第12話 白の世界で舞う幼子


「いらっしゃいませ」

「ようこそお出でくださいました」


「「こんにちはー!」」

「4人だ、よろしく頼む」


「畏まりました。どうぞこちらへ」


お出迎えしてくれたのは、和風な着物姿のギンギツネさんとキタキツネさん。深々とお辞儀をして、俺達を部屋へと案内してくれる。その間に、温泉の入浴時間、夕食の時間やメニュー、旅館の使い方等を説明してくれた


そう、ここは雪山の温泉旅館。今日から家族で、一泊二日お世話になります


ここはキョウシュウエリアの人気スポットの一つとなり、外では雪遊びを、中では色々な種類のゲームを楽しめると評判である。コートや手袋、ソリにボード等を貸し出しているから、何も持ってこなくても安心だ


外から来たヒトがここまで来る移動手段は、港から出ている専用のバス。日替わりで護衛のフレンズが同じく乗車して、程々のスピードでここまで来る。今のところ、セルリアンに襲われたという報告はない


現在は完全予約制で、数日おきに外のヒトを少人数招き入れているのは遊園地と同じ。それでも予約が先の先まで埋まっているらしく、抽選の倍率も高いとのこと。それは多分、看板娘であるフレンズ達の影響もあると思う。だって今も注目されているし


因みに、ここの仕事服をキングコブラにも着てもらったことがある。やっぱり似合ってて、彼女の美しさをより引き出していて本当に可愛くて最高だった…この話は置いておこうか


「にしてもギンギツネさんはともかく、キタキツネさんはよくやろうとしたよね」


「手伝うと新しいゲームが増えるからね。最近また増えたんだよ」


「動機はどうあれ、手伝ってくれるのは凄く助かってるわ。結構お客さん来るのよ」


部屋に着いた途端、二人の口調が崩れる。お客さんの前でこうならないように、毎日の練習として二人は丁寧な言葉遣いでお出迎えをしている


「それよりも、午後の、よろしく頼むわね」


「了解した。心配はいらない。二人もやる気十分だからな」


「凄いの作るよ!」

「大きいの作るの!」


「フフッ、なら期待してるわよ?」

「…ねぇそろそろゲーム」

「まだ終わってないわよ」

「うええええ…」


引き摺られるように、ギンギツネさんはキタキツネさんを連れていった。しっかり準備して、俺達も遊びに行こう



*



「わーい!雪がいっぱいだー!」


我先にと飛び出して、雪にダイブしたシュリ。転んだかと思ったけど、自分からしたらしく特に問題はないようだ。積もった雪を空に投げて、落ちてくるそれを叩いては走り回っている


「まっしろ…ふわふわしてる!」


トウヤは一歩一歩踏みしめている…と思いきや、雪の上をピョンピョンと跳ね始めた。足跡をつけるのが楽しいのか、あちこち歩いては足跡まみれにしている。ダイブは…しなさそうかな


「二人とも寒くないか?」


「大丈夫!」

「全然寒くないよ!早くあそぼっ!」


「はいはい、じゃあまずはソリで滑ろうな」


厚着に帽子、耳当て手袋マフラー、ホッカイロも装備と完全防寒な俺達。太陽は出ていないけど、動いていれば多少は暖まるだろう


とはいえ油断はしない。ジャングルの時と同じように、いつ寒さへの耐性が決壊するか分からないからね。トウヤはバスの中でも寒そうにしていたから、特に見ててあげないと



「なぁ、あれ本物かな?」

「すげぇクオリティだよな。声かけてこようかな」

「お話ししてみたいよね~」

「やめときなよ。邪魔しちゃ悪いよ」



…なんか、俺達のことを言ってるような会話が聞こえた。振り向くと、若い男女二組がこちらを見ていた。軽く手と尻尾を振ってやると、跳ねながら大きく手を振り返して遊びに戻っていった。大いにはしゃいでる声がよく聞こえる


ジャパリパークという場所がそうさせるのか、俺がいつもの蛇の姿をしていても、外のヒトに自然と受け入れられている。そして、俺達家族を見た時の反応は様々で、これは結構珍しい例だ。変な風に思われるよりはずっといいけど、正直最初は戸惑いも大きかった


まぁそんなことは、もう気にならないし気にしていない


「パパー?どうしたのー?」

「早く行こうよー!」

「来ないと置いていくぞ?」

「待って待って、今行くって!」


隣には、愛する家族がいてくれるからね


「よし、行くぞ!」

「そらっ!進めっ!」


「「きゃはははは!!!」」


俺がトウヤを、キングコブラがシュリを前に乗せて、勢いよく坂を下る。そこまで急な坂じゃないけど、尻尾のブーストのおかげで子供達が楽しめるくらいのスピードは出ている


「もう一回!もう一回やろっ!」

「僕もっと速いのがいい!」

「あっ!私も!」


「も、もっとだと?大丈夫だろうか…」

「まぁ、転けない程度にやろうか。怪我したら大変だし」


要望にお答えして、少しだけスピードアップのソリ滑り。雪が舞って顔に当たっても、お構いなしにキャーキャーとはしゃいでいる。そして終われば、もっと速くとせがまれる


…防御結界、考えておこうかな




*




『お客様にお知らせ致します。只今より、【雪山かまくら創作会】を開催致します。皆様、どうぞ奮ってご参加下さいませ』


おっと、もうそんな時間か。周りも動き始めたから、俺達も準備を始めよう


ギンギツネさんにお願いされていたこと、それがこのイベントへの参加である。参加賞もあるとのことなので、俺達は二つ返事で承諾した


とはいっても、これは周りと競う本格的なものじゃない。外のヒトにかまくら作りを通して、フレンズ達と交流をしてもらうことを目的としたものだ。滞在時間を伸ばせるようになれば、それこそ本格的な雪まつりやコンテストになるだろう


参加者は俺達家族の他にも、ヒトのグループとフレンズのグループがそれぞれいる。前者にはサポートと称して、遊びに来たフレンズが1人参加する。誰が参加するかは俺も知らない──



「はぁ~い、皆さんよろしくお願いしますね~」

「きれーな白髪だ…」

「ふわふわお姉さんだ…」

「色々と大きいんですけど…」

「空気食べてるの不思議だけど可愛い…」


「これが終わったら、ゆっくり温泉に入りますよよよ…」

「私達も入りますよよよ…」

「あんたも言うんかい!」

「でも気持ちは分かるよよよ…」

「確かに。これは真似したくなる可愛さ」



──うん、思いっきり知ってる子がいたな


他の子も配置に着いたのか、歓声のような何かがあちこちで上がっている。まぁ楽しくやれそうなら、それに越したことはないか


「む、お前達も参加していたのか」


「あっ、バリーさん。今日は一人?」


「いや、二人もいるぞ」


「ごきげんよう」

「お久しぶりです、皆さん」


彼女に続き、ひょこっと現れたのはブチハイエナさんとアードウルフさん。今日のバスの護衛は彼女達だったようで、せっかく来たのだから参加していこう、ということらしい


「アードちゃん達はどんなかまくら作るの?」


「それは完成するまでのお楽しみです。そっちの方が楽しみが増えますから」


「そっか!なら僕達が作るのも内緒にする!」


「ええ、楽しみにしてるわ」


「やる以上、全力を以て作るのみだ。ではな」


少し離れて、作業を開始したバリーさん一向。あんな真剣な瞳をされたら、俺達も答えるしかあるまい


「んじゃ、まずは雪を集めよう。雪かき開始!」

「「かいしー!」」


小さなスコップで、雪をザクザクして集めるトウヤとシュリ。俺達は大きなスコップとソリを使って、少し離れた雪を集めていく


「よし、固めていくぞ。さぁ乗せていけ!」

「「おおー!」」


ある程度集めたら、1つにまとめて、塊を大きくしていく。『よいしょー!』と掛け声をかけながら積み上げて、丸くなるように削っていく。少しずつ丁寧に作っていこう



*



「へくちっ!」


作業から十数分。ここで、大きなくしゃみが1つ


「トウヤ、大丈夫か?寒いか?」


「だいじょーぶ。寒くない」ズズッ…


「アハハ!お兄鼻水出てる!」


「大丈夫じゃなかったな。ほらおいで?」


鼻をかませて、スタッフのいるテントへ移動する。ここでは紅茶やコーヒー等、暖かい飲み物が無料で配られている。俺は紅茶を、トウヤはホットミルクを選んで、火傷に注意して少しずつ口に入れる


「トウヤ、やっぱり寒いだろ?」


「寒くないもん!大丈夫だもん!」


「嘘だ。パパには分かる、トウヤは嘘をついてる。我慢しないで言っていいんだぞ。ほら、本当は?」


「…………寒い」


「よく言えたな、偉いぞ。もう少しここにいような」


「…うん」


ぎゅっと抱き寄せる。小さな口から、白い息が絶え間なく出てくる。言葉にしたからか、身体はブルブルと震え、コップを持つ手が揺れている。これは相当我慢していたな


寒さへの耐性は、シュリの方が遥かに高いらしい。兄妹でここまで耐性が真逆とは。まぁ我慢の限界に関しては、兄心からかトウヤの方が上だけど。でもそれは、時と場合で良いことにも悪いことにもなる。今回は悪い方に出てしまった


苦手なこと、駄目なこと。それがあるのは決して悪いことじゃない。それをゆっくりでいいから、しっかりと学んでいってほしいものだ


「私もゆっくり休みます~。美味しそうな匂いがしましたしね~」


ホワイトライオンさんが隣に座って、コーンポタージュを一口。彼女は文字通り猫舌だから、飲むのに少し苦労している。何回もフーフーして、美味しそうに飲んでいた


「そういえば、これは貰いましたか?」


「いや、貰ってないね」


彼女が取り出したのは、俺達が持っていた物より少し大きめのホッカイロ。上着の内側に入れておけば長い時間暖めてくれそうだ。予想以上に冷え込んできたから、スタッフが皆に配っているそうな


「ならあげますね~。私は沢山貰ったので、遠慮しないでいいですよ~」


「ありがとう、助かるよ。ほら、トウヤも」


「ありがとうホワライちゃん!」


「どういたしまして~」


「よーし!パパいこっ!」


「大丈夫か?もう少し休んだ方が…」


「だいじょーぶ!これあったかいもん!」


得意気に出したホッカイロを、顔に当てて笑うトウヤ。幾分かマシになったのは本当みたいだ。なら、もう一杯だけ飲んでから行こう


…あっ、これだけは聞いておこうかな


「ホワイトライオンさん、?」


「はぁい、とっても楽しいです。~」


「…そっか。なら良かった」


言いたいこと、聞きたいこと。お互いに通じたので、二人の元へ戻るとしよう



*



「さて、進み具合はどうなっ……て……?」


「ウゥ…エウ…」


「よしよし、痛かったな」


まず、目の前の状況を整理しよう。大きな事柄が3つある


1つ:かまくらの一ヶ所が凹んでいる

2つ:シュリが妻にしがみついて泣いている

3つ:妻がシュリを抱き締めて頭を撫でている


…これは、もしかして


「シュリどうしたの?だいじょうぶ?」


「…なんとなく予想出来たけど、一応。何があったの?」


「…かまくらに、頭からダイブしたんだ」


やっぱりね…


どうやら、他のグループがしていたことを真似したらしい。しかし勢いと高さが足りなかった結果、かまくらを貫くことは出来ず、ただ頭を打っただけになった。どこかのキツネのようにするには、まだ早かったということだ


「コウ、頼めるか?」


「任せといて」


手袋を取って、掌に意識を集中させる。そして、お決まりのを呟く


「痛いの痛いの、とんでけ~!」


「グスッ………あれ?ホントに痛くなくなった!」


「ええー!?パパすごーい!」


「フッフッフ!」


やったことは簡単だ。サンドスターが回復速度の向上に使えるから、その役割を補強したのだ。気づかれないくらいの量のサンドスターを集めてそっと撫でてやれば、効果が上がって簡易的な痛み止めの完成だ


「これでもう大丈夫だな」


「うん!続きやる!」

「もっとおっきくしよっ!」

「するする!」


「全く…」


呆れながらも、一安心した様子のキングコブラ。『ありがとう』と言われたので、『どういたしまして』と返して二人で微笑み、ラストスパートをかけるのだった



*



そんなこんなで──


「「かんせーい!」」


「中々上手く出来たのではないか?」


「うん、凄く良いと思うよ」


眼を作って、耳と尻尾をつけて、横にちょこっと雪だるまを作った


出来たのは『きつねかまくら』。『こやっ』と鳴きそうな、可愛いものが作れたと自分でも思う。4人で中に入っても問題ないくらいの広さにも出来たしね


「ほう?可愛いものを作ったな」


「まぁね。そっちはどう?」


「こっちは…これだ!」


バリーさん達が作ったのも中々の大きさで、入口には看板のようなものがついていた。中にはサンドバックを模した雪だるま(?)が2つほど置いてあった


「名付けて『かまくら道場』だ。良い出来だろ?」


「…なるほど、バリーらしいものを作ったな」


「ええ、本当に彼女らしいわ…」

「あはは…でも楽しかったです」


付き添いの二人は、少し苦笑いを浮かべていた。見物人は多いから、ある意味大成功と言えると思うよ


全員作り終えたようなので見て回っていく。ライオンやオオカミといった動物の耳や尻尾をつけたり、テーブルや椅子があったり、左右対象な2つがあったりと、個性豊かなかまくらが沢山あった


中には雪ウサギで周りを囲んだり、クオリティの高いペンギンの氷像を立てたりと、かまくらよりも他に力を入れていたグループもあった。これはこれで、このイベントを楽しんでくれた証拠だ


「トウヤ、シュリ、楽しかったか?」


「楽しかった!また作りたい!」

「今度はもっとおっきいの作る!」


「そうだな、また作ろうな」


今日のことは、二人にとって良い勉強になっただろう。これを糧にして、次はどうしたらもっと良いのが作れるか、考えてくれたら嬉しいな


でも今日はこれで終わり。後はゆっくり、温泉に入りたいものだ

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