」


「…え?プラン通り?」


「ああ。元々、その人の力を借りるのは最終手段なんだ。さっき話したのはあくまでサブプランだよ」


「…それなら、俺はいらないんじゃない?」


「いいや、君はどのパターンでも必ず必要なんだ。それに、君がいないとその人の協力が得られないしね」


俺が協力するということが、その人が協力する条件になってるってこと?それはつまり、俺を目的に動くってことだよな…?怪しさしかないけど、オオカミさんが信頼してるなら少しは信頼していいかもしれない。若干騙された感は否めないがこの際不問にしよう


「せんせー!言われたもの持ってきましたー!」


「ベストタイミングだよキリン、流石は迷探偵だ」


勢いよく入ってきたキリンさんは、両手に大きなバッグを持っていた。探偵であるかどうかは関係なさそうだけど、ミッションは無事にクリアしたらしい


「これで必要なものは揃った。キリン、他の役者は?」


「もうすぐ全員来ます!」


「役者…そういえば練習時間はあるの?」


「フンフフーン♪」


「おいこらオオカミこら」


「でも、君ならやれるだろ?あの時のショーのようにね」


あの時とは、異世界との彼との特別な思い出のショーをした時。アクションとセリフ両方が8割方アドリブだったが、俺達は全てやりきり、会場を大いに盛り上がらせてみせたショーだ。オオカミさんはその実績があるからこそ、こうして俺達に任せたのかもしれない


「…半分くらい、形に出来たらいいなぁ」


こうなったらやるしかない。ペパプの為にもだが、守護けものとしての役目を果たす為にもだ




───




「ママ、パパはどこ?」


「パパは…さっきのセルリアンのことについて話をしているんだ」


「お仕事?パパライブ観れる?」


「大丈夫だとは思うが…もしもの為に、これで撮っておいてあげようか」


「僕が持つよ!バッチリ撮ってあげる!」

「お兄ズルい!私も撮るー!」


「なら、ここを持てば2人で撮れるだろう。どうだ?」


「バッチリ映ってる!ありがとうママ!」

「ママの分まで頑張るね!」


ライブまであと数分、キングコブラはトウヤとシュリをわしゃわしゃ撫でながら、チケットで確保していた特等席で開始時間を待っていた。コウがヒーローショーに出るというのは勿論2人には内緒である


やはり父親がいないと寂しさは込み上げてくるもの。2人の表情にそれが見えたキングコブラは、気を紛らわせる為にミッションを課した。それは、今日のライブを『ラッキービースト型カメラ』で撮るというものだった。1人では少し大きめのカメラでも、2人ならしっかりと固定できている



「みんなー!始めるわよー!」



「あっ!出てきた!」

「始まったー!」



\コンニチハー!/\キャーペパプー!/\ハァ…ハァ…マブシイ…!/



「うんうん、元気な挨拶だね~」

「デッケェ声援ありがとな!」


「トラブルもあったけど、こうしてライブが出来るのも皆のおかげだ!」

「皆さん、本当ありがとうございましたー!」



\コッチコソアリガトー!/\セルリアンガナンボノモンジャーイ!/

\ダメ…トウトイ…シンドイ…!/



そんなこんなで、ついに始まったペパプライブ。プリンセスが挨拶し、フルルとイワビーが満足げに登場しコウテイとジェーンが続く。5人が揃ったことによるオーラと輝きに数人が既に限界を迎えているがいつものことなので特に問題はない



『フーッフッフッフッ!ここが祭典の会場か!テンション上がるなぁ!』


「な、なんだ!?誰だ!?」

「いったいな~に~?」


『誰だ何だと聞かれたら、答えてあげるのが我が礼儀!シャオッ!』



突如優しい世界に響く不穏な声、ステージの上から現れた1人の謎の人物。鬼の仮面を被り、綺麗な着地を決めたそいつは、漆黒のマントを靡かせステージの中央で仁王立ちを決めた



『僕はダークビースト団の意思を受け継ぐ者…その名も「空王怪人グレイザー」!』←ジャイアントペンギン



高らかに笑う悪の怪人、グレイザー。彼女の言うダークビースト団とは、昔コウ達が披露した仮面フレンズショーで生まれた悪の軍団であり、既に滅ぼされている。これはファンの間でも周知の事実であり、普段の悪の組織は別の名であるため、観客席からはざわつきが生まれ始めていた



「ダークビースト団の残党!?そんな奴等がいたなんて!」


『復活の時を虎視眈々と狙っていたのだ。そして今日、その狼煙を上げる!さぁお前達、まずはペパプを捕らえて我等の専属アイドルにするのだ!』



『アイアイサァ!』←ヒョウ

『やったるでー!』←クロヒョウ

『これが、普通の悪なんだね…!』←ルター

『演じてみせましょう、普通の悪を!』←ルビー



舞台袖から出てきたそれぞれ龍、虎、孔雀、亀をモチーフとした仮面を被り、全身真っ黒のスーツを来た4人の手下。若干演技が崩れているがそこはご愛敬、悲鳴が上がる中ペパプへと襲いかかった!



『そうはいかない!』

『我等がさせん!』



響き渡る正義の声と共に、反対側の舞台袖から出てきた2人の人物。キツネの仮面とタヌキの仮面、ズボンとスカート、白と黒。全てが相方と対になるその2人は、ペパプと悪の間に挟まり見事に拉致を阻止してみせた!



『貴様達、一体何者だ!』


「わ、我は『キュリアホワイト』!」←ホワイトタイガー

「私は『キュリアブラック』!」←ブラックジャガー


「「正義の味方、合わせて『2人はプリキュリア』だ!!」」



【脚本変更その①:新しいヒーローの登場】



「なんと!新たなヒーローでしょうか!?なんとも頼もしい方達です!さぁ皆で応援しましょう!頑張れキュリアホワイト!キャリアブラック!」



「頑張れキャリアホワイトー!」

「負けるなキャリアブラックー!」



\イケー!/\ヤッタレー!/\プリキュリアガンバエー!/



ライブのショーはいつもいつでも仮面フレンズの話であり、別のヒーローを出すことはなかった。このようなことはコウが初めてショーを行った時以来であり、本来の予定にもなかったことである。後の展開の為に書き足した内容だが意外にも受けているようだ



『あかんあかんあかん!めっちゃやばいで!?』

『ちょっとは手加減して~なぁ~!?』


「フッ…まだまだ鍛練が足りんぞ!」

「この程度、相手にもならんな!」


『なんて強さだ…!』

『とても敵いませんわ…!』



観客席からの応援が2人に届く。それに答えるように、プリキュリア達の攻撃は激しさを増していく。アクションシーンは9割方アドリブであるため、ヒョウ姉妹は予想外の手痛い攻撃にとんでもなく焦っていた。ルターとルビーは持ち前の演技力と実力で、全く敵わない悪役を演じきっていた



『ぐわー!?』

『やられたー!?』

『ああ、普通までの道が…ここで…』

『やはり一筋縄では…いきませんわね…』


「さぁ、残ったのはお前だけだ」

「観念して、さっさと諦めることだな」


『…くふふ。もしかして君達、もう勝ったと思っているのかい?』



圧倒的な力で手下を瞬殺した退場させたプリキュリア。しかしグレイザーは大胆不敵に笑う。まだ奴は何か残している…そう確信した2人は、一度距離を取り警戒態勢に入ったのだが…



「ぐあっ!?」


「なっ…どうしたホワイト…がぁ!?」



風と共に、何かがステージを駆け巡った!


この場にいる誰にも姿を捕らえられなかったそれは、グレイザーの横に静止した。彼女と同じ鬼の仮面、先の4人と同じ漆黒のスーツ、そして紫のマントを羽織る姿からは、禍々しい雰囲気を大いに感じさせる



「そいつは…一体…!?」


『もう1人いたのさ。僕の忠実なる、そして最強の力を持つ右腕…その名も『レッド・デビル』!』


「なん…だと…!?」



【脚本変更その②:強大な敵の追加】



『さぁいけ!圧倒的な力を見せつけてやれ!』


『オペレーション「制圧」、遂行します』


「そう簡単にはいかな…ぐわっ!?」

「なんだと…速すぎる…!くそっ!」



レッド・デビルのスピードは2人のそれを遥かに凌いでいた。後ろを見れば前から、右を見れば左から攻撃が飛んでくる。2人で背中を合わせて対応しようとしても、脇からの的確な崩しにより意味を成さない。こちらからは指先すら触れることは出来ず、一方的な展開が繰り広げられていた



「ここは耐えるぞホワイト!耐えればきっと来る…!」


『来る?あぁまさか、仮面フレンズを待っているのかい?』


「ああ…彼が来れば我等の勝ちだ…!」



未だ現れない皆のヒーロー、しかし誰もが信じ希望を抱いている。彼は必ず現れ、悪を打ち倒してくれると──



『残念だが、仮面フレンズは来ないよ。何故なら、別のエリアで僕の仲間と戦っているからねぇ!』



──しかし告げられたのは、希望を打ち砕く無慈悲な情報だった



「なっ…なんだと…!?」


『例え勝ったとしても絶対に間に合わないね。だ・か・ら…安心してやられなぁ!』


「「うわああああああ!?」」



決死の防御も意味を成さず、軽々と吹き飛ばされるプリキュリア。場内からは悲鳴が上がり、目を反らしたり覆ったりする人も続出。正直やりすぎかもしれないがここまで来たら最後までやりきるしかないのだ!



『いいねいいねぇ!流石は僕の右腕だ!さあさあクライマックスだ!そのまま止めを刺しちゃいな!』


『了解しました、マスター』


「くうっ…体が動かない…!」

「ここまで…なのか…!?」



レッド・デビルの魔の手が伸びる。疲労困憊の彼女達に逃れる術はなく、終わりの足音はすぐそこまで迫っていた



「仮面フレンズ、スカーレット…?」



しかしそうはいかなかった。トウヤのこの一言が、この状況を大きく変えるのである




━━━━━━━━━━




「今回コウには『怪人レッド・デビル』をやってもらうよ」


「敵役やるの?じゃあ仮面フレンズは誰が?」


「コウだよ」


「…どゆこと?」


「ジャパリパークにはいるじゃないか。もう一人の仮面フレンズがさ」


「…成る程、そういう設定なのね」


「そういうこと。今回のショー、名付けて『復活の仮面フレンズ』の最大の山場さ」


「それはいいんだけど、正体を明かすタイミングは?」


「ふふふ、それなんだけどね──」




━━━━━━━━━━




(まさか、本当に気付くとは…)



オオカミが指定した正体を明かすタイミング、それは『コウの演じる悪役の正体に子ども達が気づく』という一種の賭けの先にあった。レッドとスカーレットの共通点は、髪色と衣装のマントが同じだけ。偶然同じと言われれば話はそれまで、もし気付かなければ適当にバラして終わりであった


しかしトウヤは気づいた、そして言葉にした。それにより、ショーはオオカミの想定通りに進み続ける



「ねぇ!仮面フレンズスカーレットだよね!?」

「ホントだ!マントが同じ!スカーレットー!」


『……』


「スカーレット…彼が、10年前に一度だけ現れた仮面フレンズスカーレットだというのか!?」


「どうした急に。というか何か知っているのか?」


「ああ…。初代ダークビースト団と激闘を繰り広げ勝利し、その後は表舞台に一切出てこなくなった幻のヒーロー…それが仮面フレンズスカーレット。今の仮面フレンズは、彼の意志を継いでいると言われている…」



トウヤの問いかけにも、ファンオタクの突然の解説にもレッドデビルは答えない。ただ、目の前の敵を見つめるだけであった



『…フッフッフッ。ハァーッハッハッハッ!よくぞ見破ったなそこの小僧!そう、こいつは仮面フレンズスカーレットが闇に染まった姿さ!』



彼の存在は、今やファンの間では伝説のヒーローと化しているのである。そんな彼が、悪の手下となって現れ人々を恐怖に陥れようとしている。明かされた真実は、全てのファンに大きな衝撃を与えた



「嘘だよ!スカーレットは最強のヒーローなんだ!悪の心に染まったりしないんだ!」

「仮面フレンズスカーレット!元に戻って!皆を助けてよぉ!」



『無駄無駄無駄ァ!そんな小さな声なんて届きやしない!さぁレッド・デビルよ!愚かな者達に引導を渡してやれ!』



『……スカー……レッ…ト…?』



『…な、なんだ?どうした?』



『レッド…スカーレット…うっ頭が…!?』



その場で蹲り、苦しみ始めたレッドデビル。頻りに “レッド” “スカーレット” と呟き、左手をプリキュリアに伸ばしては右手でそれを押さえつけている



「そうか…スカーレットは戦っているんだ!本来の正義の心が、偽りの悪の心に打ち勝とうとしているんだ!トウヤ!シュリ!スカーレットを応援するんだ!」


「うん!頑張れスカーレット!」

「悪の心なんかに負けないでー!」



\モドッテコイスカーレットー!/\アナタナラヤレルワ!/

\アッ…アツイテンカイデナミダガデ,デマスヨ…/



『なっ…なんだよこれ!?何をしてるんだレッド・デビル!早く止めを刺せ!』



「帰ってこいスカーレット!」

「「がんばれー!!」」



八雲一家に先導され、小さな声は大きな声援と変わっていく。1人の声で届かないのなら、群れの声で届かせる。会場は1つになっていた



『ぐぅ…!?俺は…私は──!』



「うわぁ!?」

「まぶしー!」



眩い光を放つレッド・デビル。ステージをも包み込み、会場全ての者の視界を奪う。光が収まった時、彼はただ立ち尽くしていた



「スカーレット…?」

「だいじょーぶ…?」


「…ありがとう、幼き子らよ。そしてありがとう、皆の者よ。私は今、私を取り戻した!」


『お、お前…お前は…!』


「改めて名乗らせてもらおう!トゥ!」



スーツのネクタイを雑に投げ捨て、いつの間にかヒーローの仮面に付け替えた彼は、マントを靡かせステージの中央へと降り立った



「世界の未来を守るため、勇気と力がレボリューション!刮目せよ、古の英雄の復活を!かぁつもくせよ!古の英雄の復活を!」



『なぜ2回言った…!?』



「2回言うのは勝利の証!そう、今の私の名は──『仮面フレンズ スカーレット・ノヴァ』だ!」



【脚本変更その③:復活に加えてパワーアップ】



「凄い…!皆さん!仮面フレンズスカーレットが、新たな力を得て復活しました!」



「「いっけースカーレットノヴァー!」」



『ふ、ふん!新たな力がなんだ!僕が──』



「必殺…『バーニング・ソウル・ノヴァ』!」



『──えっちょっ…わああああああああ!?』



紅く光る拳から放たれた、サンドスターの流星群。ド派手なエフェクトと共に、グレイザーは場外へと飛ばされた。まだセリフの途中だったが悪相手に容赦は必要ないのだ!



「や…やりましたー!ヒーローが悪を倒しました!ありがとうスカーレットー!」



\アリガトー!/\カッコイイゾスカーレットー!/\サインクレサインー!/



「皆、本当にありがとう。そして…すまなかったプリキュリアよ。操られていたとはいえ、君達に多大な危害を加えてしまった…」


「気にするな。自分の実力を再確認できる良い機会だった」

「ああ。修行し直して、必ず貴様に追い付いてやろう」


「…ありがとう。さて、私はもう行かなければならない。こうしている間にも、また何処かで残党が暴れているかもしれないからな」


「あっ!待ってスカーレット!」



プリキュリアと握手を交わし、ステージを去ろうとした時、トウヤから呼び止められるスカーレット。彼は振り向かなかったが、その歩みを少しだけ止めた



「僕も、僕もヒーローになれるかな?」


「…なれるさ、絶対に。勇気を持って私を呼んでくれたのだからな。だから頑張れ、幼き子らよ!」


「うん!ありがとうスカーレット!」

「元気でね!」


「フッ…では、去らばだ!」



颯爽と駆け抜け、姿を消したヒーロー。盛大な拍手は、彼がいなくなった後でも暫く鳴り止まなかった


斯くして悪は滅び、彼は再び伝説の存在へと戻っていく。しかし彼は今日も何処かで戦っているだろう、パークの平和を守る為に



「この後10分休憩を挟んでのペパプライブとなりまーす!皆様水分補給してお待ちくださいねー!」



大いに盛り上がったショー。しかしアナウンスの通り、メインはペパプライブなのである

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