第10話 リウキウの守護けもの


「おいしそー!」

「いいにおーい!」


「うふふ、もうすぐ出来上がりますからね~♪」


「これはこっちでー」

「これはあっちー!」

「お母さん、こんな感じでいいですか?」


「はぁい!綺麗に盛り付けてくれてありがとうございます~!」


部屋に荷物を置いた後、私達は晩御飯の準備を見学することにした。シロナガスクジラ達は、てきぱきと慣れた様子で料理を作っている。手伝うことも考えたが、私達は客人だからゆっくりしていてほしい先に言われてしまったのでこうしている


…それにしても、コウは何処に行ったのだろうか?中々時間が経つが、まだ帰ってくる様子がない。ナナはすぐに戻ってきたから、そこまで遠くは行っていないと思うのだが…


「ナナ、コウはまだ来ないのか?」


「う~ん…もう来てもいい頃だと思うんだけど…」


コウだけを呼んだ理由は、なんとなく予想がついている。ヤタガラスがここに呼んだことを考えると、おそらくは守護けもの絡みの話だろう


しかし…誰がいるのかは知らないが、それにしては少し遅い気がするな…


「迎えに行ってくる?」


「…行っていいのか?それだとコウだけを呼んだ意味がなくなるのではないか?」


「大丈夫だと思うよ。そこまで深い話はしてないんじゃないかな」


「ママ、パパのところ行くの?」

「なら私もいく!お迎えする!」


「ほら、二人もこう言ってるし」


「…そうだな、行ってくる」


結局皆で行くのなら、最初から家族全員で行っても良かったのではないか?という疑問を、私はなんとか飲み込んだ。ナナはああ言ったが、私達がいたら出来ない話をしているかもしれないからな


まぁ、今からそんな場に行くのだが




──────────




【シーサー】

本土のとある地域で伝わる、伝説の獣の像。それは建物の門や屋根、村落の高台などに据え付けられ、家や人、村に災厄をもたらす悪霊を追い払う魔除けの意味を持つ。おそらくそれらの伝承にサンドスターが反応したことで、彼女達はこのパークに顕現した


獣像は単体で置かれるよりも、一対で置かれることが多いと聞く。彼女達が右と左の二人でいるのは、それもサンドスターが考慮した結果なのだろう。二人は双子の姉妹で、ライトさんが姉だそうだ。伝説の獣なだけあって、二人から神のオーラをひしひしと感じている


…それにしても、防御力低そうな服(?)だなぁ。結界のようなもので自分を守っているだろうか?それでちゃんと厄除けできるのだろうか?


…これはまぁ、俺が心配することじゃなさそうだな


「固まっちゃった。効果覿面だね!」

「フッフッフ、驚いて声も出ないみたい!」


「…凄く驚いてはいますが、声は出ますよ」


「ありゃ、もうちょっとインパクトが必要だったかな?」


「…いえ、これ以上はいりません」


復活していたこととか、こうして実際に会えたこととか、あの人達が二人の存在を黙っていたこととか。唯でさえ色々とあるのに、更に追加されたらパンクしそうだ


「まず、なんで先に俺をここに呼んだんですか?向こうで顔合わせしても良かったと思うんですけど」


「だっていきなり会ったら、ご飯に集中できないんじゃないかなって思ってさ」

「少しでも緩和しようと思ってね~。それに、ご飯は皆で楽しく食べてこそでしょ?」


「…成る程。で、実際どうですか?俺に会った感想は?」


「聞いてた通り、本当に男のフレンズなんだね。綺麗な紅色だー!」

「しかも私達と同じ雰囲気。本当に守護けものなんだね。カッコいい!」


うろうろと俺の回りをぐるぐると歩いては、ジロジロと興味深そうに観察してくる。これも凄く懐かしくて恥ずかしい。綺麗とかカッコいいとか言われるのは、少し嬉しいけどね


さて…脳も落ち着いてきたからか、聞きたいことが浮かんできたな。しかしここはレディファースト、まず俺が質問を受けよう。彼女達の方がしたいだろうしね


「何か聞きたいことはある?遠慮せず言っていいよー!」


「…いいんですか?先にしても?」


「今日君はお客さんだからね。これくらいはお安いご用さー!」

「それと、私達に敬語使わなくていいよ。その方が親しみがあっていいしね~」


「…そういうことなら、。レフティさん、ライトさん」


折角の申し出だ、ここは優しさに甘えさせてもらおう


「じゃあ早速。二人はいつ復活してたの?」


「そーだね、だいたい3ヶ月前くらいかな」


「…わりと最近なのか。記憶はどう?」


までのことはバッチリ覚えてるよ。ただパークの現状とか、リウキウのこととか、沢山知らなきゃいけなくててんやわんやしてたねー」

「私達の噂を聞いて、ここに来てくれるフレンズも増えてきたんだ。嬉しい悲鳴ってやつさー」


声色から察するに、本当に滅茶苦茶忙しかったようだ。こっちに彼女達の話が来なかったのは、このエリアに意識を集中してほしいという考えがあの人達にあったからかもしれない。俺もキョウシュウのことで忙しかったから、お互いこれで良かったのかもね


伝説種、絶滅種の顕現には、『ヒトやフレンズの想いや願いが関わっている』というのが、両親含む研究スタッフの了見だ。ヒトが戻り復興が進んできている今だからこそ、彼女達が再顕現したのだろう


記憶がそのままなことに関して、俺は驚いてはいない。姉さん達がそうだったからね。あの日っていうのは…いや、これはやめておこう


「他は…そうだ、姉さん達には会った?」


「最近会ったよ。面白くて楽しい子達だね!」

「あっちも驚いてたけど、私達もすっごく驚いたよー」


…妥当な感想だな。俺達以上に出生が特殊なフレンズもいないだろうし。姉さん達、失礼なことしてなきゃいいけど。特にリル姉さん


今いる守護けもの全員とは既に交流があるようで、俺が最後だったとのこと。こうやって繋がりが出来たのは、後々大きな力になりそうだ


「他にはある?」


「そうだね…とりあえずはこれだけかな。今度はそっちがどうぞ?」


「じゃあこっちの番ね。君は『キメラのフレンズ』なんだよね?それが本来の姿なの?」


「違うよ。は聞いてないんだね」


「何も知らない方が絶対に楽しいと思ったからね~!」


要はネタバレをくらわずに、俺の本来の姿を見てみたかったということか。相当楽しみにしていたようだけど、期待に答えられるかは分からないよ?


「で、どんな姿なの?見せて見せて!」

「さぁさぁさぁ、変わって見せてよ!」


「ちょっちょっちょっ…!?」


なんで誰も彼もこう圧が強いんだ!?神獣だから余計に強く感じる!左右からだから相乗効果で押し潰されそう!てか壁に追い詰められて実際に潰されそうなんですが!?


「パパ~どこ~!?」

「でてきて~!」


「トウヤ!?シュリ!?」


「あっ!パパの声!」

「こっちからだ!」


「残念、ここまでだね」

「続きはご飯の後だね」


駆けつけてくれたのは愛する我が家族。二人の声に反応して、シーサーさんは離れてくれた。タイミングが良くて助かったよ


「っ…この感じ…まさか、お前達は…!?」


「そう!流石は蛇の王、よく気づいたね!」

「私達は守護けもののシーサー!私のことはレフティって呼んでね!」

「私はライト!よろしくね~!」


「「よろしくねー!」」


シーサー二人に『たかいたかい』をされて、とてもご機嫌な子供達。早くも彼女達に懐いたようだ。流石は福を呼び厄を祓う神様ってところか。…関係無いか


「ところで、どうしてここに来たの?」


「迎えに来たの!」

「ご飯出来たよ!」


「と、言うわけだ」


「そっか、ありがとう。それなら早く戻らないとね」


「いくぞー!」

「おー!」


先導を切る子供達に釣られて、俺達も会場へ足を運ぶ。近づくにつれて、美味しそうな匂いが鼻を刺激する。これは期待してよさそうだ



*



「おぉ~!今日は豪華だね~!」

「リウキウの料理がいっぱいだ~!」


「いっぱい作ったので、いっぱい食べてくださいね~!」


「いっただっきまーす!」

「おいしー!」

「そんなに急ぐと詰まっちゃいますよ?」


テーブルに並べられたのは、ゴーヤチャンプルーに海ブドウ、タコライスにジューシー等々、この島特有の馴染みのない料理の数々。どれから食べようか迷ったので、とりあえず全部を少しずつお皿に盛った


ちなみに肉問題に関しては、大豆肉や成型肉(合成肉とも)をパークの外で作り輸入している。昔よりも料理の幅が広がったのはありがたいことだ


「「ごーやにがーい…」」


「あらら、二人にはまだ早かったかな?」

「仕方ない。ほら、こっちを食べるといい」


ゴーヤチャンプルーを食べたトウヤとシュリが、揃って渋い顔をして同じ感想を言った。食べかけのは俺がもらって、キングコブラには二人に “にんじんしりしり” を渡してもらった。同じ野菜でも馴染みがあるからか、二人は美味しそうに食べていた


今は無理に食べなくてもいいし、無理に食べさせる必要もない。大きくなれば食べられるようになるかもしれないからね。けど残すのはいけないので、親の俺が責任を持って食べます。おいしい!


「デザートに果物あるよー!」

「パイナップルにシークヮーサーにマンゴーに!」

「他にもあるので、遠慮しないでくださいね」


「これとこれとこれと…!」

「これもこれもこれも…!」


「うふふ、料理は逃げませんよ~」



*



「ンフフ…」

「フヘヘ…」


「ハハハ、すっごいだらしない顔してるよ」

「いったい、どんな夢を見ているのやら…」


現在、宿の自室。幸せそうに並んで寝ているトウヤとシュリを見て、苦笑いを浮かべたキングコブラ。お腹いっぱい食べて、皆でババ抜きをして、また少し身体を動かして、充電が切れたように二人は寝た


最後まで付き合ってくれたイルカさん達に感謝だ。彼女達は食事の片付けをしたらそのまま寝ると言っていたので、今頃はもう夢の中だろう


コンコンッ


「どうぞー」


ガチャッ


「コウ、ちょっといいかな?」

「さっきの続きなんだけどさ」


「あぁ、俺の本来の姿が見たい…だっけ?」


「そうそう。それに加えて、もう一つ頼みがあるんだ。道場に来てもらえる?」


「んーと…」


「…行ってこい。私は先に寝ることにする」


「…分かった。お休み」


「お休み」


妻に許可をもらって、念のため式神オオカミを部屋の前に待機させて、シーサーさんと共に道場の庭へ。空を見上げると、綺麗な星空が俺達を見返している


「それで、もう一つの頼みって?」


「君の力を見せてほしいんだ」


「…力を?」


「うん。オイナリサマ達に、同じ守護けものとして君の力は見ておいた方がいいって言われてね」


あー…ヤタガラスさんからの手紙ってこの事だったのか。オイナリサマも一枚噛んでたのね。にしてもまた凄い頼みをしてくるなぁ


「だからお願い、今から闘ってほしいんだ!」


「そう言われても…もう遅い時間だし、何より子供達が──」


「心配はいらないよ。私達の結界で、外からは見えないようにするからね」

「防音効果もバッチリさ。これで思う存分闘っても大丈夫だよー」


「──そうですか…」


半ば、諦めたように声を洩らした


それと防音はともかく、マジックミラーのような結界まで出来るのか。ちょっと後で試してみよう


「…仕方ない。その頼み、引き受けるよ。二人と闘えばいいの?」


「ううん、相手は私達ではないねー」

「君にはこれと戦ってもらうよー!」


二人が掌にサンドスターを集めると、それはやがて大きくなり、重ねると一つの黒い塊となった。そしてメキメキと鈍い音が連続して、大きな黒い恐竜へと変貌した


「これは…セルリアン…!?」


「そう、セルリアン。でも私達はこれを『マジムン』って呼んでるんだ」

「私達が操ってるから、勝手に誰かを襲ったり、暴走したりはしないよ。解除も簡単だしね」


言葉通り、一瞬にして姿を消した恐竜マジムン。そして再び姿を現す。どうやら本当に危険性はないらしい


フレンズへの稽古もこれでしてるから、君にもちょうどいいと思うよ!」

「まずは小手調べ!強さは…これくらいで!」


得意気にこれくらいでと言われても、見た目が変わらないからどれくらいかなんて分かりゃしない。スピードもそこまで速くないし


結界を張ってもらって、効果を確認。特に問題はないから、準備はこれでOKだ


とりあえずは先手必勝、一発殴ってみる…か!



「そぉい!」


『ギャオオオオオ…!』



パカァーンッ!



「…あれ?」



顔面にパンチしたら、ワンパンで砕け散ってしまった。こんなにあっさりと倒せるとは思ってなかったから、正直拍子抜け──



『ギャオオオオオ!!!』


「──成る程、そういうことか」



砕け散ったサンドスターが、また一ヶ所に集まり、先程倒した筈の恐竜型マジムンへと瞬時に再生した。纏う空気が、ほんの僅かながら強くなった気がした


「これを繰り返す…ってことか」


「そういうこと。倒す事にどんどん強くなっていくから、気合い入れて頑張ってねー」


なんて他人事のような言い方を。いやまぁ実際そうなんだけど


「…ちなみに、何回繰り返すの?」


「普段は制限時間内にどれくらい倒せるかってやってるんだけど、今回は10体倒したら終わりにするねー」


10体…か。キリのいい数字に聞こえるけど、正直多く感じる。あんまり時間をかけて、寝不足になるのも嫌だから…



「いいや、



普段のヘビの姿をやめると、サンドスターが俺の身体を一瞬包み、闇夜を消すほどの光を放つ。それが止むと俺の姿は変わり、シーサーさん達が見たかった、望んでいた姿となった



頭には、少し短めの斜めを向いたオオカミフェンリルの右耳と、真っ直ぐ上に立つキツネオイナリサマの左耳


背中には、漆黒のコウモリの右翼と、それよりも大きい漆黒のカラスヤタガラスの左翼


腰辺りに肩幅より少し広い、∞を描いた注連縄ヤマタノオロチ


その下から生えるのは、キツネキュウビキツネのボリュームのある尻尾、身体に巻き付けても余る長い長いヘビヨルムンガンドの尻尾、オオカミフェンリルのふさふさとした尻尾の合計3本の尻尾



これが『キメラのフレンズ』。キョウシュウエリアの守護けものとしての、俺の姿



「──んじゃ、さっさと終わらせようか」

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