第7話 地下迷宮を攻略せよ!


「コウ、もうすぐ着くぞ」

「んぅ…?」


「パパ、今日はお寝坊さんだ」

「パパー起きてー」


「…ん、おはよ」

「「「おはよう」!」」


心地よい眠気を吹き飛ばす、心地よい声が3つ。被っていたギロッとした紅色の瞳の模様が入った白いヘビのフードを取り、あくびを一回して伸びをする


「砂がいっぱいだー!」

「ず~っと砂ばっかり!」


閉めきったバスの窓に顔を貼り付けて、景色を眺めているトウヤとシュリ。エアコンが効いているしバスの素材が熱対策しているしで、外の暑さは全然気にならない


見えてきたのは、地下のバイパスに続く入口。そのまま突入して、地下に設立された駐車場に停める。運転してくれたラッキーさんにお礼を言って、その施設の受け付けに声をかける


「すみません、ミライさんから話は伺ってるかと思うんですが…」


「あっはい!お伺いしてます!お待ちしてました、今日はよろしくお願いします!」



ここはさばくの地下迷宮。そして今日は、ここをオープン出来るかどうかの試験日だ



ここは設備を一から見直したこと、ここへのアクセスの方法を増やそうとしたこと、セルリアンが度々発生したこと…等々、色々な要素が重なった結果、復旧作業が他に比べて大幅に遅れていた。パークスタッフからしたら、今日は目標への大きな第一歩って感じだろう


本来であれば、は俺の仕事だから、俺だけで来るはずなんだけど…結果はご覧の通り、家族総出だ。『たまには良いんじゃないですか?』というのは母さんの言葉。ミライさんからは、特に問題はなかったと連絡が来たのでそうすることにした


ただやっぱり心配はあったので、太陽が昇りきらない明け方に、俺が先回りして念入りに調査しておいた。家族のためならこんなものは苦にならない。ゆっくり寝させてもらえたしね


「はぁ~い、ジャパリまんとお水で~す」

「中が涼しいとは言っても、水分補給は大事だからね!」


ここでたまに助っ人をしているヒトコブラクダさんとフタコブラクダさんから、それらが入ったバックを受け取る。意外と重量があるから困らなさそうだ


「今日は俺とスナネコも着いていく。迷った時のアドバイザーって感じだ。もちろん、どうしても駄目になった時にしか口出しはしねぇ」


「それでいい。そうでなければ面白くないからな。そうだろう二人とも?」


「「うん!」」


「ハッ!なら、お手並み拝見といこうじゃねぇの」


「やる気いっぱいですね~。僕はもう飽きました」


「オイ!?」


「冗談ですよ。さぁ行きましょう」


今日も平常運転な、スナネコさんとツチノコさんであった


ドアを開いた先の闇に、全員で足を踏み入れる



『ようこそ地下迷宮へ!君は無事に出口まで辿り着けるかな!?ウッフッフッフ…ッ!』



「「おお~!!」」



バタンッ!と勢いよくドアが閉まり、明かりが順々に付き、お決まりのセリフが流れた。ここは変わってないらしい。こんな施設を一番に体験できるということで、子供達はもうハイテンションだ


「右か、左か…どっちから行く?」


「「右に行く!」」


「ほう?どうしてだ?」


「「なんとなく!」」


「…まぁ、いいだろう」


これには妻のキングコブラも苦笑い。自信満々にそんな回答をされたら、そりゃそんな顔もしたくなるよね


だが俺は見逃していない、ツチノコさんとスナネコさんが僅かに眼を合わせたことを。あれはこっちが正規ルートであり、勘ながらもズバリ当てた二人への驚きの感情からした行動だ。…たぶん



*



「おっきな絵がある。これ誰だろー?」

「クジャクちゃんに似てるー」


曲がり角を進み、入り組んだ道を行く中、壁に描かれた絵を見つけた。描かれていたのは、羽根を大きく広げた一人のフレンズ。迷宮の雰囲気を少しでも残そうとしたのか、派手な色は使われていなかった


「まず、これは『壁画』と言う絵の一つだ。壁や天井とかに掛かれたのをそう呼ぶんだ。因みにこれは『四神』と呼ばれる四人のフレンズの一人、『スザク』の絵だな」


「ししん?」

「すざく?」


「パークのどこかにいる凄いフレンズだ」


「どこかってどこ?」


「さぁな、それは分からん。だがいつか会えるかもな?」


「会ってみたい!会う!」


ツチノコさんの解説を、しっかりと聴く二人。俺の頭にも、入ってはぐるぐると廻っている


山のフィルター関連については、進歩はなく現状維持で収まっている。石板から四神を再顕現させること、柱となったセーバルさんを復活させること。色々やってはいるけど、まだそれは残念ながら実現出来ていない。俺の輝きや力がまだ足りないのか、他に何か要因があるのか



例えば、火山の内にあるセルリウムが──



「コウ、喉でも渇いたのか?」


「──えっ?」


「そうなら早めにしておけ。ほら」



背負ってるバックから、ペットボトルを取り出して渡してきたキングコブラ。一口飲んで、喉を潤す。おかげで、余計なことも飲み込むことが出来た


「…ありがとう。すっきりしたよ」


「そうか、良かった。さて、ここも進んでみるか」


スザクさんの絵を背に立つと、視線の先にはちょうど真っ直ぐな道がある。折角なので、奥の道に行く前にここに入ってみようか。何があるかはなんとなく予想は出来たけど


「あれ?行き止まりだ」

「こっちじゃなかった」


案の定、その先に道はなかった。その代わり、テーブルが1つと、その上にはとある物が置いてあった


「二人とも、カードを取り出してください」


「これ?」


「それです。で、これを…こうします」


「あっ!これさっきの絵と同じだ!」


「『スタンプ』って言うんです。これを全部集めて出口までに辿り着くと、素敵な特典が貰えるんですよ」


「特典ってなぁに?」


「それは出口までのお楽しみです。頑張ってくださいね」


「がんばるー!」

「やるぞー!」


テーブルの上にあったそれは、スザクさんのスタンプ。掠れることなく綺麗に押されたそれを、嬉しそうに眺める子供達。俺達も同じく押して、出口ではなく次のチェックポイントを目指すことにした


因みに、今回のスタンプラリーの空白は全部で5つ。四神全員はおそらくあるとして、最後の1つはなんだろうか?


「懐かしいだろ?」


「そうだね。俺達が初めて来た時のことを思い出したよ」


「もう随分前のことになったな」


「あの時も楽しかったですね~」


もう10年近く前になるのか。あの時はゴールのスタンプしかなくて、フレンズの壁画なんてなかった



『いつか、皆で一緒に遊べるといいね』



こんな台詞を、あの時に言った記憶がある。皆も覚えていたようで、俺達は眼を合わせて微笑んだ。それの実現は、もう少しで叶いそうだ



*



そこからまた休憩を挟みながら、ぐねぐねと曲がっては進んでいく


途中、四神の『ビャッコ』と『ゲンブ』のスタンプを見つけたので、これも綺麗に押しておいた。ビャッコの拳を前に突き出しているポーズと、ゲンブの指を差すポーズ、どちらも子供達は得意気に真似していた



「…コウ」

「…いるね」

「あぁ、あの角の向こうだな…」



次に向かうところで、心配していたことが現実になってしまった


少し先にある角の道から、がこちらに向かってくる気配を感じる。スナネコさんも気づいたようで、子供達を守るようにさりげなく後ろに下がらせた


「さっきの道から廻ってこれる。頼めるか?」

「勿論。任せといて」


何処からか入り込んだのか、それとも見落としてしまっていたのかは分からない。ここでやるべきことは、子供達にそれの存在を気づかれずに処理すること。その条件を満たすには、手早く、音を立てずに片付ける必要がある。時間はかけていられない、早速やってしまおう


「…あれ?パパがいないよ!?」

「えっ!?パパ迷子になっちゃった!?」

「どうしようママ!」


「ふむ…仕方ない、少し戻ろう。寂しがってるだろうから迎えに行ってやろうな?」


「うん!」

「行く!」


微かに聞こえてきたのは、流石俺の妻と言わざるを得ない会話。上手いこと遠ざけてくれた。これで音はある程度心配しなくて良くなったけど、念のため足音を立てないように、超低空飛行でそれの元へ



『グモモ』

『グムム』

『グンン』



そこにいたのは、微生物のゾウリムシを模した緑色のセルリアン三体。ふよふよと空中でうねりながら俺の出方を伺っている


「あんまり派手に出来ないから、これを使うか」


サンドスターで軽めのハンマーを作り、プラズムで蛇の牙を作る。それから滲み出る毒を霧状にして、ハンマーの片面に軽く吹き掛ける。これで、お手軽な毒属性の武器の完成だ


『グモモモモ!!!』


「よっ…と」


向かってきたセルリアンを叩き潰すのではなく、毒の面でそいつの顔をコツンと軽く叩く。後ろにスタンバイしてた2体にも同じことを素早くする


小突かれたそいつらは、特に何事もなかったかのように俺に向かってきた。当たり前だ、身体が砕けたり動けなくなったりしていないのだから



けど残念、もう終わってるよ



『グモッ…!?』



俺に攻撃を繰り出そうとした瞬間、そいつらの動きは止まった。身体がブルブルと震え、苦しそうに悶えだし…


パカァーン!と、いつも通り呆気なく砕け散った


「うん、上々上々」


俺の毒は、セルリアンにも効く致死性の猛毒…だと説明された。フレンズや人相手に使ったことはないけど、結果がこう出ているからそうなのだろう


そして効果はご覧の通り。敵を麻痺させ、内部に浸透し、内から破壊する。対象の大きさや状態、毒の量によって効き目や速度は変わってくるけど、小型のセルリアンなら数秒でパカァーンだ


実は数年前から使えるようにはなっている。暴発を防ぐために、皆で内緒で修行したのだ。黙っていたのは言う必要も使う気もなかったから。知っているのは一部の子達だけだ


今やそれも、過去の話になってしまったわけだけど…今それはいい、早く皆の元へ行こう



*



「パパ見つけたー!」

「探したんだよー!」


「ごめんごめん、ありがとな。カード落としちゃってさ」


「パパおっちょこちょい!」

「ポケットにちゃんと入れてね!」


「はーい」


何事もなく無事合流。トウヤとシュリから注意を受けて、迷宮攻略再開だ


「目的のやつだったか?」

「目的のやつだった。ちゃんと倒してきたよ」


ヒソヒソと耳元で囁くキングコブラに、同じように返事をする。子供達にいらない不安や心配は与えたくないからね


「パパとママ、ないしょ話してる」

「なに話してるのかな?」

「ありゃ今日の夕飯のことを考えてんだろ」

「決まる前にリクエストしちゃいましょう」

「スパゲッティの!」

「ナポリタンがいい!」


「だ、そうだ。どうする?」

「そうだね…それに決定!」


「「いえーい!」」


コンビネーション抜群のハイタッチ。ありがとうツチノコさんスナネコさん、機転を利かせてくれて助かるよ


さっきのこともあって、俺達は警戒心全開で歩いていく。もちろん、そんなことを子供達には悟られないよう気を付けながらね


「あっ!へきががある!」

「じゃあここにあるね!」


描かれていたのは、四神最後の一人『セイリュウ』だ。腕を組んだポーズで凛と立っている


「これで4こ!」

「あと1こ!」


「もう少しですね。頑張りましょう」


これで、四神のスタンプはコンプリートだ。最後の1つが昔と同じ場所にあるとしたら、あとはゴールを目指すだけだ


「あれ?ここ来たような…」

「戻ってきちゃったの?」

「たぶん。あそこ左だったのかも」

「なら戻ろ!競争しようよお兄!」

「よーし!負けないぞー!」


同じ道を歩いたり、元の場所へ戻ってきたり。次はこっちで今度はあっち。行きたい方向を自分達で考えて走る二人の後ろを、俺達は置いていかれないように着いていく



そして──



「ねぇ、あそこ!」


「どうやら、あれが出口のようだな」


「やったー!ついたー!」


日の光が差し込み、微かに外の匂いが漂ってくる。ようやく、俺達はたどり着いたようだ


「昔とは違う出口だな」


「本来の出口だからなここは。あれを取り除くの本当に苦労してたな」


「あれはね…」


「あぁ…あれか」


出口付近に固まっていた、セルリアンの残骸とも言える塊。どうやって退かしたかというと、俺達守護けものによるゴリ押しだ。力をこれでもかと使ってやったよ


「あっ!これスタンプだ!」

「2つある!一緒に押そ!」

「うん!」


出口のすぐ傍にあったのは、中のチェックポイントと同じテーブル。ぴょんぴょん跳ねる二人を持ち上げて、最後の空白にせーので押した。最後のスタンプは、ラッキービーストと『ゴールおめでとう!』の文字が入ったものだった


「にしても、よく最後まで自力でやれたな」


「僕、とっても驚きました」


本当にそう思う。昔体験した時よりも道が増え、複雑怪奇な代物になっていたのに、ツチノコさんとスナネコさんは最後までヒントすら言うことはなかった。迷いこそしたが、出すほど詰まった場面はなかったということだ


「皆お疲れ様ー!どうだった?」

「楽しかった!」

「スタンプ集めた!」

「あらぁおめでとう~。プレゼントはさばくちほーの特製ジャパリまんだよぉ~」


「「ジャパリまーん!」」


早速かぶりつく子供達。これも二人が頑張った証。帰ったらまた褒めてあげて、デザートにケーキでも作ってあげようかな



*



スタッフへ今日あったこと、体験して思ったことを一通り伝えて、今日の俺の仕事は終わり。セルリアンのことをどれだけ重く受け止めるのか、これからここをどうするのかは、向こうが上と相談して決めることだ。個人的には、もう少しだけ伸ばしてもいいとは思うけど…あとは頼んだよ父さん、母さん


「今日はありがとう。たまには皆でろっじに来てよ」


「気が向いたらな。んじゃ、気をつけて帰れよ」

「また遊びましょうね?」


ツチスナコンビに見送られ、ラッキーさんの運転するバスでさばくちほーを後にする。帰りも安全運転で頼みますよ?


ガタンゴトンと少し揺れる車内で、シュリがキングコブラの膝枕で寝ている。彼女も、外を眺めているトウヤも、寝落ちまであと数秒もかからないだろう


「トウヤ、おいで?」


「ん…」


妻の横に座って、トウヤを寝かせて膝枕。これでこの子は夢の中、妻も頭を俺の肩に乗せ身体を預けてきた


「…お疲れ様、皆」


あくびをして、三人の頭を一撫で。静かで可愛い、心地よい寝息がよく聴こえてくる


ろっじに着いた時、一番始めに起きるのは、果たして誰になるだろうね?

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