第11話 お土産は思い出と共に


「これが、『キメラのフレンズ』…!」

「こんなフレンズ、見たことない…!」


シーサーの二人の表情が驚愕に染まり、感嘆の声を洩らすのも無理もない。左右非対称の歪で異質な、しかしそれを掻き消す自分達と同じ神獣としての佇まいに、二人は味わったことのない高揚を感じていた。まさに百聞は一見に如かず、これは実際に会った者への特権だ


当たり前のように空を飛び、当たり前のように結界を張り、当たり前のように太陽の光を放つ。一つ一つが並外れた力であり、それは容赦なく何度も黒き恐竜を葬っていく



『ギャアアアオオ!!!』



恐竜は再度吠え、キメラへと走る。巨体を駆使した突進で、目の前の獲物を押し潰そうとする


コウはヘビの尻尾を敵の顔に当て、軌道を少しずらし、お互いが触れるか触れないかの距離でかわした。反応が遅れたわけではない、この方が得策だと考えたからだ


身体を回転させ、その勢いでがら空きの背中に飛び乗り、毒牙を恐竜へと突き立てる。振りほどこうと暴れ回るが、コウは離すことはなかった。その巨体が転がる瞬間に背中を蹴り、地面へと無理なく着地した


恐竜は立ち上がる。だがコウへと振り向いた瞬間、軽快な音を立てて砕け散った


「えっと…次で最後か」


繰り返すこと9回、しかし彼に疲れや焦りはない。その瞳に映すサンドスターの動きを観察しながら、次は何で倒そうかとのんびり考えていた



『オオオオ!!!』


「…ん?」


『ゴアアアア!!!』



天を見上げた恐竜が解き放ったのは、辺り一面ごと焼き付くさんとする業火。通常であれば、防御をしても傷を負うのは確実であり、逃げるという選択肢を取るのが最善である



「そんなチンケな炎じゃ、俺は燃やせない」



しかし今の彼の前では、それすらも塵に等しい。右手を突き出し、彼は見えない障壁を瞬時に生み出す。それに阻まれ、炎は彼から逃げるように逸れていった



「お返しだッ!」



左の掌に、キュウビキツネの青い炎が灯る。一度腕を後ろに下げ、空を裂くように振るうと、炎は巨大な壁となり恐竜を飲み込んだ



『オオオオオオ…』


「…あれ?倒しきれてない。強くなってるのは本当だったのか」



シーサー曰く、倒せば倒すほどマジムンは強くなる。ここまで苦労することもなかった為、耐久力も上がっていることにコウは気づいていなかった



「ま、これで終わりだ」



それも、彼にとっては問題にすらならない。人差し指から放つのは、一点集中の狐火。真っ直ぐ伸びたそれは喉を貫き、残り僅かだった恐竜を貫いた





「お疲れ様ー!いやー凄かったよー!」

「想像以上だったよー!ありがとねー!」


「どういたしまして」


どうやら、満足させられたようだ。俺の右手をライトさんが、左手をレフティさんが掴んでぶんぶんと振っている。それはもう取れちゃいそうなくらい振られている。喜んでる姿を見ると、やっぱり彼女達も女の子だって思う


「でもさ、まだまだ余裕あったよね?」

「底を全然見せてないように思えたよ?」


「まぁね。そこまでするほど強くなかったから。マジムンの強さ結構抑えてたよね?」


「ごめーとー。今回は稽古じゃないからね。私達が相手にしてるのはもっと強いやつだよー」

「君にとっては、今回のは物足りなかったかもねー。望むなら強いの用意するよー?」


「…いや、遠慮しとくよ」


修行には持ってこいだけど、今日はもう終わりにしたい。やりたいことが出来たしね


「1つお願いがあるんだけど、セルリアン生成の方法を教えてくれない?俺も出来るようになりたいんだ」


「いいよー!君ならちゃちゃっと出来るとおもうしねー!」


早く片付けた理由はこれ。俺が出来るようになれば、キョウシュウの腕自慢の子達にも同じことがしてあげられる。修行にもちからくらべにももってこいだからね


「ありがとう、早速お願いします」


「「りょーかーい!」」







「シーサー姉妹の!」

「おもてなシーサー!」


「…朝からテンション高いね」


なんでこんなに元気なの?君達も同じくらいの時間に寝たよね?


結局、あれから結構時間が過ぎてしまい、寝るのが凄く遅くなってしまった。そして強引に子供達に起こされ、まだ眠気が残っている状態で外に駆り出された。あくびをする度に、キングコブラが横腹を突っついてくる。はい、言いたいことは分かってます


「なにボーッとしてるのさー?」

「シャキッとしないと、福が逃げるぞー?」


そう言われても、南国のぽかぽか陽気が俺を眠りへと誘ってくるのだから仕方ない。この眠気をポーンっと飛ばしてくれるものはないものか…


「はいこれ、リウキウ限定の『パイナップルジャパまん』だよー」

「更にもう一つ、同じく限定の『塩ちんすこうジャパまん』だよー」


「おいしそー!」

「いただきまーす!」


「まだ沢山あるけどー」

「お寝坊さんには渡せないかなー?」


「そうだな、コウの分は私がもr」

「いただきます」


おっといいものを持っているじゃないか。これは眠気覚ましにちょうどいい、沢山食べて身体を起こそう。これで今日も1日元気だ。妻が苦笑いしてるけどそんなの気にしません


「そういえば、今日の予定はなにかあるのかい?」


「用事は済んだといえば済んだから、帰る前に少し島を見て回ろうかなって」


子供達はまだ幼いから、長期で慣れない土地にいさせるのが心配なのは変わらない。だけどせっかく来たのだから1日くらいはいいだろうというのが、俺とキングコブラの旅行計画だ。海は行ったから内陸の方に行きたいね


…とか思っていたら、島の守り神は気まずそうな顔をしていた。俺を手招きして、『聞いといてよかったー』と一言添えた


「そのー…凄く言いづらいんだけど、今リウキウでセルリアンが大量発生しててね…」


「…は?」


「昨日今日で更に増えてて、その影響で数日立入禁止区域が広がってるんだよね…。今日も解除されないかな…」


「嘘だろ…?」


昨日二人が出掛けていた理由はそれだったらしい。ナナさんが朝からいないのも、立入禁止区域周辺の調査に向かったからだそうだ。今は落ち着いているようだけど、これじゃあ怖くて島の観光は出来ないな


「その代わり、良い場所案内してあげるねー」

「そこは大丈夫だったから、安心して楽しめるよー」


「…なら、そこに行こうかな」


少しでも楽しい思い出を残すため、行かないという選択肢はない。キングコブラに事情を説明して、子供達には『お仕事してるんだって』と探検できないことをやんわりと簡単に教える。それと同時に、それよりも楽しい場所があると教えた。ハードルが上がった気もするけど、この二人が言うなら大丈夫だろう



*



案内された場所の入口には、大きな鳥居が立っており、その上にはシーサーの獣像が一対置いてあった。そこは活気に満ち溢れ、ヒトとフレンズで賑わい、同じくヒトやフレンズが経営しているお店が並んでいた


「ここは?」


「ここは『リウキウ市場』!色々なものが売ってるから、お土産を探すにはもってこいだよー!」

「これ渡しとくねー。来てくれたお礼さー」


ライトさんがくれたのは、ここの出店の情報が載ったパンフレットと、ここで使える特別な『ジャパリ商品券』。前者には麦わら帽子を被ったラッキーさんが載っていて、お店の内容を一言呟いている。後者には、リウキウの立派なお城が印刷されていた。次来た時はここに行きたいね


それを4枚くれた後で、シーサーさんはナナさんの元へ向かった。守護けものはやっぱり大変だなぁ…



「良いのいっぱいあるよー!」

「綺麗なアクセサリーはいかがですかー?」

「ここにしかない限定商品はどうでい!?」

「可愛い物がたくさん売ってるよー!」



外にも聞こえるほどの、お客を呼び込む大きな声。中に入ればたくさんの人達が、店の前にも並ぶ商品を眺めては手に取っている


「ねえねえ!あれ可愛い!」

「あっちのカッコいい!」

「「美味しそうな匂いがする!」」


「これではすぐにはぐれそうだな」

「こんな状況じゃ仕方ないね」


トウヤとシュリが目移りするのも分かる。ここには珍しいものや、美味しそうなもので満ち溢れている。離れないよう尻尾を掴ませておこう


「いらっしゃいませー!どうぞご覧下さーい!」


最初に入ったのは、ヒトが経営している定番の食べ物のお土産屋。塩ちんすこうやリウキウめんべい、マンゴープリンに黒糖チョコレート等々、幅広い層が買えるような品揃えだ


「只今、こちらの試食を行っております。よろしければどうぞ!」


「「ししょく?」」


「味見みたいなものだね。1つ貰おうか」


店員さんが配っていたのは、一口サイズの『紅いもタルト』。合計4つ貰って、皆でパクリ


「「おいしー!」」

「ほう…これは…!」

「美味しい…!」


口の中に広がる甘味で、頬が自然とほころぶ。あっという間に食べ終えてしまい、もっと食べたいと身体と家族の眼が訴えている


つまり、店員さんの狙い通りになったということだ


というわけで、俺はこの数量が多く入った『紅いもタルト』を選んだ。特にお世話になってるろっじの皆の分と、キョウシュウで働く両親の分もだ。他の皆には、あとで材料を頼んで、作って食べてもらおうかな



*



途中屋台で買ったサーターアンダギーを食べながら、何か良いものはないかと色々なお店を覗く。変な言葉がプリントされたTシャツや掛け軸が売っていたり、独自の絵が書いてあるおもちゃがあったりと、意識が引っ張られる所がたくさんあった


「あっ!ここ入る!」

「いっぱいいるよ!」


トウヤとシュリが、どうやら気になるものを見つけたようだ。ついたここは…フレンズが経営してるみたいだ。人気店なのか、他よりもお客さんの数が多い気がする。品物よりこっちに釣られたって感じかな?


「いらっしゃいませ~」

「ゆっくりしていくといいわ」


お店の名前は『かりふぉるにあひろば』。名前の通り “カルフォルニアアシカ” さんが店長で、もう一人いる店員は “カリフォルニアラッコ” さん。更にもう一人女性のパークスタッフがいるらしいけど、今は少し離れているとのこと


ここには本当に商品か?と思うくらいの古めかしい物から、最近入荷された新品の物まで、ジャンルを問わず棚に陳列されている。外には店員がオススメしている物を並べているようだ


お客さんフレンズ達と交流しながら、棚にある商品を見ていく。話を聞くに、やはりここは人気店らしく、外から来たヒトも多く訪れるとのこと。ならきっと、三人が気に入る物もあるはずだ


「私、これ欲しい!」


とか思ってたら早速だ。シュリが指差したのは、『海の生き物ぬいぐるみセット』。イルカやクジラ、ラッコにアシカにペンギンと、手乗りサイズの小さくて可愛い物がまとめてあるお得なやつだ。やっぱり女の子、こういうのも好きらしい


「すみません、これください」


「はぁ~い、ありがとうございます~。あとおまけで、これもあげちゃいます~」


「いいの!?ありがとうラッコちゃん!」


「どういたしまして~♪」


ラッコさんがシュリに、星形のペンダントを首にかけてくれた。ぬいぐるみと合わせて、とてもご満悦な顔をしている。本当にありがとうございます


「ふむ…これはいいかもしれないな。私はこれにしよう」


キングコブラが見つけたのは、一対のシーサーの置物。玄関に置くと、福を呼び込み、厄を祓う効果が発揮される…とのこと。なんにせよ縁起が良いものだ。妻よ、家族のためにありがとう


「トウヤは何かいいのあったか?」


「僕はこれ!」


トウヤが指差したのは、お店の入口にかかっていた蓋付きの懐中時計。銀色に鈍く光るそれは、トウヤの掌より少し大きく、裏側にはパークでよく見る『の』の文字があしらわれていた


正直、意外な物を選んだなと思う。剣のおもちゃや龍のキーホルダーのような、いかにもかっこよさげな物を選ぶかと思ってた。早くも好みが変わってきたのかな?


「…これ、やけに古びてないか?」


「確かに…ってこれ、昔のパークで売られてたやつだ。しかもかなり初期のやつだよ」


「なるほど…道理でこんな風になってるはずだ」


何処かで見たことある気がしてたけど、そういえば昔、父さんが似たような物を使ってたのを思い出した。よく現物が残っていたものだ


外側は傷だらけで、中の針は時を刻んでいなかった。完全に壊れてるなこれ。ボロボロで直せなさそうだ


「あら?それ片付けてなかったのね」


「どういうことだ?」


「それ、壊れちゃってるでしょ?だから売り物にならないからって、スタッフさんがさっき片付けたはずなんだけど…」


「たぶん、そのまま置いてっちゃったんでしょうね~」


「そうだったんだ。残念だったなトウヤ、でも時計なら他にもあるぞ?」


「…うん」


懐中時計なら、デザインや色が違うけど新しい物はある。けれどもトウヤは、壊れたそれを諦めきれない様子で見ていた。そのデザインに一目惚れでもしたのかな?


「欲しいならあげるわよ?」


「…え?」


「スタッフさんに言わなくて大丈夫?」


「大丈夫よ。それにどうせ捨てちゃうなら、大切にしてくれる人が持ってた方が、これも嬉しいでしょうしね。はい、どうぞ」


「ありがとう。よかったな、トウヤ」


「うん!ありがとうアシカちゃん!」


懐中時計を抱き締めて、ここに来て一番の笑顔を見せたトウヤ。それほどまでに、これが欲しくてたまらなかったのだろう。よほど嬉しいのか、時を止めそうなポーズを決めていた


これはタダで貰えたので、トウヤは商品券を新品の懐中時計に使った。そっちの外見には特に特徴はなく、中に『の』があしらわれ、龍の模様が描かれていた。やっぱりそういうのも好きなのね




*




「もう帰るのー?」

「帰るの。またいつかね」

「絶対だよ!」

「ああ、絶対だ」


お土産を持って、荷物も持って、海でイルカさん達と遊んで、待つのはキョウシュウ行きの船。もう終わるは一泊二日のリウキウ旅行。島を巡れなかったのは残念だけど、その分次に来た時は思いっきり堪能しよう。子供達がもう少し大きくなったら、また家族全員で来ようね


「やっほー!」

「間に合ったー!」


「あっ、お疲れ様。見送りに来てくれたの?」


「それもあるし、他にもあるよー」

「トウヤ、シュリ、ちょっとおいでー?」


名指しされた子供達は、素直にシーサーさんの元へ。頭を撫でて、抱っこしてクルッと回って下ろして、最後に二人は笑顔で左右対称の同じポーズを取った


「何したの?」


「おまじないさー!二人に福が来ますようにってねー!」

「無病息災に健康祈願、その他諸々!これで厄を祓えるよー!」


「ふんわりとしてるな…」


同感だ。でも神様のありがたいおまじないだ、きっと必ず御利益がある。きっと二人を、未来まで守ってくれるはずだ


「今度は私達がそっちに行くねー!」

「次は思いっきり遊ぼうねー!」


「いつでも来い」

「待ってるよ」

「「またねー!」」


船に乗り、見えなくなるまで手を振って、リウキウへと別れを告げる。彼女達がキョウシュウに来たら、出来る限りのおもてなしをしてあげよう


お出迎えの挨拶は…『めんそーれ!』にしようかな?

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